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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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87 会話できちゃった!?ブルーギルのオレ!?






 やっぱり、淀みが落ちつくんだよなぁ。だってブルーギルだもんなぁ……。自嘲気味に尾びれをぱたぱたさせながら、水底のぬるい流れに体を預ける。


「カゲミ、お前には執着がないな……。つまらん」

「オルグ。俺は、カゲミじゃなくて、ブルーギルだっつーの!」

 口では反発するけど、本当はここが気に入っていた。住処にしたいくらい、この淀みは“ぬるい安心感”で満ちている。問題は、その真ん中にでっかいブラックバスがドンと構えていることだけ。


「……ふん。だからつまらんと言っている」

「なにそれ!こっちは、お前がいるから落ちつかな……いや、落ちつくけど落ちつかないんだよ!!」


 吐き出した本音は、水中で泡になって消えていく。オルグは相変わらず表情ひとつ変えず、深い淀みへ振り向いた。


 ――執着とやらにこだわるブラックバス。気になるんだよなぁ。居心地が悪いくせに、離れられない。ブルーギルのくせに、ホント考えすぎだっての。



 淀みを抜けて、いつもの木陰や草陰がつくる、少し濁った水に潜りこむ。透きとおった清流なんて危険すぎるし、逆に汚れた川なんかどんとこいだ。まあ……身の丈には合ってる。いや、合いすぎてる。


「……でもさぁ、なんか……記憶がぼんやりしてくんだよな」

 口に出した途端、胸の奥がざらりとした。川の冷たさとは違う、ゆっくりと広がる不安。


「自我が……薄くなる感じ? これ、やべぇよな……?」

 本当に考えすぎなのかもしれない。でも、考えないとどこかに溶けて消えてしまいそうだった。



 その時だった。


 ――ゴロゴロ……ッ。

 空が大きくうねり、雷が鳴りはじめる。水面が震え、小魚たちが一斉に逃げ惑った。


「やっべ! 嵐きた!これ小魚とか普通に流されるやつ!!」


 焦った俺は、迷わず例の淀みに向かった。あのブラックバス――オルグがいた、不気味だけど安全な“深み”。あそこなら、嵐もしのげるはずだった。


 ――だが。


「……あれ?」


 淀みが、なかった。

 ブラックバスの影も、泥の匂いもない。ただ、均一に浅くなった川底が広がっているだけ。


「な、なに?地形でも変わったのか!?どういうことだ!?」


 尾びれがぱちぱち震える。理解など追いつかない。でも、“流れ”が変わったことだけは、本能で分かる。

「と、とにかく……逃げ場!」


 荒れ狂う川の中を必死に泳ぎ、流れの弱い場所を探す。川の脇にある側溝――そこから滝のように落ちる水の脇。草木が浸水して倒れこみ、その影がいい具合に流れを弱めていた。


「ふぅ……。がんばれ、俺……!生きろ、生き残れ……!」


 ホッとした次の瞬間。


 ――ドォンッッ!!


 雷が落ちた。すぐ近くで炸裂した光が、水面を真昼のように白く焼きつぶす。視界が一瞬で真っ白になった。


「ひゃあああーーっ!!ヤバイ!だ、だいじなとこ隠さなきゃー!!」


 とっさに口から飛び出した言葉。……自分でも意味がわからない。


「だいじなとこって何!?尾びれ!?エラ!?いやどこだよ俺ーー!!」


 ひとりツッコミしながら慌てふためいていると、川岸の方から、雷に負けないくらい大きな声が飛んできた。


「カ、カゲミ!? カゲミなのか!?」

「は!?カゲミって誰だ!?っていうか、なんで俺、人間と会話できてんの!?!?」


 川の激流よりも衝撃的な現実が、カゲミの脳みそをぐるんとひっくり返した。



「あれ……この魚って――あの淀みにいたブルーギル?」

「え? お前――人間じゃなくて、あの時の青鮎なのか!?」


 人間の目を見た瞬間、胸の奥がざわりと揺れた。毎日のように清流で出会った青鮎。

 俺のスピードにスイスイ追いついてきて、外来種ブルーギルなのに懲りずに追っかけてくる、へんてこりんなやつ。


 だから、気に入ってるオルグの淀みに連れてったんだ。……連れてったっていうか、あいつが勝手にひっついてきただけだけど。

 人間の顔に、あの青鮎の面影が重なった。さらさらした流れの中で、ふっと尾びれを揺らして笑った、あの表情。


「……お前、まさか本当に……あの時の――」


 目と目が合う。稲光がふたりの間を白く照らし出した。


 ――時が止まったような、一瞬。激流の音も、雨のざわめきも、遠くに消えていく。




「ねえ……きみ、カゲミだろ? 覚えてないの? 囮鮎や、青鮎だった前世のこと――」


 ――ドクン!


 オルグに“カゲミ”って呼ばれた時には感じなかった、鋭い痛みが胸の奥で跳ねた。


 えっ、何言ってる?俺、オレは……ブルーギル……。

 ……のはずなのに。

 なんだろう、なにか思いだしそうで――でも、指のあいだからするりと逃げていくみたいに、なにも掴めない。

 

 (オレ、この人間と……青鮎を知ってる……!?)


 自分でも意味がわからない。

 ただ、この人間の目を見ていると――胸のどこか深いところで、冷たい川底に沈めた記憶が、ゆっくり浮かびあがろうとしている。


 囮鮎――

 青鮎――

 そして、淀みで寄り添った影。


 断片が光の粒みたいに胸に吸いこまれていく。


 痛い。苦しい。だけど――どうしようもなく、懐かしい。


 ――この痛みの正体を、オレは……知っているのか?――




 ゴロゴロゴロゴロ――ドカーーン!!


 落雷とともに、茶色い濁流が割れ――

 小魚のオレは、なすすべもなく――水龍さまに飲み込まれてしまった。











 気づけば、毎日のように――へんてこりんな青鮎がついて回るようになった。


 (なんなんだアイツ。俺、ブルーギルだぜ。仲間にもなれねえし)


 でもまあ――お気に入りルーティン、見せてやるか。


 べつに、好きとかじゃない。……たぶん。






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