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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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99 取り込んじゃった!?闇属性の吟遊詩人!?






 黒い闇に満たされた神殿が、僕たちを丸ごと飲みこんだ。

 古の淀み――原始の魔物が、壁も床も天井もひとつの“影”として溶かし、境界を奪っていく。


「カゲミ……カルマ……っ!」


 手を伸ばしたときにはもう遅かった。闇の波がふたりの足元を這い上がり、影をぐん、と底へ引きずりこむ。


「くそっ……離せ!オレの影を返せよッ!」

 カゲミが必死にもがくが、飲まれかけた影がじりじりと闇へ沈んでいく。


「や、やだ……っ!セオト兄ちゃん……!」

 カルマの声は、水底から響くみたいに震えていた。


「待ってろ!すぐ助けるから!絶対に離れないで!」

 叫び返した僕の声すら、闇に吸われて消える。光が溶け、音が砕け、息を吸うたび胸の奥がひりついた。



「……セオト、落ちついて」

 隣でセリアンがそっと肩に触れる。闇に染まりつつあるのに、その瞳だけは底知れないほど静かだった。


「ふたりとも完全に飲まれたわけじゃないよ。“境界”にいる。まだ助けられる位置だよ」

「……本当に……?」

「もちろん。だから――急ぐよ」



 セリアンが竪琴を構えた瞬間、闇がびくりと震えた。“その音を聞くのが怖い”とでも言うように。原始の魔物が、こちらを睨むように形を歪める。


「みんなをそちらに連れていくつもりなら……覚悟してもらおうか」

 セリアンの声は穏やかだが、底に硬い決意が宿っていた。


 影の底から、不気味なざわめきが広がる。


 ――――来ルナ!吟遊詩人!……アアア、影ノ子……水ノ子……。

 闇がさらに深くうねり、カゲミもカルマも中心へと引き寄せられていく。


「渡さない。ふたりとも……必ず連れ戻す!」

 僕は覚悟を決めた――はずだった。



 だが。

 結論から言うと、セリアンは闇より深かった。


「私の影は暗いかい?」

 静かな声が闇の底を震わせる。


 セリアンの足元から広がる影が、原始の闇を拒むように揺らぎ、古い記憶を呼び覚ますようだった。


「キミは過去の記憶なんだよ……」

 闇に向けて、セリアンは静かに告げる。

「なら、私が古の歌にしてあげよう」

 その声音は、優しくて、冷たくて、どこか悲しい。


 ――――グガガァァ!


「うん、くやしいんだね。置き去りにされたんだもの」

 セリアンは、泣きじゃくる子どもに語りかけるみたいに落ち着いた声で続ける。


 原始の魔物が悲鳴とも咆哮ともつかない声をあげ、神殿全体が震えた。石壁に染みこんだ影が波紋のように揺れ、空気は重く押しつぶされる。


「キミを取り込んじゃってもいいかな?」

 セリアンが弦に触れる。かすめた指先からほの青い光が溶けだし、淡い旋律が漂い始めた。


 その音色は――闇を否定しない。拒まず、傷つけず、ただそっと寄り添う。。竪琴の響きが、原始の闇の奥に染みこんでいく。


 セリアンの影が静かに広がり、原始の魔物の触手と重なっていく。ぶつかり合うのではなく、溶け合うように。古い記憶が呼び起こされるように、神殿の空気がひやりと静まった。


「セリアン、闇深いねぇ。めんどくさいけど……やるな!」

 ミラが口笛を鳴らす。セリアンはちらりと視線だけ向けた。


「はい、私はめんどくさいですよ。どうやら“闇属性”らしいので。だからこそ、調律できる。闇も歌えば少しは素直になるんです」

 さらりと言うその声は、不思議と誇らしげだ。



 ――――グギギィィィ、チカラ、吸引サレル……!

 原始の魔物が揺れる。竪琴の音に惑わされたように形を保てなくなっていく。


「素直……なのかな、あれが?」

 ミラが眉を上げる。

「怒ってるだけの子ほど、歌えば泣き止むでしょう?」

 セリアンは闇の中心で微笑む。


 竪琴の音が一段深く響いた瞬間――

 闇が、波のようにセリアンへ押し寄せる。だが、彼の足元から広がる影の膜が、それをなぞるように受け止めた。


「……やっぱ、弟子がいちばん怖いんじゃない?」

 ミラのぼそっとした声が闇に響いた。


「師匠、聞こえてますよ」

 セリアンは竪琴の音を止めずに微笑んだ。闇のただ中で、その微笑みだけが静かに浮かびあがる。優しいのに、冷たくて、どこか底が見えない――そんな光。


「フフ。闇の吟遊詩人か。……ほんとに良い歌だよ」

 ミラが肩をすくめる。原始の魔物より弟子のほうが手強い気がして、背筋が震えた。



 闇の中心で、セリアンが息を吸う。弦が震え、音が“影”となって広がった。低く、深く、静かな――しかし心臓に触れるような和の響き。それが闇を舐めるように撫でていくたび、原始の魔物がびくりと震えた。


 ――――アア……アアア……!


「ほらね。闇って案外、歌に弱いんです」


 セリアンはさらりと笑う。その表情は深淵の光だ。


「闇は闇のままじゃつらい。原始の記憶も、誰かに“名前”をもらえなければ、ただの苦しみだから」


 音が一段深くなる。神殿の空気が、まるで古い水底がひらかれたみたいに揺れた。


 ――――イ、イヤ……名ハ……要ラヌ……!


「いいや。ほら、聞いてごらん」


 セリアンの影が、闇と重なりながらゆっくり動く。闇の触手が影に触れるたび、苦しげだった声がすこしずつほどけていく。


「君の“はじまり”を歌にする。闇だったものが、過去だったって思えるように」


 ――――グ……ガ……ァァ……。


「大丈夫だよ」

 竪琴の音が柔らかく波打つ。

「置き去りにされた記憶は、ちゃんと“物語”になれるんだ」


 その言葉に、闇の震えがすっと静まった。長い苦悶の中で、誰にも触れてもらえなかった傷が、ようやく呼吸を取り戻すように。


「さあ、帰ろう。きみの淀みは——古の歌へ」


 最後の一音が、神殿の闇を貫いた。刹那、黒い波がぱあっとほどけて光に染まり、カゲミの影とカルマが解放される。


「っ……はぁ、戻った……!」

「セオト兄ちゃん……!」


 ふたりの姿を見て、僕はようやく息ができた。隣ではミラが腕を組みながら、涙目でぼそりとつぶやく。

「……いい歌だったよ、セリアン。闇属性とか言ってたくせに、めちゃくちゃ優しいじゃないか」


「属性と性格は別ですから。それに――」

 セリアンは竪琴を抱えたまま、すこし照れたように目を伏せる。


「転スイして日本で多様な音楽に触れましたからね。私、吟遊詩人として……ほんとうに覚醒したみたいです」

「こりゃあ、世界デビューだね」

「はい。まずはこの神殿から、ですね」


 そして、和のダークテイストな調べがそっと神殿に満ちる。

 原始の淀みは、その歌に包まれ、静かに、深海の底へ沈むように落ち着いていった。揺らめく闇がふっとほどけ、歌に寄り添うように形を変える。


 まるで「帰る場所が見つかった」と言わんばかりに、あの暴れる気配がやわらいだ。













 ――さて、影巫女の神殿編、いかがでしたでしょうか。


 ……という作者挨拶の裏で、ひとりの男が座りこんでいる。


「なぁ……ワイ、今回なんかしたっけ?」


 タリクが床に落ちた自分の影を見つめてぼそりとつぶやく。

 その横で、仲間たちが気まずそうに目をそらす。


「いや、その……タリク? ほら、応援とか……してたよね?」

 僕、セオトが気をつかって声をかける。


「してねぇよ!!」

 タリクが即答する。

「応援って……俺は声だけのモブなのか!? 気づいたら闇に飲まれてて、気づいたら終わってて……!」


 セリアンが静かに肩をすくめる。

「タリク、安心しなよ。私も原始の淀みと歌で会話してただけだし」


「だから! そういう“かっこいい見せ場”があるだろ!」

「ぼくも飲みこまれました……」とカルマ。


 タリクはうなだれた。

「いいなぁ……飲み込まれるくらいの出番は欲しかった……」


 そこへカゲミが、ぽんぽんっと肩に手をおく。

「タリク。おまえは……まぁ……うん。いいやつだよ」


「慰めになってねぇ!!」


 神殿の闇は祓われたが――

 タリクの心の闇だけは、まだ浄化されていないらしい。








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