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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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81 ミスっちゃった!?影溜まりの供物!?






「足をとられないように気をつけて」


 ミラさんの声の先には、足裏まで湿り気が染みこんでくる“乾かない土地”が広がっていた。

 窪地らしく、踏みしめるたびに靴底へぬるりと泥がまとわりつく。


「昔と変わってなければ、もうすぐ窪底川くぼぞこがわ村という村だね」


 少し前を歩くミラさんの背を追いかける。彼女は鮎喰栄あくいさかえ村まで僕たちを僕たちを案内してくれていた。


「こ、このじっとりとした空気……魔物でもいそうですわ!」


 リウラが両腕を胸の前でぎゅっと縮め、おびえた声を上げる。

 ゲルも、湿った草の影をじっと見つめてぴくりと肩をふるわせた。


 ――リウラとゲルは女の子だし、こういう時くらい僕が守らなきゃ。


 そんなことを考えた、その瞬間。


「えっ――」


 背後から、冷たい風のような気配が走った。何かが僕の胴を捕らえ、足が地面から離れた。


「う、うわあああああっ!?」


 視界が泥色から暗がりへ、跳ねるように切り替わった。


「瀬音ーー!!」


 リウラの悲鳴が遠ざかっていく。

 なんでだよ……なんで、僕をねらうんだーー!?!




 ――ピチョン。 ピチョン。

 洞の奥。黒い水滴のような音だけが反響していた。

 魔物は僕を地面に放り出したあと、落ち着かない様子でぐるぐると回っていた。


「グゥ……グルゥ……!」

 何度か僕を見ては、首をかしげるように鳴く。

 丸い影の耳がぴくぴく動き、完全に“ミスりました”と言いたげだ。


「な、なんだよ……その“違うの連れてきちゃった”みたいな顔……」


 僕がじりじりと後ずさると、魔物は尾のような影をぺしんと床に叩きつけた。

 その合図のように、洞窟の奥の薄闇から人影がぬっと現れる。


「……どういうことだ。わしは、少女を連れて来いと言ったはずだぞ?」


「ま、間違えたのか……?影の形で判断したんじゃ……」


 ざらついた声が洞に響く。

 粗末な法衣らしき布をまとい、松明の火に照らされた男たちの顔はひどく険しい。


「し、少女……?」

 背筋がぞわりと冷える。つまり、こいつらは――魔物を使って……?


「“影巫女祭”の供物に、男は使えん。なんでこんな……中途半端なのを……」


「半端って言うなぁぁぁ!!」

 あまりの言われように思わず叫ぶと、男たちがギョッとした。

 魔物もビクッとして、困ったように僕と村人を交互に見つめる。


「たしかに中性的で……髪も長くて顔立ちも……その……旅の娘に見えるな……」


「僕は男だよ!ちゃんと見て判断しろよ! それから”おにポチャ”は10代に向けた希望のメッセージなんだ!さすがの僕も本気で怒るよ!!」

 魔物が「ごめん……」みたいにらしきものを落とす姿で、逆にイラッとする。


「おまえら、なんでこんなこと――?」

 勇気をふりしぼって問いかけると、村人のひとりが唇をゆがめ、低く押し殺した声で言った。


「影巫女祭。闇を鎮めるために“影持つ少女”が供物として必要なのさ。……二年に一度のことだ。村を守るためだ」


「そんなの……!」


 言い返そうとした、その時――。



 洞窟の入口の方で、ぱち、と火花のような光が散った。




「瀬音、下がって!」

 その声は、聞き慣れたミラさんだった。


「っ……!?」


 村人が驚いて振り向く。

 入口にはミラさんが立ち、杖の紋が青白く輝いている。その横から、怒りに震えるリウラが駆け出した。


「瀬音に何をするつもりですの!!?」

「お、おい待て!儀式のためで――」

「儀式でさらっていい理由にはなりませんわ!!」


 リウラの一喝は、湿った洞窟に鋭く響いた。

 胸の奥がふっと軽くなる。助けが来たんだ――。


 だが、村人は必死に言い返す。

「だ、だめなんだ……もうすぐ“影溜まり”が起きる!少女を捧げなきゃ、村が――」

「だからって、無関係の人を攫っていい理由にはならない!」


 ミラさんの杖から、再び光がほとばしる。


 光を浴びた魔物はびくっと震え、村人たちは壁に押し返されるように後退した。


「瀬音、立てるかい?一刻も早く外へ」

「……う、うん!」


 ミラさんの手をつかみ、僕はなんとか立ち上がる。


 魔物は混乱したまま、小さく「グル……」と鳴いた。その声は敵意より、不安と戸惑いが濃かった。



 洞窟の外に出ると、ようやく湿った空気から解放された。

 だが村人たちは逃げずに追ってきて、泥に膝をつき頭を下げた。


「頼む……聞いてくれ……!」

「村を守るためには、影巫女が必要なんだ……!」


 影巫女――“影を持つ少女”の影を捧げる儀式。


 リウラが強く眉をひそめる。

「供物なんて、許されるはずありませんわ!」


 村人のひとり、白髪まじりの男が必死に首を振った。

「違う!捧げるんじゃない……“影を持つ者”しか、影溜まりを止められないんだ……!」


「影溜まりって……?」

 僕がたずねると、男は湿った地面をにらみつけながら話し始めた。


「あの土地は……長い間、闇の流れが澱んでいる。水が腐るように、影が溜まって爆ぜる“影溜まり”が起きるんだ。もし爆ぜれば、村は飲み込まれる……」


 別の村人が唇をかみながらつぶやく。


「影巫女祭は……“供物”じゃない。影に強い子が、影の流れを一時的に吸って安定させる儀式なんだ……。本来は、影を“祓う”んじゃなくて“受け取ってくれる者”が必要なんだよ」


 ――影を受け取る器。

 供物というより、封印の器か。


 ミラさんが細く息を吐いた。

「でも、なぜ少女限定なの?」


 村人たちは互いに視線をかわし、最年長の女がようやく口を開いた。

「もともとは巫女の血筋が担っていたんだよ。代々、その娘だけが影を受け止められた」


「その血が……絶えてしまったんですね……?」


「……ああ。十年前に最後の巫女が亡くなったんだ」

「だから、それ以来ずっと……影溜まりは、魔物に無理やり吸わせて抑えていた。だが、もう限界なんだ……」


 さっきの魔物――怯えていた理由がようやくわかってきた。影を吸わされ、限界までこき使われていたんだ。


「じゃあ、僕をさらわせたのも……」


 村人は深くうなだれた。


「巫女に似ていたからだろう……。影の色と、影の形が……昔の巫女そっくりだった」


「僕……そんなに女の子っぽいのかな……」

 ちょっと傷ついたけど、今はそれどころじゃなかった。











 グルゥ、グルル……ルゥゥ……。

 (おれは、まちがえたのだ。細い影。ふわっと広がった髪のシルエット)


 グッ、グルルゥ……グルゥ。

 (線がやわらかくて、光をよく吸う影色。――少女だ、そう思った)


「僕は男だよ!!」


 (おれ……まちがえた……?)


 ――祠の魔物。






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