表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第一部 始まりの光ー第二章 出会い
8/22

8.続く音

◆続く音◆


あっという間に、次の金曜日はやってきた。

この間と同じスタジオDの扉を開けた。


「おつかれさまです」


遥はぺこりとお辞儀をしながら挨拶した。


「おつかれさま。今日もよろしくね」


ユキが白いギターを調整しながら、淡々とした口調で言った。

晃以外は、みんな来ている。


遥は、ベースを出して準備を始めた。

そこへ今日も長髪がきれいに整った瞬がやってきた。


「この間から気になっていたけど、国東さんのベース左利き用なんだね」


遥のベースを珍しそうに覗き込む。胸まである黒髪がさらりと揺れた。


「はい。なりゆきというか、安かったから……」


「はははっ! なんだそれ!」


ドラムを調整していた哲央が笑った。


「だけど、ちょっとカッコいいでしょ?」


「確かにかっけー!」


「あとで、少し触らせてもらってもいい?」


瞬がそわそわしながら言った。


「うん。いいよ」


ユキは三人を一瞬見たが、そのまま調整を続けた。


遥の準備が終わると、ユキが口を開いた。


「さ、音を鳴らしてみよう」


ユキが軽くカウントを取る。

遥は深く息を吸い、弦に指をかけた。


低い音が、床を這うように鳴る。

すぐに、瞬のギターがその上に重なった。

その隙間に、ユキのギターが静かに入る。

コードはまだ探るようで、整いきってはいない。


哲央のスネアが、一定の間隔で刻まれる。

前回より、ほんの少しだけ安定している。


(……続いてる)


遥は思った。

前みたいに、すぐには切れない。

音が、次の音を呼んでいる。


スタジオの空気が、ゆっくりと動き出した。

そのとき――。


――ガチャ。


重い扉が開く音がした。


一瞬、誰かの音がよれた。

それでも、演奏は止まらない。


「わりー。遅くなった」


晃の声だった。


ユキは振り返らず、弾き続けたまま言った。

「いいよ。そのまま」


晃は、しばらく壁際で立ち尽くしていた。

マイクスタンドをそのままにして。



◆はじまりの一歩◆


晃を壁際に残し、遥たちは楽器を弾く手を止めない。

一瞬乱れた音も、いつしか元の重なりに戻っていた。


(あぁー、気持ちいい……)


とにかく今はずっと弾いていたい、音を鳴らし続けていたい。

遥は夢中で左手で弦をはじき続けた。


遥の視界に晃が入った。

ゆっくりとマイクスタンドに近づいて、高さを調節し始めている。

ちらりとユキを見たが、気にする様子もなく白いギターを弾き続けている。


晃は、マイクスタンドに手をかけたまま、しばらく動かなかった。

それから、ほんの小さく息を吸う。


「……あー」


音というより、息に近い声だった。


遥は、心臓が跳ねた。

でも、気づかないふりをしてベースを弾き続けた。


晃の、旋律とも言えない音が、コードの隙間に滑り込む。


「らら~ら~」


ユキのギター。

瞬のギター。

哲央のドラム。

遥のベース。

そして、晃の声。


今、音がひとつ、増えた。


(……戻れない)


この瞬間、一歩踏み出そうと上げた足が、地面に着いた気がした。


(私、今、自分の選んだ道を歩いてる……)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ