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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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96 怖がらせちゃった!?“視線”のハツユリ!





 穴の奥から感じた“視線”が、ふっと霧散する。代わりに、神殿の空気が急に澄んだ。青白い光がふわりと舞い上がり、僕たちの足元をめぐるように漂い始めた。


「……おい、影が動いてるぞ」

 カゲミが僕の袖をつかむ。

 影だけじゃない。霧も、光も、空気そのものがゆらゆらと揺れ――ひとつの形をつくり始めていた。


 白い布をまとい、長い髪が水面のように揺れる影。輪郭は淡く、けれど気高さだけは失われていない。

 ――その存在は、静かに姿を成した。


「……嘘でしょ……!」

 みんなが息を呑む。タリクでさえ記録板を落としそうになっていた。


 そこに立っていたのは――。

『はじめまして。窪底川村、初代影巫女――ハツユリと申します』

 彼女の足は地についていなかった。淡い光の粒が衣の裾から地面へこぼれ落ちていく。


「……ハツユリ、様……?」

 かすれる声が自分のものだと気づく。


『……なぜ、おびえるのです?』

「えっ……と、その……すみません?」


 幻影はゆっくりと顔をあげ、こちらを見てニコリと笑う。月光のように静かな瞳は、どこか懐かしさを帯びていた。

『ふふっ――よくここまで来てくれましたね』

 その声は空気ではなく、胸の奥に直接溶け込むように響く。


「は、話してる……?」

 カルマが震える声で呟いた。

『私がこわいの?魔物くん』

 その視線がカルマに向いた瞬間、彼は汗だくで固まった。……わかるよ、カルマ。僕でも正直ちょっと怖い。


「こ、怖いなんて……そんな……!」

 強がる声と、ぷるぷる震える膝。


 ハツユリはふわりと表情を緩ませた。

『大丈夫。あなたを傷つけたりはしませんよ。あなたは“恐れの影”を多く背負っていますね。でも――』


 白い光がカルマの足元をそっと撫でた。それだけで、彼の震えがほんの少しだけ和らぐ。


『恐れは、あなたを責めるためのものではありません。あなたが“生きてきた証”ですから』


「……証……」

 カルマの喉が、小さく鳴った。彼の大きな瞳が、ほんの少しだけ幻影をまっすぐ見られるようになっていた。


 カゲミは、じっとハツユリを見ていた。まるで、自分の源流を確かめるように。

『影巫女の力が、千切れかけています。この地にはいま、影の“古い淀み”が戻ろうとしているのです。』


「古い……淀み?」

 ツバネが小さく息を呑む。


 ハツユリの視線が、そっとカゲミへ向いた。

『あなたの影――ずいぶんと揺らいでいますね、カゲミさん』


 カゲミの肩がわずかに跳ねる。

「……オレは、揺らいでなんか――」

 言い返そうとするが、声が震えてしまった。


『大丈夫。揺らぎは変化でもあります。あなたが“自分の影”を選ぼうとしている証』


 その言葉に、カゲミは唇を噛んだ。ハツユリの気配が、今度は僕へ向いた。


『セオトさん。祠の魔物、ササメがあなたを攫ってしまいました。……ごめんなさい。あなたは水の記録者。だから巫女だと思ったのでしょう……』


 その言葉に、胸の奥がぴくりと揺れた。

 ――ああ、あの時。

 影巫女を探すように命じられた魔物に……女の子だと間違われて攫われたんだっけ。


「僕はなんとも思ってません。安心してください」

 そう口にしながら、少しだけ視線をそらす。キュリシアに来てから、こういうことって……まあ、たまにあるような……。


「ああ、そういえばあったね、そういうことが」

 ミラさんが素で思い出しちゃった!

「ミラさん、言わなくていいです……!」

 僕は思わず小声で抗議した。


 そんなやり取りもよそに、ハツユリは静かに続ける。


『けれど、影の道を避けることはできません』

 その声音は、一瞬で場の空気を張りつめさせた。

「影の……道ですか?」


『この神殿は――影巫女の記憶庫。私の残した最後の“記録”を、あなたたちに託します』

「記録……?」

 僕がつぶやいた瞬間だった。


 ――ゴォォ……ン……


 低い音が床下から響き、神殿全体が震えた。青白い紋様が壁に浮かび上がる。


『恐れなくても大丈夫です』

 ハツユリの幻影が、そっと僕たちを見渡す。


『記憶とは、本来“水”と同じもの。流れ、巡り、澱み、そして形を変える……あなたたちは今、その源に触れようとしています』

 僕が一歩近づくと、ハツユリの手から光の粒が舞い、胸の奥へ溶けていった。


 霧がほどけるように床の模様が分かれ、細い道が奥へと伸びていく。まるで長い眠りから覚めたように、青の灯りがひとつ、またひとつと点っていく。


「……開いた、のか?」

 タリクが思わず息をのむ。


 カゲミはじっと奥を見つめていた。影が、彼の足元で揺れ動いている。まるで、何かに応えるように。


「カゲミ……?」

「……なんか……呼ばれてる気がする。影が……ざわざわして……落ち着かない」


『あなたの影が“記録”に反応しています。影巫女の力はあなたの中にも流れていますから』


 ハツユリの声が静かに落ちる。カゲミは言葉を失い、影だけが震えていた。

「……オレは、逃げないよ」

 その小さな呟きは、誰よりも強かった。


 ハツユリが、静かに微笑む。

『では――進みなさい。この先で、あなたたちは“影の起源”を知ることになるでしょう。どうか……迷わずに』

 光が強まり、神殿の奥がまばゆい蒼に染まった。そして――幻影の姿はゆっくりと淡くなっていった。


『……影巫女カゲミよ。あなたの影が、どうか正しく在れますように』


 その祈りだけを残して。



 静寂が落ちる。カゲミはしばらく動けず、ただ光の消えた空間を見つめていた。

「……影の、起源……」

 小さくつぶやく。


 僕たちは顔を見合わせ、神殿の奥へとつづく青い道へと視線を向けた。戻れないかもしれない――それでも、不思議と足は止まらなかった。



「……行こう、みんな」

 僕が言うと、ミラさんがにやりと笑った。

「言うと思ったよ、セオト。じゃあ行こう――影の奥へ!」

 勢いよく先頭へ飛び出していく。あれ……ミラさん、スピード出すぎでは!?


「師匠!単独行動はダメだよ!」

 セリアンが慌てて追いかける。


「わかってるって。でもほら見て!床がうっすら光ってるんだよ!?踏むと反応するの、すごくない!?」

 子どもみたいに足元の光を確かめながら進んでいくミラさん。


「だからって前のめりになりすぎなんだよ!」

「心配性だなぁ、セリアンは」

「師匠が心配事を増やすんですよ!!」


 言い合いが反響し、奥の静寂が揺れる。ミラさんのテンションは上がる一方だ。


「セオト、この光、きっと“記録を読むための道”だよ!何百年も前の巫女が残した仕掛けなんて……ロマンしかないよね!」


「ミラさん!落ち着いて!」

 僕が声を張ると、ようやくミラさんが振り返った。

「大丈夫だって。ちゃんとみんなで行くよ」

 そう言いながら、足はしっかり前のめり。セリアンが頭を抱えた。


「……ほんと、冒険向きってこういう人なんだなぁ……」

「諦めろ……」とツバネ。

「諦めたら師匠がどこまででも行っちゃうんだよ!!」


 そのやり取りに、カゲミがぼそっと呟いた。

「……まあ、にぎやかな方が淀みも寄ってこねえし」



 こうして僕たちは、青い光の道へと踏み出した。その先で何が待っているのかも知らないまま。











 じいぃっ――。

 ……わたし、そんなに怖かった?

 ただ、そこに穴があったから覗いただけなのに。


 だってね、ちょっと「見えたから見ただけ」なんだよ。

 それなのに、あんまりみんながビクビクしてるから――つい笑っちゃったわ。


 え?そんなに驚くことだったの?



 でもね。

 みんなが無事でいてくれるなら、わたし、怖がられたっていいの。

 だって、見守るのが影巫女だもの。

 たとえ “視線が怖い” って言われても――。


 わたしは今日も、そっとみんなを見守っています。



 ――初代・影巫女ハツユリ。






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