表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/142

88 怒らせちゃった!?ガマンの限界!?






 気がついたら、水龍さまのお腹の中で生きていた。

 ぬるい水に抱かれるような、やさしい闇。息は苦しくない。体も、もう魚の形じゃなくて――ただの“たましい”のようだった。


「お前は、何者なら素直になるのだ?」

 水龍さまの声は、遠くの滝が響くみたいに、胸の奥に落ちてきた。


 (……消化されてないんだな、オレ)


「どういう意味!?」

 思わず怒鳴り返す。声は泡みたいに広がって、すぐ溶けた。


「おのれに聞いてみろ。お前の名は?」


 名。

 そんなの――。


「オレ……オレは……ブルーギル。名前なんて、なかった」

 しん、と水が止まったような気がした。


「そうか……記憶がないのだな」

「記憶……?」


「お前は、囮鮎で、青鮎で、闇精霊だったカゲミだ」


 胸が、バクンと跳ねた。

「……カゲミっ!オレ、やっぱりカゲミだったのか……!」


 ブラックバスのオルグも、あの人間も、そう呼んでいた。

 意味の分からなかった名前なのに――今は、なぜか体が勝手に震えた。



 名を口にした瞬間、水龍さまの周囲の水がふわりと揺れた。まるで肯定するように。


 水龍さまは、静かな瞳でこちらを見つめる。

「しばらく、ここにとどまることを許す。次第に思いだし、自分を形作るであろう」


 その言葉は、水温のようにじんわり体へしみ込んでいった。


「……思いだすって、何を?」

 自分でも気づかないほど、小さな声が漏れた。


「お前が“誰”であったか。何を望み、何を恐れ、何を失ったのか――すべてだ」


 水龍さまの声に合わせるように、どこか遠い、水底の記憶がかすかに揺らめく。

 鮎として泳いだ日々の光。囮として必死に流れを切った痛み。闇に溶けた、黒い意志。それから――あの青い瞳。

(……全部、オレなのか?)


 水龍さまの腹の中は暗くて広い。なのに妙に安心して、眠気が襲ってきた。

「おやすみ、オレ……。カゲミ……だっけか」

 たしかに、ここなら思いだせる気がした。




 水龍さまは、ぐうっと目を細めた。腹の内側に広がる水の世界に、ふっと別の景色が映る。


 ――転スイ門。

 瀬音たちが、わいわいと楽しげに酒盛りしている。


「アヤツ!ちゃっかり酒を呑んでおるではないか!?シヴァ・テンスイめ……!」


 低く、どすんと響く怒りの声。その一言で、水龍さまの腹の内に広がっていた静かな水脈が、ぐらりと揺れた。


「……我の分は残しておかないと許さん!」


 怒りが水面を震わせる。眠るカゲミの周囲――青白い空間のなかに、ぼこぼこと濁流が立ちのぼった。さざ波が大きくふくらみ、まるで小さな嵐だ。


 その濁流がゆっくりと渦を巻くと、近くの砂地にぽつぽつと芽が生えた。みるみるうちに草木となり、淡い光を宿しながら茂っていく。


「……なんだこれ……寝てるだけで緑生えてってる……」

 と、半分夢の中のカゲミがぼんやり呟く。


 水龍さまは鼻で笑い、すっと転スイ門の方へ意識を向けた。


「我の腹の内も思念よ。さて――高みの見物をさせてもらうか」


 水の中に、ふわりと斜めに浮かびながら、遠くの宴を眺める水龍さまの眼差しは、怒っているようでいて、なんだか少しだけ楽しそうだった。



 カゲミは、草の生い茂った水底の上で、うつぶせのまま半目を開けた。


「……うるさ……。なんだよ、これ……川の音じゃねぇし……」


 頭上では濁流がごうごう渦巻いている。水龍さまの怒りは収まっていなかった。



「安心せよ、カゲミ。我は少し腹を立てておるだけだ。お前は眠っていろ。記憶が戻るのは――これからよ。」


「いや眠れねぇんだけど!?この騒音で!!」

 水龍さまは、ふむ、とゆるやかに首をかしげた。青白い鱗が水光をまとい、静かに揺れる。


「では、もっと静かな濁流にしてやろう」

「静かな濁流って何だよ!!意味わかんねぇよ!!」


 と、必死に訴えたその瞬間――水龍さまの瞳がふっと細められる。怒りではなく、どこか“覚悟”のような光が宿った。


「たしかに。 では……思いだせ。すべてを」


 低く響く声が、空間そのものを震わせた。


 ――グワァァァァッ……!!


 怒号のような濁流が、しかし恐ろしいほど整った軌道で渦巻き、カゲミの身体――いや、魂そのものにぶつかってくる。


 泡がぱちぱちと弾け、光の粒が白い雨のように降りそそぐ。


「う、わ……っ、な、なんだこれ……!」


 目を開けていられない。けれど、逃げることもできない。


 水龍さまの怒りは、もはやただの“激流”ではなかった。その中心にあるのは――“呼び覚まし”、そして“願い”。

 濁流が、カゲミの胸の奥深くに触れた瞬間。


 ――ドクン。


 青い影。透きとおる流れ。尾びれをふる、小さな鮎。自分の名を呼ぶ声。


 忘れていたはずの記憶が、水底から浮かびあがるように、ゆっくりと開いていく。


「……あ……れ……オレ……」

 言葉にならない息が漏れる。


 水龍さまは、その様子を静かに見つめた。


「覚醒せよ、カゲミ。囮鮎であり、青鮎であり――闇精霊であった、お前自身を。」


 その宣言が響いたとたん、カゲミの全身を覆う光が、ぱっと弾け飛んだ。


「今度こそ成就するがよい。影巫女――カゲミよ」


 ニヤリ、と牙をむき、カゲミに告げた。


 水龍さまはニヤリと牙を見せ、告げた。


 呼び起こされたのは恐怖ではない。

 眠りを破り、真の名を掘り起こす――再誕の衝撃だった。











 ”それを全部飲み切ってみろ。我は許さんぞ”


 ”未開封の酒があるなら、こちらへ送ってこんか!”

 

 ”くっ!我は、甘じょっぱに目がないのを知っておるくせに”


 ”ずっと聞こえてないフリをする気か!それでも神か!!”




 ……気づけば、水龍さまがずっと思念をシヴァ・テンスイさまに送りまくっていた。


 (こわ……水龍さま、なにやってんだ……)


 カゲミは半分呆れ、半分尊敬しながら、濁流がうねうねする様を見ていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ