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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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92/142

92 受け入れられちゃった!?影巫女のカゲミ!?






 影巫女祭りの広場へ戻ると、ぱっと視界が明るくなった。魚が焼けるいい匂いがしている。灯籠のオレンジ色と笑い声が交じり、祭りは最高潮に盛り上がっていた。


「わぁ……すっごい人だね」

 僕が思わずつぶやくと、カゲミも目を丸くした。


「……なぁセオト。鮎のつかみ取り、あれ地味に本気だな」


 見ると、大きな水槽に子どもたちがわいわいと手を突っ込み、ぴちぴち跳ねる鮎を追いかけている。歓声と水しぶきが夜気をきらせた。


 その隣では、七輪がずらりと並んでいて、塩をふられて皮がパリパリとはぜる音が響いていた。香ばしい匂いが風に乗って鼻をくすぐる。


「焼けたぞー!こっち持っていきなー!」

「おいしそう……!」

 村人たちが笑いながら鮎をほおばり、子どもたちは口のまわりを塩だらけにしながら幸せそうに笑っていた。


「……うまそ」

 カゲミがぽつりと漏らす。


 僕はじっと七輪を見つめて、胸の奥がくすぐったくなる。

 青鮎として流れに生きてきた日々を思い出しながら、隣で立つカゲミの体温が、今はそれとは違う“現在”を確かにさせた。


「……なんか変な感じだよね。僕も、カゲミも……鮎の世界で生きてきたのに」

「まぁな……でも、人間の食いもんって、わりと……うまいよな」

 照れたように視線をそらすカゲミ。


 そこへ、カルマがぱたぱた駆け寄ってきた。


「セオト兄ちゃん、カゲミ姉ちゃん!村の人たち、みんな笑ってますよ……すごいです。影の気配、ぜんぜんありません」

「そりゃ、鮎の塩焼き食ってれば影なんて寄りつかねぇよ」

 カゲミが肩をすくめると、カルマはきょとんとした。


「……影、塩に弱いんですか?」

「弱くねぇよ!?何その雑な設定!?」


 思わず吹き出してしまった。

 祭りの喧騒、七輪のあたたかさ、鮎の香り……さっきまで胸の奥にあった不安が、少しだけ柔らかく溶けていく。


「……帰ってきたんだね、カゲミ」

「……ああ。帰ってきたよ、セオト」


 人の笑い声と七輪の煙に包まれながら、僕たちの影は静かに寄り添ったままだった。



 香ばしい匂いが漂う中、ひと混みにぶつからないように屋台の端を歩く。

 カゲミは黒い外套のフードを深めにかぶり、なるべく目立たないようにしている……はずなのに、なぜか妙に存在感がある。


「あれ……?そこの人、影……?」

 近くにいた村人の女性が、カゲミをじぃっと見つめる。


「影が揺れてるような……なんか、昔話で見た“影巫女さま”みたいな……」


 カゲミの肩がビクッと跳ねる。

(や、やばい……!)

 僕はあわててカゲミの手を引き、屋台の布の影へと滑り込んだ。


「ちょ、ちょっとセオト!?引っ張んなって!」

「静かに……!見つかったらめんどくさいよ……!」


 ふたりで肩を寄せて息を潜める。外では村人たちがざわざわと話している声が聞こえる。


「いや〜気のせいだったかなぁ?」

「お酒飲みすぎじゃない?ほら、鮎追加で焼けたよ〜!」

「やった!」


 どうやら気のせいで片付けられたらしい。僕は胸をなでおろし、横を見る。

 そこには……すぐ近くにいるカゲミの横顔。距離が近い。近すぎる。


「……っ」

 心臓が跳ねる。


「おいセオト、顔赤い」

「カ、カゲミが近いんだよ……」

「は?別にいいだろ」


 そう言って、さらに距離を詰めてくる。

(……反則だよ、カゲミ)




 面倒ごとになるとは思った。でも、影巫女として村長にあいさつをしたカゲミを、そのまま放っておくわけもなかった。


 夕暮れが山の端に沈みかけ、影巫女祭りのざわめきが少しずつ落ち着いていくころ。村の中央にある古い舞台の前に、人がぽつぽつと集まりはじめた。


「みんなー!集まってくれぇ!」


 杖を突きながら、村長が声を張り上げる。その声を合図に、あちこちの屋台から村人たちがゆるやかに流れてきて、舞台前に半円を描くように並びはじめた。


「みな、今年の影巫女祭りは――ちぃとばかし“特別”だ。……影巫女さまが、ほんとうに姿を見せてくださった!」


 どよめきが起きた。

「え、見た見た!」「本当にいたのか?」「こえぇ……いや、ありがてぇ……?」


「……行ってくる」

 カゲミが一歩、影からにじみ出るように姿を現した。


 黒い髪が風に揺れ、琥珀の瞳が村人たちを見つめる。その存在感は、静かで、神秘的で、どこか幼い。


「こ、これは……!」

「か、かわいい……?」

「いや神々しいだろ!」


 ざわざわが、すぅっと静まる。

 カゲミは慣れない様子で、もじもじしながら頭を下げた。


「……影巫女の、カゲミだ。えっと……この村を……その……」


「大丈夫。いつもの調子でいいと思うよ」

 僕がそっと声をかけると、カゲミは小さく息を吸い――


「この村の祭りはみんなに食べ物をふるまう……いい祭りだと思う……影巫女として、ずっと見守りたい……」


 言い方はぶっきらぼうなのに、声はどこか照れている。

 村人たちが一瞬ぽかんとしたあと――


 ぱち、ぱち、ぱちぱちぱち……!


 拍手が、広場いっぱいに広がった。


「ありがてぇ……!」

「影巫女さま、どうか見守りくださいませ!」

「かわい……いや、神々しい!!」


 カゲミは耳まで真っ赤にし、僕の袖をぎゅっと引く。


「お、おいセオト……!なんか、すげぇ見られてる……!」

「うん、みんな……カゲミに来てくれて嬉しいんだよ」


「……そんな、悪くねぇけどさ……恥ずかしいだろ」


 村長が重々しく告げる。

「影巫女さま。どうかこれからも、この村を導いてください」


「……ああ。任せとけ。お前らが“影に負けそうになったとき”には……オレが行く」

 その言葉に、村人たちの顔がほころぶ。カゲミの影がゆっくりと夕日に伸び、その姿を包みこんだ。


 ――こうして、影巫女カゲミは、鮎喰栄村の村民に正式に受け入れられたのだった。




 影巫女としての紹介を終え、僕とカゲミは舞台の裏手へまわって「ふぅ……」とひと息ついていた。


 カゲミはというと――影に半分沈みながら、耳まで真っ赤だった。


「……なぁセオト、カルマ。オレ、なんか……変なこと言ってねぇよな」

「ううん。すごく、かっこよかったよ」

「そ、そうか……?へ、変じゃないなら……いいけど」


 そのとき。


 ドドドドドッ!!

 地面を蹴る音が近づいてくる。


「いたーーっ!!影巫女さま!!」


 振り向くと、村長会議を終えたツバネやタリクたちが一斉にこちらへ走ってくるところだった。











「おい、坊主。いい具合に焼けたから食っていいぞ」

 セオト兄ちゃんとはぐれた僕に、七輪で焼かれた鮎の塩焼きを村人がふるまってくれた。


「……ありがとうございます」

「おぅ!いいから早く食え!」


「はふはふ……」

 パリパリの皮とホクホクの身と鮎独特の香りが鼻の穴がふくらんでいく。


「おいしいよ!おじちゃん!」

「おじちゃんじゃねえ!お兄ちゃんて呼べ!」


 怒られても、僕は幸せだ。


 ――カルマ。






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