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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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95 覗かれちゃった!?遺構の古神殿!?






 村を出て半日ほど歩く。川霧が深くなり、足元の草は白く濡れ、空気がどこか不自然に冷たかった。


「このぬかるみが多いルートは通ったことがないな。足が取られて大変だ」

 タリクが一歩ごとに足場を確かめ、時折立ち止まってはミラソムへの道を記録していく。霧で視界は悪いのに、彼の筆先は迷いなく走っていた。


「少し……おかしくないですか?」

 ゲルが立ち止まり、周囲の気配を探るように首を傾けた。いつもは柔らかい声なのに、今はわずかに張りつめている。


 そのとき――。


 カルマの肩に乗っていたハグロトンボが、くるりと反転し、進行方向とは逆を向いた。羽が細かく震え、警戒音のようにかすかな振動がカルマの頬へと伝わる。


「え……?どうしたの?」

 カルマが囁くように声をかけるが、トンボは怒るように羽をぱたぱたと鳴らすばかりだ。

 その直後だった。


 ――ごうっ。


 耳の奥に響くような低い音とともに、川の流れが、不自然な方向へと動きはじめた。足元の水がざわりと逆らい、上流へ向かって吸い込まれるように逆流していく。


「おい!川が……逆流してないか?」

 ツバネが眉をひそめ、川面に目を凝らす。


「ちょ、ちょっと待て!こんなの普通じゃないぞ!」

 カゲミが思わず声を上げた。影巫女として自然の“流れ”に敏感な彼女には、これはただならぬ現象だと分かる。

 冷たい霧がさらに濃くなり、視界の白さが歩いてきた道さえ曖昧にしていく。

 その霧の向こう――。


 水が引いた川岸に、普段は沈んでいるはずの岩肌が現れ、ゆっくりと口を開くように黒い裂け目が姿をのぞかせた。そこだけがぽっかりと“空間そのものが欠け落ちた”ように見える。


「……入口?すごいね。面白いじゃないか」

 ミラが息を呑む。目は純粋な好奇心で輝いていた。

「師匠……さながら冒険者ですね」

 そのミラの横顔を見ながら、セリアンが小さくつぶやく。


「わくわくしないか? セリアン!」

 ミラは子どものように笑った。だが、笑みの奥にほんのかすかな緊張があるのを、セリアンは気づいていた。

 裂け目の奥からは、懐かしさと胸を締めつけるような冷たい気配が、ゆるやかに流れ出してくる。風はないのに、空気だけがひんやりと肌を撫で、記憶の底を引っかくような感覚を残した。


 タリクが慎重に一歩前へ出た。足元のぬかるみがぐじりと鳴る。

「水位が下がらなければ見えないはずの場所だ。まるで……誘われているようだな」


 その言葉に、背筋がぞわりと冷えた。

 この裂け目は偶然現れたわけじゃない――そんな確信めいた不安が、全員の胸にひとつずつ灯る。


 自然現象とは思えない。まるで“こちらの到着を知っていて”、タイミングを合わせて口を開いたかのようだ。


 霧は静かに揺れ、裂け目の奥は息を潜めたまま、ただ僕たちを待っていた。



「……行くべき、だよな」

 僕が小さくつぶやくと、隣でカゲミがゆっくり頷いた。


「影巫女として言っとく。あそこ……“記憶の匂い”がする」

 影に宿った気配を感じとり、カゲミの瞳がわずかに揺れる。


 霧が裂け、薄闇の中の入口だけがぽっかりと浮かび上がっていた。


 ――水の逆流が示すのは偶然か、警告か、それとも招待か。


 僕たちは互いに顔を見合わせ、覚悟を決めるように、静かにその口へと足を踏み入れた。




 逆流する川があらわにした古びた石段は、霧の底からゆっくりと姿を現していた。苔むした石が水に濡れて黒く光り、生き物の背骨のようだった。


「……道じゃねぇな、これ。完全に“遺構”だ」

 カゲミが眉をひそめる。足元の影がざわめいていた。


「この区域に、こんな古神殿の記録はない。ミラソムのアーカイブにも載ってなかったはずだが……」

 タリクが眉間に皺を寄せながら記録板を開く。


 霧の向こう、石段はさらに奥へと続いていた。その先に――ぽつりと、黒い口のように空いた穴がある。


 神殿の入口だ。


「……行くの?」

 カルマの声は小さく震えていた。肩のハグロトンボも、羽をたたんでじっとしている。


「戻るほうが危険かもしれん。川の流れが戻る気配がない」

 ツバネは水辺を見下ろしながら静かに言った。


「誰かが“開けた”んですわ。ワタシたちを待ってたみたいに……」

 リウラの言葉に、冷たい汗が背筋を伝う。


 まるで――“ここに来い”と呼ばれているみたいだ。


「……じゃあ、行こう。僕が……先に入るよ」

 口にした瞬間、自分の声の震えに気づいた。それでも、足は石段に向かって勝手に動き始めていた。


「セオト!一人で行くな!」

 カゲミがすぐに追いかけてくる。やっぱり心強いな。その影が僕の影に重なる。


 石段を踏むたび、ひやりとした感触が足裏から這いあがってくる。上るほど霧は濃く、空気は重たくなる。息がひとつひとつ白くこぼれた。


 そして――入口の黒い裂け目に、僕たちは立った。


 中は真っ暗かと思ったが、奥にうっすら、青白い光がゆらめいている。


「……水の、匂いじゃないな。これ」

 カゲミが低くつぶやく。

 たしかに、湿った空気は感じるのに、水の澄んだ匂いがしない。代わりに――古い紙が湿ったような、土と影が混ざった匂いがする。


「神殿というより……記憶の倉庫みたいな気配だ」

 タリクが光源に目を凝らしながら言った。


 奥から、コツ……コツ……と何かが石を叩くような音が響く。


 全員が息を呑む。


「なんだ……今の」

「生体反応はありません……。でも、気配は“あります”」

 ゲルの答えに、背中がぞくりとする。


 僕はほとんど無意識に、一歩、また一歩と中へ踏み込んだ。


 すると――青白い光が大きく揺れ、壁に描かれた古い紋様が一瞬だけ浮かび上がった。


「これ……水紋じゃない。影の紋だ」

 カゲミの声が震える。


 紋様の中心には、ぽっかりと穴がある。

 そしてその穴の奥から――だれかの“視線”だけが、こちらを覗いていた。


 (ぎゃあああああああーーーーー!!!怖いの苦手なんだってば)











 (あああ……また師匠の目がキラキラしちゃってるよ)


 昔っから、ミラ師匠は危ないことに首つっこむのが大好きで、俺は心配が絶えない。


 今回も例外じゃない。逆流を始めた川底から現れた古神殿の入口を見つめるその顔は、もう完全に冒険モードだ。

 (誰だよ……こんな師匠の冒険心をくすぐる仕掛けを作ったのは!!!)

 思わず叫びたくなるけど、まあ、叫んでも仕方ない。俺はついていくしかないんだ。


 深呼吸して、セリアンは自分に言い聞かせる。

 (……よし、絶対に無事でいないとな。師匠、頼むから無茶しないでくれよ……!)

 心の中でそうつぶやきつつも、石段に足を踏み出す。


 ああ、心配とワクワクが入り混じった冒険の始まりだ。



 ――セリアン。






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