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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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85 キュンしちゃった!?恋のはじまりは囮鮎!?






(カゲミ視点)


 いつからだったろう。

 キレイな青鮎を見つけて、気になって……気づいたら、彼のなわばりに入っていってたのは。


「なんで、あいつ……あんな光、まとってんだよ……」


 囮鮎として何度も生まれ変わってきた。そのたびに、芽生える思いなんて一度もなかった。


 ただ、必死だっただけだ。生きるのも、寝るのも、泳ぐのも、全部が命がけだった。

 明日には力尽きてもおかしくない。 鳥に食われるかもしれないし、もっと大きな魚のエサになるかもしれない。囮鮎として、捕まってない鮎にアタックするのも……そう、致し方ないこと。

 “生き残る”以外の意味なんて、考えたこともなかった。


 なのに。


「……あいつ、なんで俺なんかを見たんだよ」

 彼――青鮎のセセラギは、見つけた。弱くて、ちっこくて、すぐ流される囮鮎の俺なんかを。


 逃げると思ったのに、泳ぎ去ると思ったのに。あいつは、ゆっくり近づいてきて……ただ、静かに俺を見た。水に差し込む陽の色みたいな目で。


 その瞬間、胸の奥がずきんとした。囮鮎のくせに、そんな痛み、知らなかった。


「……バカだろ、あいつ」

 思わず口からこぼれた言葉は、水面にほどけていく。けど胸の奥では、何度も反響していた。あいつの目の光も、近づいてきたときの水の震えも、全部が離れなくて。


 ――その“バカ”が、俺にはどうしようもなく気になったんだ。


 そして、そのバカが言った。


「一緒に逃げよう」


 たったそれだけの言葉なのに。水の流れより速く、胸がきゅん、と鳴った。


 囮鮎は生き残るために、誰かに寄りかかっちゃいけない。

 身にしみてわかってるはずなのに――その言葉を聞いた瞬間だけは、世界の流れがふっと止まった気がした。


 (……なに言ってんだよ、お前……そんなの、ずるいだろ)


 追いかけられるのが当たり前の俺が――初めて、誰かを追いかけた。



 青鮎セセラギも、記録師セオトも、ぼんやり抜けてるし、めんどう事には巻き込まれるし、口下手だし、考えなしで行動するし、すぐ流されるし……。


「……なのに、なんでだよ」


 呟きが、水面に落ちて弾ける。


 どうしても目が離せない。あいつが笑えば、胸の奥がふっと温かくなる。困ってたら、気づけば手を伸ばしてる。誰かに褒められると、こっちまで嬉しくなる。


 “囮鮎”だった俺には、そんな感覚、知らなかった。


 命なんて軽くて、明日もあるかわからない世界で生きてきたのに――なのに、セオトだけは別だった。


「バカなヤツなのに……」


 気づけば、笑っていた。自分でも気づかないうちに、頬が緩んでいた。


 川面の光が揺れる。そのきらめきの中で、あいつが笑っている幻が見えた。呆れるほど優しくて、不器用で、あたたかくて。

 俺は、あの光をずっと追いかけていたんだ。


「……ほんと、不思議だよな」


 心の奥がじんわりと熱くなる。

 バカだけど。弱いところもあるけど。でもあいつは、流れの中でひときわ光ってる。


 俺には――どうしようもなく、キラキラ光って見えるんだ。


 まるで、未来へ導く“青”みたいに。




 精霊たちは、おしゃべり好きだ。水面にふわりと浮かんで、風に揺れるみたいに喋り続ける。


「青鮎を見た者は、大切なものを失うが、大切なことを知る〜♪」


 どこか歌うような、響く声。――ドキッとした。


 俺は、前世で青鮎を見た。いや、それどころか……青鮎だったこともある。

 胸の奥がざわつく。あの透き通る光、あの泳ぎ。セセラギを見つけた瞬間の、あの痛みに似た感覚。


 たまらず、精霊に声をかけた。


「なあ、それ……どういう意味なんだ?」


 精霊は、ぽちゃん、と小石を落とすように笑った。


「そのまんまさ。失って、知る。 流されて、残る。 “青”はそういう色だよ」

 やわらかいのに、逃げ場のない言葉だった。


 俺は思わず、拳を握りしめる。

「……俺は、何を失って、何を知ったっていうんだよ」


 精霊はただ、川風に吹かれながら言った。

「それは、まだ途中なんだろうね。でも――心が痛くなるほど誰かを想うなら、もう答えは半分出てるよ」

 胸の奥が、またずきんと鳴った。



 精霊の言葉が、水底の石みたいに沈んでいく。胸の奥に落ちて、重たくなる。


「心が痛くなるほど誰かを想うなら、もう答えは半分出てるよ〜」

 そんなふうに言われても……俺は、何を想っているんだ?


 精霊がくるりと宙を回って、にやりと笑った。


「ねえ、闇精霊カゲミ。あなた、前世の青鮎に……とても惹かれていたんでしょう?」


「……惹かれて……?」


 思い返す。あの光を追った。流れに逆らってでも、そばに行きたくて必死だった。

 囮鮎の“本能”なんかじゃ説明できないくらい、ただただ気になって……。


 精霊が言う。


「青鮎はね、“未来を選ぶ魂”なんだよ。青い光は、川の記憶と、流域の願いの象徴。だから惹かれたのは、ただの偶然じゃないんだ」


「……偶然じゃ、ない……」


 瀬音の姿が浮かぶ。水龍さまの光を受けて、いつも眩しいくらい前を向いてて、気づけば、俺はあいつに引っ張られてばかりだ。


 精霊は指先で水面を弾き、波紋が広がる。


「大切なものを失う……それは“前の生”の自分や、囮としての役目。でもね、大切なことを知る……それは“誰と流れたいか”なんだ」


 その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。


「俺……セオトの“青”を見たとき……たぶん、もう……」


 言葉が喉で止まる。でも、精霊は微笑んで続けてくれる。


「そう。きみはもう、決めてたんだよ。“失ってもいい”って思えるくらい、誰かを大切にしたいってね」


 心臓が跳ねた。胸が熱い。ああ、そうか。

 俺は、もうずっと前から――。


「……セオトと、一緒に流れたかったんだ」


 やっと言葉になった瞬間、川面の風がすっと頬をなでた。

 精霊たちがちりちりと光りながら、小さく拍手する。


「やっと言えたね〜。大切なことを“知る”って、こういう瞬間だよ」


 俺は深く息を吸う。ゆっくりと吐き出す。心の奥の濁りが、ひとつ流れ落ちていく気がした。

「でも……闇精霊だもん。人間と同じようには生きれないよ」


 そう思って心にフタをした。セオトに告白したって意味がない。隣に立つ未来なんてない――そう言い聞かせて。


 だけど。


 記録師図書館で、リウラと一緒に少女の姿に変わったとき。鏡に映った“人間の自分”は、あまりにも自然で。驚くほど、違和感がなかった。


 同じ高さにある視線。同じ足で踏みしめる床。人間として息をして、人間として歩く感覚。


 あのとき――胸の奥で、何かがはじけた。


「……もしかして、俺、“人間として”あいつの隣を歩けるのかって……」


 言葉にしてみた途端、顔が熱くなる。まるで、誰にも触れられたくなかった弱い場所を、そっと晒してしまったみたいで。


「そんなこと、考えるようになるなんてな……俺も変わったよな」

 ぽつりと漏らした声は、どこか苦くて、でも温かかった。











 「……なんだよ、これ。俺、人間になっちゃった……!?」


 鏡の中の自分が、そっと瞬きを返す。

 静まり返った読書室の奥、ひっそり置かれた古い姿見がある。

 その前で――カゲミは、そわそわしていた。


 瀬音と並んで歩ける“高さ”に、心臓が変な音を立てる。

「……あいつの隣に立つのは、人間がいい……と思う。闇精霊なんかじゃなく……」


 可能性を見出してしまったけど、即効打ち消したカゲミであった。







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