13.デモテープ
◆デモテープ◆
遥がスタジオDの扉を開けると、空気がぴりりと張りつめているのがわかった。
今日は、初めてのレコーディング。
ライブハウスへ送る、デモテープ用の音を録る日だ。
LUMINOUS。
その名前が、スタジオの空気を少しだけ変えていた。
ユキと瞬は、すでに機材の前でてきぱきと動いている。
哲央はドラムのチューニングに集中し、晃はのど飴を転がすように舐めていた。
遥は、自分だけが場に追いついていない気がして、何度もハンカチで手汗を拭いた。
(……上手く弾けなかったら、どうしよう)
胸の奥に、嫌な考えが浮かぶ。
(また、居場所を失う……)
そのとき、ユキと目が合った。
「遥、チューニング終わった?」
「え、あ……まだ……」
慌ててベースケースに手を伸ばす。
取り出そうとしたチューナーが、指から滑り落ち、床を転がった。
「慌てないで」
ユキがしゃがみ込み、チューナーを拾って差し出す。
「ありがとう……緊張しちゃって」
「そうだね。でも、いつも通りで大丈夫」
その一言で、胸の奥のざらつきが、ほんの少しだけ和らいだ。
遥のチューニングが終わると、いよいよレコーディングが始まった。
スタジオ備え付けのミキサーから、MDレコーダーへ直接録音する。
取り直しはできる。
でも、“一発目”は一度きりだ。
晃が、大きく息を吸う。
「いくよ」
瞬の声が落ちた。
テイク1
哲央のドラムが、わずかに走った。
(あれ……私、遅れた?)
遥は置いていかれまいと、必死に指を動かす。
瞬のギターが、ほんの少しだけ遅れる。
ユキは、淡々と弾き続けている。
晃の声が、サビ前で一瞬、迷った。
曲が終わっても、誰もすぐには口を開かなかった。
「……今の、少し違う」
ユキの言葉に、全員が小さく頷いた。
テイク2
晃の声が、さっきより前に出た。
ユキと瞬のギターが、滑らかに絡む。
遥は深く息を吸い、指を動かした。
気づけば、呼吸をするのも忘れて弦を弾いていた。
指の感覚は、ほとんど残っていない。
それでも、音は続いている。
哲央のドラムが、全員を下から支えていた。
録り終わり、再生ボタンが押される。
流れてくる音は荒い。
バランスも、決して良いとは言えない。
けれど――
「これって……俺たちの音だよな」
哲央が、確かめるように言った。
「うん」
ユキが、静かに頷く。
「……LUMINOUSだ」
「よっしゃー!」
晃が叫び、勢いよくハイタッチを始める。
パチン、と手に刺激が走った瞬間、
遥はようやく、レコーディングが終わった実感を得た。
(……できた)
両手を、ぎゅっと握りしめる。
「なあ、ユキ。この曲、仮タイトルのままだよな」
瞬が言った。
「正式なタイトル、どうする?」
一斉に、視線がユキへ集まる。
ユキは、しばらく黙ったまま、録音された“音”を見つめていた。
そして、静かに口を開く。




