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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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84 見つけちゃった!?幸運の勝ち虫!?






「……何か、影が揺れてるね。なんだろう?」

 僕は思わず、灯籠の穴へ顔を近づけた。火袋の奥で、かすかに黒い影が脈打つように動いている。


 次の瞬間だった。


 ぶわぁぁぁぁぁっ——!

 黒い風が起きたみたいに、無数のハグロトンボが一気に飛び出してきた。羽ばたきが頬をかすめて、思わずのけぞる。


「うわっ……!?」

「わあぁ!?」


 驚きに胸が跳ねあがる。でもすぐに、知っている言葉が頭をよぎった。

 ——勝ち虫。

 ——神様のお使い。


 夕光を受けてきらきらと舞う黒い(はね)は、恐ろしいというより、美しくて頼もしい。


「……そっか。これは、いいことが起きる前触れなんだ」


 ざわめく羽音に包まれながら、僕はふっと息をついた。胸の奥に、あたたかい幸運がぽっと咲くような感覚が広がっていく。



「ねえ、きみのお名前、おしえて?」

 しゃがんで目線を合わせると、影に怯えて涙ぐんでいた子が、小さく唇を震わせた。


「……カルマ」


「カルマくん。このトンボは怖くないよ」

 僕は灯籠をそっと指さす。まだ黒い羽音が、ひらりひらりと余韻のように揺れている。


「ハグロトンボってね、幸運の象徴なんだ。だから、きみと僕はすっごくラッキーなんだ」


 カルマは涙の跡を残したまま、かすれた声で聞き返す。

「……こわく、ないの?」

「うん、ぜんぜん。むしろツイてるよ!」

 胸を張って笑ってみせる。


「“勝ち虫”って呼ばれるくらい、いい前兆なんだ。きっと僕たちを、どこかへ招いてくれてるんだと思う」

 カルマの目が、ひと筋だけ光を取り戻した。

「さあ、行こう!」


 僕は灯籠に手を伸ばした。

 指先が触れた瞬間——ふっ と足元がほどけ、世界が吸い込まれるように転じた。



「ここ……どこだろう?すごい豊かな水流だな」

 目を開けた瞬間、肌に霧のような水気が触れていた。僕たちは、圧倒的な水量がものすごい速さで流れていく川岸に立っていた。ごう、ごう……と地面まで震わせる轟音に、カルマが僕の袖をぎゅっと握る。


 ふと、川の向こう側に一人の影が見えた。白い光をまとい、こちらに向かって大きく手を振っている。


「瀬音!迎えに来てくれたのか!?」


 高い声で叫んでくる。僕はぽかんと固まった。

 (……え?僕、あんなかわいい女の子知らないけど!?ていうか“瀬音”って僕のことだよね!?)


 向こうの人影は、さらに大きく腕を振って叫んだ。

「俺だよ!影巫女のカゲミ!」


「えええええーっ!?!」

 声が知らない高さで裏返った。


 まさか、あのツンデレでちっこい相棒が——よりにもよって、あんな姿で現れるなんて……!


 川の音よりも大きく、僕の頭の中がぐるぐると騒ぎはじめた。




「ふぉふぉふぉ。腹の中が愉快なことよ。また鱗が剥がれたぞ。何かに使うか?」

 背後から低く響く声。振り向いた瞬間、全身がサッと冷たくなる。

 この声……そして今、言った言葉……。


 ひ、ひえぇぇ!ものすごく気楽に言ってるけど、内容が怖すぎる!


 僕はおそるおそる手を挙げた。

「も、もしかして……ここは、水龍さまのお腹の中……!? で、合ってます?」

 すると、水龍さまはどこか誇らしげに喉を鳴らした。

「うむ。そなた、我のナゾナゾは簡単だったか……」

 えええ……!?

 どうやったら灯籠の中を覗いただけで、水龍さまのお腹の中に辿りつくの!?

 僕は頭の中で盛大にひっくり返る。


 その巨大な瞳が、川底の光を宿して僕を見すえた。

「我の流れを超えてゆけ、セオトよ」

 名前を呼ばれた瞬間、胸の奥がじわりと熱くなる。


 でもその一方で——

 (いやいや、水龍さまのお腹の中って何!?どうやって超えるの!?)

 心の中では、全力でツッコミの嵐が吹き荒れていた。



 そんな僕をよそに、対岸でカゲミが大きく息を吸い込んだ。そして腹の底から響く声で叫ぶ。


「セオト! 俺が日本の川でブルーギルだったのを見つけてくれた。あのとき……嬉しかった!」


「セオト兄ちゃん、すごい!」

 カルマがぱぁっと顔を輝かせ、両手をぶんぶん振ってはしゃいだ。


 僕は、なんとか微笑みを作る。

「あ、ありがと。カルマくん」


 その間にも、カゲミは胸に手を当てるようにして続けた。

「水龍さまに守られて記憶が戻ったんだ。……俺、やっぱりお前のそばに居たい。瀬音が好きだ!」


 へ……?


 い、いま何て?

 ――影巫女になった美少女カゲミが、瀬音が好きって……?


 急流よりも速く、僕の思考がぐるんと反転した。

 ちょ、ちょっと待って……! 今の、空耳じゃないよね!?


 夢でも見てるのかと頬をつねりたいけど、そんな余裕すらない。

 顔が熱いのか寒いのか、もう訳がわからない。心臓だけがバクバク暴れている。


(いやいやいや、こ、これは……! いろんな意味で聞き捨てならないんだけど!?)


 耳の奥で、水流の轟音。

 すぐそばでは、水龍さまの穏やかな呼気が潮騒のように響いている。


 なのに――僕だけが頭を抱えてしゃがみこみそうだった。

 展開が、急すぎる。急流よりも、ずっとずっと急だよ……!











 おれたちは、水龍さまと自然に守られて、この地まで飛んできた。

 もちろん、幸運を、勝ちを運ぶために。


 もし、おれたちを見かけたら「いいことが起こる前触れだぜ」



 ――勝ち虫、ハグロトンボ。






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