8 歌っちゃった!?キュリパッパのラップ!?
むかしむかし、メリフル村はひどい干ばつに襲われ、人も畑も渇ききってしまった。
その時、川からカッパ様が現れ、「相撲で我を投げ倒せば、水を授けよう」と言った。
村人たちは力自慢を集めて挑んだが、誰ひとり勝てなかった。
最後に、小さな子どもがカッパ様の皿にちょんと手をついた。
その拍子にカッパ様はひっくり返り、皿の水が地にこぼれ落ちて泉が湧いた。
水を得て大喜びの村人たちに、カッパ様は「祝いじゃ祝いじゃ~!」と歌を歌った。
その歌は不思議と渇きを癒し、人々の心まで潤した――まるで水そのもののように。
それ以来、メリフル村では毎年「カッパ様相撲大会」を開き、勝敗のあとには必ず「カッパ様の歌」を歌う。
――水と笑いと歌があれば、渇きは恐くないのだ。
メリフル村で僕を待っていたのは――ヤバいくらいの熱気だった。
中央広場の真ん中に土俵が組まれ、力自慢たちが次々とカッパ様に挑んでいる。
「ワッショイ!押せ押せーっ!」
「皿を乾かせーっ!」
転がる挑戦者、ドッカンドッカン笑う子どもたち。
……え、これ本当に祭りなの?
僕が近づいたその瞬間――。
村人のひとりが鼻をヒクヒクさせて、僕を指さした。
「おおお!?この香り……瀬音さまはカッパ様の赤ちゃん!?」
「ほんとだ!“キュウリの香り”がする!」
「ありがたや~!ご神託だぁぁ!」
あっという間に村人全員が僕を囲んでワーッと大騒ぎ!
え、ちょ、待って!?僕そんなに匂う!?めっちゃショックなんだけど!?
「さあさあ、カッパ様の加護を持つ若人よ、こちらへ!」
あれよあれよと強制的に両脇を抱えられ、僕は土俵のすぐそば――特等席に押しやられてしまった。
「ひええ……ぼ、僕ただのノートリアですから! ノートリア!」
必死で抗議しても、村人たちは満面の笑み。
「瀬音さまが見守ってくれるなら、今年の大会は勝てる!」
「いやいや、勝ち負けよりも“お祝いの歌”がもっと楽しくなるぞ!」
……なんだかとんでもないことになってる気がする。
土俵の上ではカッパ様が仁王立ちして、ドヤ顔で両手を広げていた。
「来るがよい! 吾輩を倒せば水も歌もやるぞーッ!」
太鼓が鳴り響き、掛け声が飛ぶ。僕の心臓もドキドキと踊りだす。
この空気……すごい。渇きに苦しんできた村なのに、笑顔が満ちている。
倒された若者たちでさえ、悔しさより楽しさを顔に浮かべていた。
――この村は水を待つだけじゃない。歌や笑いで心を潤してきたんだな。
気づけば僕も自然と笑っていた。
特等席に座らされながらも、妙に誇らしい気持ちになって。
やがて勝負が終わり、カッパ様が大の字で寝転んだ。
「ふぃ~、やっぱ最強は吾輩!屁のカッパなのだ!さて……お祝いだッパ!」
村人たちが一斉にワッと立ち上がる。
「来たぞ!カッパ様の歌だ!」
「待ってましたー!」
太鼓がドンドコ、笛がヒュルル~♪
カッパ様はちょこんと座り直すと、頭のお皿をピカッと光らせて歌いだした。
両手を叩いてリズムを刻みながら――
「キュリパッパー♪ キュリパッパー♪
きゅうりひと切れ しあわせ三つ~♪」
え、何これ!? 耳から離れないリズム!体が勝手に揺れるんだけど!?
「キュリパッパー♪ キュリパッパー♪
瀬音とマヨで 村もにっこり~♪」
「えっ!? 僕、歌詞に入ってる!?」
顔が一気に熱くなる。
村人たちは手を打ち鳴らし、大合唱が広がった。
……ザァァァ――
喜びの雨がしばらく降り、大地は少しだけ湿り気を帯びた。
これだけでは渇きは癒えないけれど、、メリフル村は大歓喜に包まれた。
「ルンパッパー!」「ルンパッパー!」
「カッパッパー!」「カッパッパー!」
「ツナマヨ最高ーッ!」「最高ーッ!」
村人たちのコール&レスポンスで、広場はライブ会場みたいな盛り上がり。
足を踏み鳴らすリズムに、僕も手を叩いてた。
渇きに苦しんでいた人たちが、笑って、叫んで、みんなで声を合わせる光景に。
「いやぁ……すごいな……」
僕は思わず見惚れてしまう。
カッパ様がどっかり腰を下ろし、胸を張って宣言した。
「吾輩の皿に雨水が!聖水ができるのじゃ!」
「おおお!」
村の空気が笑いと歌で潤って、その気持ちにカッパ様が応えてくれたんだ。
乾いた風がまた吹き始めた広場。
けれど僕たちのまわりだけは、温かな空気に包まれていた。
「不思議なノートリアだな、瀬音は。やるではないか」
ツバネが片目を細めてにやりと笑う。
「村人の心を一瞬で掴んだ。拙者でもあそこまでは自信がない」
「つかんだって……ただ、ツナマヨの話を覚えてただけし、カッパ様が雨を降らせてくれたんだし……」
僕がしどろもどろに返すと、タリクが背中をドンと叩いた。
「いいじゃないか!それが実力ってもんだ。心に残る味を残せるなんて最高じゃねえか!」
「ふふっ、そうですわ」
リウラが胸に手をあて、まっすぐ僕を見つめる。
「水精霊として断言しますけれど、セオトが与えた“潤い”は、確かに村人を救いましたわ」
リウラの真剣な瞳に、頬が熱くなる。
「……あ、ありがとう」
「ちょっと!セオト!何照れてんだよ!」
すかさずカゲミが突っこんでくる。
「ツナマヨだの、なんだのは偶然にしても、でも……」
ちらっと目をそらし、ぽつり。
「……あの場に立って、ちゃんとみんなに向き合ったのは、セオトだったんだから」
「……カゲミ」
胸がじんわりして、言葉が詰まる。
「せおと!すごい!」
「かっこよかったー!」
「まよの人ー!」
みるん・きくん・はなすんがぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃぐ。
「いや!マヨの人じゃなくてノートリアだから!」
慌てて手を振る僕に、みんながどっと笑った。
笑い声が重なる。
渇きに苦しむ村の中で、それでも笑いあえる――それが何より尊く思えた。
(……僕はまだ、流されてるだけかもしれない。
でも、この仲間たちと一緒なら――流されても、きっと前に進める)
――サラサラ、サラ……。
腰の記録帳を取り出し、震える手で書き留める。
『メリディフルーメン村。人々は渇きを忘れ、歌に声を重ね、笑顔で水を待つ。
その歌は、心を潤す水のようだった――』
ペン先が紙を走るたび、胸の奥で波紋が広がっていく。
村の渇きを止めて、清らかな水を流すことをリヴァー・プリスティンの名にかけて誓おう――。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
大活躍のあの神様の末裔が伝えたいそうです。
どうじゃ、吾輩のラップはノリノリだったじゃろ?
え、ダサい? ……ぐぬぬ、そこが良いんだッパ!
でもな、歌も笑いも、渇いた心に水を流す大事な力なんじゃ。
人は笑えば強くなる。歌えば、ひとりじゃなくなる。
さあ、おぬしらも日々の暮らしで渇いたら、声を合わせて歌うがよい――
『キュリパッパー♪ キュリパッパー♪』
……おっと、また始まってしまったッパ!
へ?評価してほしいって?そんなの屁のカッパなのじゃ!
ではまた会う日まで、皿をピカピカに磨いておくのじゃぞ!




