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MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第一部 始まりの光ー第三章 始まりの音
15/22

14.Luna Dive

Luna Diveルナダイブ


――正式なタイトルはどうする?


瞬の言葉に、スタジオの空気が静まった。

全員の視線が、自然とユキに集まる。


ユキは、録り終えたばかりの“音”を見つめたまま、少しだけ間を置いた。


「……月に、飛び込んでみるのはどうかな」


 一瞬、誰も言葉を挟まなかった。


「月に?」


 遥は、思わず聞き返す。


 ユキは、ゆっくりと視線を上げる。


「安全なところから眺めるんじゃなくて」


そして、少し言葉を探すように間を置いてから続けた。


「ちゃんと、踏み込む」


「……月って、あれか」

 

晃と哲央が同時に、何かに気づいたような顔をする。


「ライブハウス、だよな」


瞬が小さく笑った。


「デモテープ送るなら、MOON BOX(ムーンボックス)だよね」


その名前が出た瞬間、遥の胸の奥が、じんわりと熱を帯びた。


(私が、初めて行ったライブハウス)


 DOLL THEATERに出会った場所。

 音に救われた夜。

 ステージを、初めて“羨ましい”と思った場所。


(……あそこに、立ちたい)


気づけば、その思いはもう、願いではなくなっていた。


「Luna Diveルナダイブ


ユキが、はっきりと口にする。


「いいじゃん。かっこいい」


晃が即座に言った。


「ユキらしい名前だな」


瞬も頷く。


「俺たちの一歩目には、ちょうどいい」


哲央は、もう先を見ている顔だった。


全員の視線が、自然と同じ場所を向く。


MOON BOX。


まだ立ったことのないステージ。

けれど、確かに目指す場所。


「……みんなで、飛びたいな。月に」


遥は、ゆっくりと言った。


ユキは何も言わず、MDを手に取る。

マジックで、迷いなく文字を書いた。


『Luna Dive』


 黒いインクが乾くのを、遥はじっと見つめていた。


 ――もう、戻らない。

 これは、最初の飛び込みなんだ。



◆同じ名前◆


デモテープをMOON BOXへ送って、少し経った梅雨に入った頃。


返事は、思っていたより早く届いた。


「ブッキングライブに出演できることになったよ」


スタジオDに全員が揃ったところで、ユキは告げた。

一瞬の沈黙のあと、空気が一気に弾けた。


(……え)


遥は、その場に立ったまま、うまく息ができなかった。


(ついに、ライブができる……?)


胸の奥で、鼓動が早くなる。


「どんなライブに出られるんだ?」


晃が期待に満ちた顔で聞く。


ユキは、珍しくはっきりとした笑顔を見せた。


「イベント名は、Luna Diveルナダイブ!」


「……え?」


「同じなんだよ。イベント名と曲名」


遥の心臓が、さらに強く打った。背中に、じわりと汗が滲む。


「なんだそれー!」


晃は大げさに声を上げる。


「出来すぎだろ、それ!」


「名前が一緒って……」


瞬は、腕組みして震えるのを隠した。


「こんな偶然もあるんだな」


哲央は静かには言った。


「若手が多い、ヴィジュアル系のイベントだって」


「……ライブ、はいつ?」


遥は、自分でも驚くほど小さな声で聞いた。


「3か月先」


ユキは一度、遥に視線を向けてから、みんなに続ける


「それまでに、もう数曲、曲を増やす予定」


(3か月後……あのムンボで)


頭の中で、その言葉だけが反響する。


MOON BOX。

初めて音に救われた場所。

憧れて、見上げていたステージ。


(……まだ、信じられない)


みんながはしゃぐ声が、少し遠くに聞こえた。


(私に、できるかな)


(立って、いいのかな……)


遥は、その場から動けずにいた。


音も言葉も、まだ身体に追いついていなかった。






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