93 嫉妬しちゃった!?今わかった父の気持ち!?
ドドドドド――ッ!! 土煙を巻き上げながら、マッハで走り込んできた影がひとつ。
「タ、タリク……速っ!!」
思わず僕が声を上げる。あの体格で、よくそんな速度が出るな……。体力オバケだ。
「だってさ!!村長会議の終わり際に“影巫女が現れた”って聞いて!気になって気になって仕方なかったんだ!!」
息を切らせながらもテンションは最高潮。タリクは僕の腕をがしっと掴んだ。
その後ろから、やや息を荒くしながらツバネも現れる。
「……おいタリク。勝手に走り出すなと言ったはずだ」
「村長になったからって、ワイが落ち着くと思うな!お前が遅すぎるんや!」
「遅いのではない。会議の後始末をしていただけだ」
呆れ気味のツバネは、ふと静かにカゲミへ視線を向け――ぴたりと目を細めた。
「……美少女だな。あなたが影巫女か!」
「ん?どこかで会ったような……。セオト、紹介してくれ!」
ツバネもタリクも、まったく気づいていない。
カゲミの肩がこわばった。
「……オレだよ。ツバネ、タリク。カゲミだ」
「えええええええーーーーっ!?!?!?」
ツバネの目がぐるぐる回る。
「ど、どういうことだ!?人間だよな? 闇精霊じゃなくなった……ってことか!?」
ツバネはカゲミのまわりをぐるぐる回り、観察しまくる。半ば固まってるカゲミは、むすっとした顔のまま、ただ袖をぎゅっと握っていた。
「カゲミ……めちゃくちゃ可愛くなってないか!?」
タリクは眉をひそめ、珍獣でも見るように左右から覗き込む。
「ちょ、ちょっと……近ぇよ、おまえ……!」
カゲミが下がるより早く、僕は無意識に前へ出ていた。
「ツバネ!タリク! 見過ぎだっ!!」
声が裏返った。止められなかった。
なんとなく今なら――父さんの気持ちがわかる。カゲミを取られたくない、と自然に思ってしまった。
タリクは「あ?」と不満げに眉を寄せるが、それ以上踏み込んではこなかった。
そのとき――ざざっ、と砂を蹴り上げてリウラが飛び込んでくる。
「ちょっと待ちなさい!!聞きましたわよ、カゲミが“人の姿になった”って……って、えぇぇえっ!?本当に可愛いじゃないの!!」
リウラの声が、夜にとける祭囃子よりずっと騒がしい。
「カゲミって影巫女になっちゃったんですの!?どういうこと!?精霊じゃないんですの!?ねぇねぇ!!」
リウラはカゲミの袖をつまんで上下に揺らす勢いだ。カゲミは真っ赤になり、僕の胸のざわつきはさらに強くなった。
そこへ追い打ちをかける無機質な声。
「スキャン完了。精霊の気配はありません。ですが、闇と水の力を検知しました。カゲミさんは、影巫女で間違いないでしょう。現象についてお聞きしたいです」
ゲルだ。青白く光る目で、ずいっと迫る。
「おいお前ら!!質問が多い!!」
「だって気になるんだもん!!」
リウラとゲルが見事にハモった。
舞台裏は一瞬で騒音の渦。カゲミはとうとう頭を抱えてしゃがみ込む。
――影巫女カゲミ。正式に受け入れられたその瞬間、最初に待っていたのは……大混乱だった。
……が。
「お帰りなさ~いだホン!ミラさんとセリアンとスイタンは、鮎の塩焼きを食べに行ってるホンホン!」
禁書ホンホンは相変わらずマイペースだ。場の空気がふっとゆるむ。
「あ……そうだった! カゲミ!おかえり!」
みんなが次々に声をかけてくれる。カゲミはぱちぱちと瞬きをして――うるっと目を潤ませた。
「……ただいま、みんな!」
その声に、夜風がそっと寄り添った。
僕たちも鮎の塩焼きを堪能すべく、お祭りが終わろうとしているはずの屋台に向かうと――そこには、祭りの終幕とは程遠い光景が広がっていた。
村人たちが、樽酒を囲み、七輪を増設し、なぜか太鼓まで叩きはじめている。
「影巫女さま! ばんざーい!」
(こ、これは……夜通し飲み明かす算段であろう。猛者どもだな)
酔っぱらった村のおじちゃんたちが肩を組んで歌い、焼けた鮎を手に踊り出す。
カゲミは思わず引きつった笑顔を浮かべた。
「なるほど。魔物の子か……」
ミラさんたちと合流し、カゲミと、魔物の子カルマの紹介がはじまる。
「ぼ、僕、カルマです。よ、よろしく……」
カルマは少し緊張して頭を下げた。
「ああ、ちゃんと挨拶できてえらいぞ! カルマ。よろしくな!」
タリクは魔物だと聞いても一切ためらいがない。朗らかな笑顔で、カルマの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「わっ……!」
カルマは驚きつつも、少し嬉しそうだ。
「魔物か……。心中複雑だけど、カルマからは嫌な気配はしないね」
セリアンは正直に言った。落ち着いた声だけど、どこか温かい。
「ありがとう、セリアン……」
勇気を出して返すカルマに、セリアンはふっと目を細める。
「礼を言われるようなことじゃないよ。ただ……うん。僕は慎重なだけ」
風が抜けて、セリアンの外套を揺らした。
「まぁまぁ!固いこと言いなさんな!ほらカルマ、この鮎うめぇぞ!」
飲んだくれのおじちゃんが鮎を一本つき出してきた。
「俺のことは、お兄ちゃんと呼べ!!ぐははははは!!」
――祭りは終わるどころか、ますます燃え上がっていた。
夜空の下、影巫女と魔物の子の新しい“居場所”は、確かにそこにあった。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
今回は――いやぁ……嫉妬しました。僕。
カゲミのことになると胸がざわざわして、
「父さんの気持ちって、こういうことだったのか……」と、しみじみ実感することになるとは。
あのとき、母さんをほめたつもりの僕を見る、父さんの視線。
今なら、少しだけ分かる気がしています。
ちゃんとノートリアとして記録しないとな……。
――瀬音。




