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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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94 行き先決まっちゃった!旅立ちの記録師たち!






 お祭りの熱気も、人々の酔いもようやく落ち着きはじめたころ。

 焚き火の赤い残り火がゆらゆら揺れるのを見ながら、僕はずっと胸の中にあった気がかりを、そっと口にした。


「カゲミも帰ってきたことだし、僕も……新しい記録師協会の手伝いに行こうか?」


 ツバネが腕を組んだまま、うん、と短く頷いた。

「そうだな。まだバタバタしてるからな。協会もずいぶん変わったぞ」

「え!そうなの?」


「トップが権力握りしめてるような協会は要らないからな。全部ひっくり返したら争い沙汰になるだろうから……少しずつ改革だな。根っこのところから、な」


 ツバネの声音は静かだったが、その裏に宿る決意は熱かった。焚き火の火がぱち、と弾け、赤い光が彼の横顔に鋭い影を落とす。


「協会長の権力か……。たしかに、オルグやクロムのやりたい放題だったもんね」


 言いながら、胸の奥にずしりとした重さが落ちてくる。

 たしかに——ひとりのノートリアが強大な権力を持つのは、どこか歯車が狂った瞬間に危険な方向へ転がりそうだった。


「記録するって、主観が入ってしまうから……どこまでが虚飾か見失っちゃうと怖いね」


 自分の言葉に、自分で小さくぞくりとする。記録は事実であって、同時に“誰かの視点”だ。その視点が偏った時、世界の見え方さえ歪んでしまう。


「ああ。だからこその改革だ」

 タリクがゆっくりと握った拳に力を込めた。焚き火の赤が彼の瞳に反射し、燃えるような光を宿している。

 犬猿と言われるツバネとタリクが、今は同じ方向を見ている——それが、妙に頼もしかった。


 そんな僕らのやり取りを、カゲミはじっと聞いていた。

「……オレも手伝うよ。影巫女としても、仲間としても。セオトの隣にいるって、決めたから」


 その声は、以前のカゲミよりずっとまっすぐで、揺らぎがなかった。横目で見ると、小さな拳をきゅっと握りしめている。

 その姿に、嬉しさがこみあげてきて、胸がじんわりと熱くなる。


「生まれ変わってカッコよくなってますわ! カゲミー!」

 ぱあっとリウラが目を輝かせて叫んだ。カゲミは「うるせぇ」と照れたようにそっぽを向くけれど、耳の先がほんのり赤い。


「ミラソムに移ったんだよね?私も行ってみたいな。それに、カルマも同行するそうです」

「えっ、カルマも?」

 思わず声が上ずる。僕が目を丸くすると、ミラはふわりと微笑み、静かに頷いた。


 その後ろで、カルマがもじもじと足先をいじっていた。焚き火の光が彼の頬に反射して、ほんのり赤く見える。

「うん……その、僕の友達が行きたいって。セオト兄ちゃんとも、またいろいろ話したいし……」


 “友達”。

 カルマの肩にそっととまる、小さな影がぱたぱた羽を震わせる。ハグロトンボ――きっと、彼も新しい土地を求めているのだろう。


 カルマ自身も、きっと同じなのかもしれない。安住の地を探しながら、それでも僕たちといたいと思ってくれている。


 胸の奥がぎゅっと温かくなる。

「わかった。みんなで一緒に行こう!」


 そう言うと、カルマの表情がぱっと明るくなった。ミラも、カゲミも、そして焚き火の向こう側で聞いていたツバネたちも、どこか安心したように微笑む。


 夜の風がさらりと吹き抜け、火の粉がふわりと星のように舞い上がった。

 協会は変わりはじめた。僕たちもまた、それぞれの選択を胸に、この焚き火のそばで同じ未来を見上げている。


 たとえ少しずつでも、歩き出せる。その小さな光が、これから続く旅路を静かに照らすようだった。




 翌朝。

 霧がまだ地面に薄く残り、村の屋根が白く煙って見えるころ。僕たちの出発の時がきた。


 家々の前には、すでに大勢の村人が集まっていた。昨夜の祭りのにぎわいとは違う、名残惜しさのつまったざわめきが広がっている。


「影巫女さま!きっときっと戻ってきてください!」


 涙で目を腫らしたおばあさんが、両手を合わせてカゲミにすがるように言った。カゲミは少し気恥ずかしそうにしながらも、胸を張って答える。


「ああ!祭りには顔をだすからな!……たぶん、いや、絶対!」


 後半の言い直しに、村人たちの間からくすくすと笑いが漏れる。でもその笑いも、どこか泣き声に似て震えていた。


 小さな子どもが僕の袖をぎゅっとつかんで見上げてくる。

「セオト兄ちゃんも……ちゃんと帰ってくる?」

「もちろん。帰ってくるよ。影巫女と僕はいつも一緒だからね」

 そう言って頭を撫でると、その子は泣きながらも嬉しそうに頷いた。


 朝日が村の奥から差し込み、道を金色に照らしはじめる。ツバネが「行くぞ」と短く声をかけた。


 胸に残る寂しさと、旅立つ期待が混ざり合う中――僕たちは村人たちの見送りの声に背中を押されるように、ゆっくりと歩きだした。


 土の道は朝露でしっとりと濡れ、踏みしめるたび柔らかく沈む。振り返ると、村人たちがまだ手を振っていた。泣き笑いの表情が入り混じり、その全部が、胸の奥にじんと響く。


「……よし。行くか、ミラソムへ」

 ツバネが前を向いたまま低くつぶやく。その声に、カゲミが元気よく頷いた。

「新しい協会、どんなとこなんだろうな!オレ、ちゃんと働けるかな……いや、働く!!」


「カゲミなら大丈夫。僕のほうが心配」

「たしかに!」

 みんなの声が揃い、笑い声が道にひびいた。


 朝の光が、僕たちの影を長く伸ばす。

 その先に広がるのは、新しい記録師協会がある都市――ミラソム。


 まだ見ぬ風の匂い、まだ知らない人々の声、まだ記されていない水の物語。そのすべてが、これから僕たちを待っている。


 胸に熱く灯る想いのままに。僕たちは、ミラソムへ向けて歩みを進めた。











「祭りのあとって、なんでこんなに寂しいんだろうな」

「ああ……影巫女さまもいなくなって。この村がにぎわうのは、また一年先か……」


 影巫女祭りの後片づけをする村人たちは、少し意気消沈していた。

 道具を片付ける手も、足取りも、いつもより重く感じられる。


「離れていても、影巫女さまがおるのだ!それでいいじゃないか」

 村長の言葉に、村人たちはふっと静まりかえる。


 耳を澄ませば、まだ遠くで聞こえる焚き火の残り香や、旅立った影巫女たちの足音が、どこか心を落ち着かせてくれるようだった。


「そうだな。村長の言う通りだ」


 朝日に照らされ、朝露で濡れた草がきらきらと輝きだす。

 少しずつ、村も、心も、日常のリズムを取り戻していくのだろう。


 寂しさと頼もしさが入り混じる、不思議であたたかい朝だった。






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