12.持ち寄られた曲たち
◆持ち寄られた曲たち◆
柔らかな日差しが降り注ぎ、コートがいらなくなった。この頃には、金曜日にスタジオDにいるのが当たり前になっていた。
遥がいつもより早くスタジオ入口に来ると、ちょうど瞬も着いたところだった。
そして案の定、ユキはもう来ていてペグに弦を巻き付けながらチューニングをしていた。
「ユキ! 俺も曲作ってきたよ」
「いいね。聴かせて」
ユキはチューニングの手を止めることなく瞬を見た。
「ちょっとみんなが来る前に感想を聞かせてほしくて」
(あ、私いてもいいのかな……)
なんとなく隅の方に行って、遥はベースを出して磨き始めた。
瞬はギターを出して手際よく準備を始める。
ユキはチューニングを終え、ギターを壁に立てかけると瞬の側に行った。
「……弾くよ」
瞬は息を吸ってから、弾き始めた。
「どうかな?」
「うん。……いいと思う」
まっすぐに瞬を見つめてユキは言った。
「あり……がと」
言いかけた瞬間、扉が開いた。
「おつー!」
晃と哲央が入ってきた。
「お、ギター二人で何かしてた?」
哲央が言うと、瞬は目を輝かせた。
「俺も曲を作ってきたんだ!」
「いいね! 聴かせろよ」
「うん。みんな聴いて」
瞬はギターを持ち直すと、みんなの前で弾いてみせた。
長い黒髪が音に合わせて揺れる。
遥は、瞬の音に耳を傾けた。
「瞬、いい曲じゃん」
晃がにっと笑った。
「また俺が歌詞を書くぜ!」
「ああ、頼むよ!」
「優しい気持ちになれる曲ですね」
「遥、ありがとう」
遥の言葉に、瞬の顔が明るくなった。
「また曲、持ってきた。二曲」
白いギターを持ったユキが静かに言った。
ギターを構えると、そっと音を出した。
一曲目は、ポップなロックナンバー。
哲央は、軽くスティックでリズムを取っている。
二曲目は――、みんな息を飲んだ。
瞬は、拳を握りしめ体を震わせていた。
(きっと、みんな思ってる。ユキくんと一緒にいれば何か見つけられそうだって)
遥も、晃も哲央も、ただじっと聴いていた。一音も漏らさぬように。
ユキは静かに弾き終えた。
みんな拍手をした。
「ユキ、凄くいいよ。鳥肌たった」
哲央は興奮気味に言った。
「さすがユキだな」
瞬はユキの背中を軽く叩いた。
「もうさー、4曲オリジナル曲あったらライブできそー」
晃が何気なく言った言葉に、一瞬、だれも言葉を出さなかった。
「出ようか」
ユキは言った。
◆揺れる光◆
「え! ライブハウスで演奏するってこと!?」
遥は思わず叫んだ。
「マジ!?」
晃は興奮した声で、ユキに言った。
「うん。今回持ってきた曲が完成したら出よう」
「俺、カッコいい歌詞、書いてくる!」
「ああ、頼むよ」
「そしたら、そろそろバンド名、決めないか?」
哲央がみんなに向かって言った。
「はい! はい、はい! 俺、考えた! デカダンス、どうよ? カッコよくない?」
「うーん、悪くはないけど……、バンド名は宿題にしないか?」
瞬は晃をなだめた。
「そうしよう。みんな考えてきて。曲のパート部分もね」
遥はじっとユキを見た。相変わらず淡々と話しているが、目の奥が輝いている気がした。
(ユキくん、なんだか楽しそう)
「3曲に、バンド名に、やることたくさんだね」
遥は、手をぎゅっと握った。
◆宿題の答え◆
金曜日。
遥はベースケースを背負い、目を擦りながらスタジオDを目指した。
なかなかハードだった。仕事から帰ってきてベース練習とベースのフレーズ作り、正直まだまだ正解はわからない。それでも楽しくて仕方ない。
「よっ、遥。お疲れ」
「あ、哲央くん。お疲れ様」
(呼び捨ては、まだできないや。いつかそんな日がくるかな)
「今週、宿題多かったな」
「だね。でも楽しい宿題だった。ちゃんとできているかはわからないけど」
「俺も楽しかった! 個人練習で何度もスタジオに入ったよ」
「えらい!」
スタジオDに着くと、みんなそわそわしていた。
ユキは白いギターを肩にかけた。
「全員揃ったし、まずは宿題だった曲たちをやろう」
哲央がスティックを打ち鳴らし、演奏がスタートした。
最初の音は、少しだけ噛み合わなかった。
それでも、演奏はどんどん先に進む。
誰かの音に、誰かが合わせた。
晃はメロディーに、声を乗せた。
遥は、夢中でベースを鳴らす。気が付いたら、指が勝手に動いていた。
ユキは、少しだけ弦を強く弾いた。
音が止んで、しばらく誰もしゃべらなかった。
「ふー」
晃が息をついた。
「なんか、すげー一体感あったな」
みんなが頷いた。自然に笑顔がこぼれる。
「なあ、次の宿題、俺たちのバンド名、そろそろ決めよう」
瞬がギターを置きながら言った。
みんなで円になって座った。
「それじゃあ、順番に考えてきた名前を言っていこう」
瞬が言うと、ユキがすっと手を上げた。
「……LUMINOUS。光を放つ、輝くって意味。どうかな?」
淡々として、でも力強い声だった。
「ルミナス、光を放つ……、素敵……」
遥は呟いた。それに、瞬も頷いた。
「これから輝くバンドってことだろう? いいんじゃないか」
哲央が言った。
「俺は、デカダンスも良かったけど、ルミナス、光を放ちまくってる俺にぴったりだと思うから、よし!」
「俺たち……ルミナス、だね」
ユキは、そう言うと手を広げ腕を前に出した。
瞬は、すぐに手を重ねた。
遥が、哲央が、晃が、みんな重ねた。
「ルミナス!」




