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選別と雲海

「そんなに熱心にサメを見て、何か違いがあるんですか?」

気づいたら僕は、彼女に声をかけていた。

見ず知らずの女性に声をかけることなど僕にとっては初めての経験だったが、一つのためらいも違和感もなく言葉が口から滑り出た。

ため息交じりに「ええ」とこたえ、「目が、違うんです」と彼女は続けた。

目が違う?

鉄かごに収納されたサメの縫いぐるみは、当然に同じ材料を同じ量使って、機械的に作り上げられているはずだ。

目も例外ではなく、どれもツルりとしたプラスチックが両側面にはめられているにすぎない。

「僕にはどれも同じに見えるけど、目の、何が違うの?」

彼女は初めて縫いぐるみを選り分ける手を止め、真っすぐに僕と目を合わせた。

ぐわりと視界が揺れ、足元がこんにゃくのようにぐにょりと歪んだように感じた。

すぐに異常は収まり、彼女を見るとサメの選別を再開するところだった。

「目ってすごいのよ」

彼女は起伏の無い声でいう。

「目が世界を作っているの。だってそうでしょう?もしこの世界に、目が一つもないって考えてみて」

目が一つもない世界。

それはどんな世界なんだろうか。

僕はあまりに素直にその問いに向き合い、袋小路に迷い込んだ心持ちになった。

「どう?わかった?目が一つもなかったら、そもそも世界は存在しないの」

「いや、目が見えなくたって手で触れれば確かに世界はそこにある。そもそも生まれつき目が見えない人もいるけど、その人にも確かに世界はあるよ」

僕は真剣に反論した。不思議と彼女の主張を否定したいと躍起になっていた。

「手で触れるのも、そもそも目が見えない人がいるっていうのも、先立って目で見ていることが前提になっているのよ。世界に一つも目がないなら、どちらも存在しないの」

彼女の言葉には含蓄のある、ごもっともな筋を感じたが、それが全体として何を指し示し、どんな意味を持つのかは判然としなかった。

「ほら」

そういった彼女の左手には一つのサメの縫いぐるみが握られ、それは僕に差し出されていた。

嫌な予感がした。

摩耗する靴底のように、気づかず徐々に重要な機能を失っていくような不安が眼前にそびえている。

しかし僕は、そのサメの縫いぐるみを受け取り、目を覗き込まないわけにはいかなかった。

その目の奥には広い雲海が広がり、星々は一番を競い合うように鋭く輝いていた。

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