74 アタッークしちゃった!?レベチの母さん!?
「ここは”灰のマス”だから、慎重に……」
「なんかタクちゃんとこ、ゴツゴツしてるね?ゴツゴツにアタッーク!」
ぽちっ!
――ピカァァァッ!
「えっ!?母さん、ちょ、押さないで――!」
盤がまぶしく光り、風と水のルートが一気に書き換わる。灰色だったマスが一面の花畑に変わった。風が吹き、光が走り、盤全体の流れが一気に整っていく。
「水巫女が灰マスに触れた。――キュリシアが、穏やかに甦った!」
「……え?えぇぇぇぇ!?すごい!母さんありがと!」
「えっへへー!キレイになったね!」
母さんが盤の花畑を作ったのを、静かにそれを見ていた父さん――マモリが、ふっと笑った。
「なるほど……“感覚”で勝ちを拾うか。面白いね、エイミ」
「うふふ。記録の流れを感じただけよ?」
いつもの穏やかな声。けど、その目が――きらりと光った。嫌な予感しかしない。
父さんは盤の駒をひとつ取り上げ、低くつぶやく。
「じゃあ、俺は“力”で勝たせてもらおうか」
その瞬間、風が鳴った。盤の上のマスが、ざわざわと木々のように揺れる。
「ま、待って父さん!?これただのすごろくだからね!?そんな魔力こめないで!」
「遊びにも誇りは必要だ。エルフの端くれとして――負けるわけにはいかん!」
ルーレットが回る。
――キュルキュルキュル……ピタッ。
出た目は「プラス10」。盤上の木々が一斉に芽吹き、黄金の小径が現れた。
「50金貨発見。冷光の森で、新種の植物を発見!」
「……で、出たぁ……!?父さんの“ガチモード”……!」
僕はもう膝から崩れ落ちるしかなかった。
「ねえ、ルミア。魔力使ってルーレット回していいの!?」
「おもしろくなってきたからアリでいいよ」
え!?……いいんだ。楽しそうなルミアがいた。
母さんはのんびり笑って、肩をすくめる。
「ほんと、負けず嫌いなんだから」
「勝負とは常に真剣勝負だ、エイミ」
「へええ、魔力もアリなんだね。感覚派は強いね。まあ私は”理論”と”歌”で堅実にいくよ」
ミラさんが出した目は「プラス15」
傷ついたアオハの町に到着。ミラさんの優しい歌声が僕の耳に届く。
「アオハの町に歌を贈る。――500金貨獲得」
気がつけば、盤の上はにぎやかだった。
ツバネたちは、大がかりなすごろくとルーレットを見て、最初はビクビクしてたけど……慣れると案の定、騒ぐよね。
ツバネは真剣な顔でコマを握りしめ、タリクは横からちゃちゃを入れている。
「お前、またズルしただろ!」「してない!」その応酬が懐かしくて、なぜか笑ってしまった。
その横では、母さん――エイミがひとり、誰も想定していなかったマス目を突っ切っていた。まるで盤そのものが道を譲るみたいに、すいすい進んでいく。
なんでだか、いつも母さんは“うまくいく”。考えるより先に動いて、気づけば全部ちゃんと整ってる。
ルーレットをまわすと――
「ヴェルダインの祝福箱から、絶対的無敵チケット2枚獲得!なんでもできちゃう、キュリシアスター!」
「じゃあ!おかえりの扉を使って、禁書ホンホンちゃんを救出してちょうだい!もうひとつは、キュリシアにツナマヨを届けてあげて!」
――ピカァァァッ!
ホンホンが、まるで呼応するように光の中から扉がふわりと現れた。
「ただいまだ!ホンホンホン~!」
パッっと出てきた禁書が嬉しそうに母さんの周りをくるくる回る。
「おかえりなさい!ホンホンちゃん!」
感動シーンだ。母さんとホンホンに花吹雪がハラハラ舞っている。
キュリシアにも、ツナマヨがカムバック!母さんすごすぎる。
「すげぇ!あの人、なんか加護付いてねぇか……!?」
「エイミさんて、記録を読むんじゃなくて“感じてる”のよ。記録より速いの、感覚が」
「ほんと、母さんの行動は僕とはレベチなんだよな……!」
セリアンは、金の豚の鐘の町で歌いはじめると、突如金貨が沸いてきて、その金貨を使って噴水を修理した。すると、移動速度2倍の靴を手に入れ、挽回をはかっているところだ。
「な!?拙が村長!?」
ルーレットをまわして、止まった場所。ツバネはメリフル村の村長になった。
「ふははは!お前が村長!?笑える!」
ツバネを笑っていたタリクだがルーレットをまわすと――ラグ・ノートリアの村長になった。
「仲がよろしいことですわ~」
「お互い譲りませんね」
リウラとゲルは、ころころと笑っていた。
ツバネはなぜか胸を張って宣言した。
「拙者、メリフル村の村長になる!この盤みたいに、みんなが笑える村を作る!」
タリクがすかさず眉をひそめて言う。
「ふん、ならワイはラグ・ノートリアの村長や!あの森と滝を守るんや!」
結局ふたりはまた口げんかを始めたけど――その声に笑いがこぼれた。前みたいに、にぎやかで、優しい空気が戻ってくる。
僕は――僕は……母さんのおかげで良い流れが来て、いいとこまで行ったのに……。
「川の氾濫で流される。スタートに戻る!?」
……なんだか、にぎやかな声がたくさん聞こえる……。
目を開けると、草むらにうずもれていた自分に気づいた。
寝てた……。またやっちゃったみたいだ。
でも、盤の上ではみんなが楽しそうにすごろくを進めている。
ルミアの駒が光り、エイミさんが花畑を作って、マモリさんはガチモード全開。
ツバネとタリクはいつも通り口げんかしながらも村長として活躍してる。
師匠・ミラさんは、優しい歌声で盤に光を灯している。
……ああ、こんなふうに、みんなが楽しそうなのを見るだけでも、なんだか安心する。
僕はつい寝ちゃってたけど、それでも世界はちゃんと動いているんだなって、静かに胸が温かくなった。
寝てばかりで、なんだか情けない自分。
でも、みんなの笑い声が、遊びの光が、僕を包んでくれる。
「おや、起きたかい?スイタン。私もさっきまで寝てたんだよ」
ほがらかにセリアンが言った。
寝起きの良いセリアンにつづき、寝起きの良いスイタンであった。




