表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/143

83 ササメは見ちゃった!?ハツユリの面影!?






 ふと、祠の奥を満たす影が、淡い光を帯びた。


 ――これは、記憶。

 昔この地にいた、初代の影巫女・ハツユリの残した想念だった。


 揺れる光景の中に、一人の少女が立っていた。

 白装束の小柄な背に、黒い霧が絡みつく。それでも彼女は、一歩も退かない。


『おいで……こわかったね。ひとりで、ずっと苦しかったね』


 ハツユリは影に向かって語りかける。影は牙をむくでもなく、迷うように震えていた。


『もう大丈夫。ここにいるよ。あなたを消したりしない。ただ、一緒に……流れに戻るだけ』


 少女は、闇溜まりの黒をそっと抱きしめた。その行為はあまりにも無防備で、あまりにも優しかった。


 ……闇が、震えた。


『……どうして、にんげんは、こわがらない……?』


 かすかな声が、影の奥から漏れる。


『こわいよ?』

 ハツユリは微笑んだ。

『こわいけど、置き去りにはしない。それが“影巫女”だから』


 ぽたり。

 ――影が涙のような黒い粒をこぼした。


『……ひとりで、さむかった……』


『うん。だから、いっしょに行こう。あなたもいつか“流れ”に戻れる。闇は悪じゃないよ』


 ハツユリが両手を広げると、黒い霧は墨のしずくのようにほどけていく。

 川へ帰るように静かに流れ、光の中で形を失っていった。


 ――光景は、そこまでだった。

 残ったのは、柔らかい風のような温もりだけ。



 ササメはじっと祠の奥を見つめ、影の尾を揺らす。

(……むらびとが、ササメと、よんでくれた。なまえをくれた。あのときのおれも……おなじだった……)


 薄闇の中、ハツユリの面影がひとすじの光となって消えていった。


 闇は恐れではなく、寄り添えば流れるもの――その真実だけを残して。




「おおーっ!ツバネとタリクが村長会議を開くって!?」


 どうやら、村長会議チームと、僕の救出チームに分かれていたらしい。

 鮎喰栄村へ向かう道中、みんなに状況を説明してもらいながら、僕はまだ胸の奥に残っているあたたかさを、そっと確かめていた。


 村人たちに見送られながら、僕たちは次の目的地――鮎喰栄村へ向かって歩き出した。


「すまんな。わしも同行させてもらうよ」

 窪底川村の村長が、深く頭を下げる。

「ええ、もちろん。村同士で話し合えるなら、それだけで大きな一歩ですよ」

 ミラさんが微笑んで答える。……ほんとに、すごい人だ。


「影巫女役を選ばないという決め事は、きちんと文書にすべきです」

 ミラさんがさらりと言い放つ。


「ぶ、文書……?」

「わ、わしらが、か……?」

 村長と村人たちが一斉にタジタジになった。


 そりゃそうだ。急に“文書化しろ”なんて言われたら普通は驚く。でもミラさんは全くひるまない。


「はい。口約束では、また誰かが“同じこと”をしでかします。繰り返さないためには、決まりを“形”にして残す必要があります」


「う……うむ……確かに……」

「言われてみれば……その通りじゃ……」


 村人たちが次々とうなずき始めた。理路整然としていて、しかも優しさがあるから、誰も逆らえない。


(ミラさん……交渉スキル高すぎない?)

 僕は心の中で拍手した。


「では、鮎喰栄村へ向かいましょう。村長会議はそこで行います」

「お、おう……よろしく頼む……」


 歩き出した村長の背中は、どこか不思議と軽くなっているように見えた。


 ――影に怯えていた村が、少しずつ前へ進み始めている。


 その流れを作ったのは、間違いなくミラさんだった。



 そうかー。ツバネとタリクは、もう村長なんだよな。

 あのケンカばかりしていた二人が、今では並んでメリフル村、ラグ・ノートリア村の先頭に立っている。なんだか不思議だし、ちょっと誇らしい。


 僕は――うん、新米ノートリア。がんばる。

 お祭りを楽しむ余裕はない。影巫女になったカゲミ……を飲んじゃった水龍さまに会えるのか!?その一点が、胸の奥でずっとざわざわしている。


「セオト、顔が真っ青だよ。大丈夫?」

 ミラさんが横から覗き込んでくる。


「あ、はい……ちょっと、緊張してるだけで……」

 自分で言って、苦笑いになる。緊張どころじゃない。胸の中では祭りの音より大きく、不安が鳴り続けていた。


 なのに、どうしてだろう。お祭りになると、泣いている子供に会ってしまうのは――。



「……ひっく……うぇ……」

 灯籠の下、ぽつんと膝を抱えて泣く小さな子がいた。迷子かな? いや、もっと切羽詰まった……誰かを探している顔だ。

「あ、あの……大丈夫?」

 僕がそっとしゃがみ込むと、子どもは涙でぐしゃぐしゃになった目をこちらへ向けた。


「……かげ、の……こわい……」

 小さな声が震えた。


 影が怖い――。胸がきゅっと痛くなる。

 カゲミのことを思い出したからか、それとも、僕自身の中にもまだ残っている“影”が反応したのか。


「そっか……。影って、たしかに怖いよね。でもね――」

 僕はそっと自分の手を子供の影にかざした。地面に映る影がゆらりと揺れる。


「影は、ずっと君から離れない大事な“おともだち”にもなるんだ。怖いだけじゃないよ」


「……わぁ……」子どもは涙を手の甲で拭いながら、影と僕を交互に見つめた。

「……ともだち……?」

「うん。ちゃんと向き合えば、すごーく強い味方にもなるんだ」


 そう言いながら、僕は思わず苦笑した。

 だって、影の中からじろっと睨んでくるカゲミのあの顔――あれを“味方”って呼ばないと、きっと後で怒られる。


「だからね。今は怖くてもいいよ。でも――」

 僕はそっと子どもの肩に手を添える。

「君は、ひとりじゃないから」


 子どもはまだ鼻をすすっていたけれど、呼吸はさっきよりずいぶん落ち着いていた。


 ああ……ほんと、不思議だ。大事な時って、なんで“泣いている子”に出会ってしまうんだろう。


 ――そして僕は、こういう時だけは、緊張を忘れて動けるんだ。


「よし、一緒に行こう。どこまで探せばいい?」

 子どもが涙で濡れた指で、灯籠の奥を指さした。


 その瞬間、影が揺れた。まるで――何かが呼んでいるみたいに。











 やわらかな気温につつまれた祠の奥の 淡いかがやきが消えようとしている。


 グルッ。

 (ハツユリの柔らかくて温かい光……ぽかぽか、してる)


 ……ゥグル、ルウゥ……。

 (……そうか、これが“愛おしい”ってやつか)



「グルゥ……」



 ――ササメ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ