表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/142

73 再開しちゃった!ルミアとのすごろく遊び






 灰の中から立ち上がったルミアは、しばらく黙っていた。

 風の音も、世界のざわめきもない。ただ、手の中のすごろく盤だけが、かすかに呼吸をしているように光っていた。


「……おかしいな」

 ぽつりとつぶやく。

「俺は、何かを“創った”はずなんだ。世界の形を決めるような、大きなものを。でも、もう思い出せない。どうして作ったのかも、誰と作ったのかも」


 ルミアは反筆を振るい、フレクシアを追放した。その代償として、彼自身は創造の記録を失った。ゲル、リウラ、フレクシア――彼にとって大切だった名は、灰の彼方に溶けていった。



 盤の上で、駒がひとりでに転がる。ルミアはそれを見つめ、ゆっくりと笑った。


「俺が――俺たちが、新たな流れを創るんだ!」


 タクミが首をかしげる。

「みんなで遊ぶってこと?」


「ああ。遊びは記録よりも正直だ。勝ち負け、偶然、笑い、悔しさ。どんな歴史よりも、“いま”を描いてくれる。記録を失っても、遊びの中でなら、世界はまだ“続いている”と感じられるんだ」


 ルミアは盤の中央に指を置き、ひとつ息を吸った。

「――俺が忘れたものを思い出すために。もう一度、最初のすごろくを始めよう」


 盤の上で光がうねり、駒が踊るように並び直す。遠くの水面に、誰かの笑い声が反射する――フレクシアの声か、記録の残響かは誰にもわからなかった。


 ルミアは掌の上で、ひとつの駒を転がした。それはまだ色を持たない、灰と光のあいだのような駒。表面にはかすかに記録文字の痕が刻まれている――けれど、もう読めない。


 彼は僕を不敵に睨み、笑った。

「魂を込めろ!タクミ君――これが最初の一手だ」

 そして盤の中央にその駒を置いた。


 ――コトン。


 久しぶりの“音”が世界に戻った。


 波紋のように盤の線が広がり、マスのひとつひとつに淡い光が宿り、やがて街の輪郭を形づくる。空が色を取り戻し、風が再び流れはじめた。


「動いた……!」

 僕も、みんなも息をのむ。


「これは、“記録の再生”じゃない」

 ルミアが静かに首を振る。

「遊びの“はじまり”だ。記録が消えたなら、遊びで描き直すしかない。それが俺たちの――生きる意味だ」


 ルミアは目を閉じ、微笑んだ。

「だから。次は――君の番だ、タクミ君」




 それからのルーレットは、プラスの数字を出し続けた。


 ミラさんは、さすがセリアンの師匠だけあって、教え方もうまく生き抜く術も心得ている。焦ることなく、一歩ずつ確かめるように進む。

 すごろく盤の上で、彼女の指が示すマスには、いつも小さな光が宿る。それは、まるで次の道を“照らす灯”のようだった。


「タクミ君、記録を燃やすときは、灰を風に流して。“燃やすこと”もまた記録になる」

「リウラちゃん、言葉を隠したいときは、水に沈めて。沈んだ言葉は、誰かが拾うまで眠る」

「ツバネ君、風を読むの。追い風のときは話す、向かい風のときは黙る。それが、生き残る一番のコツ」


 どの言葉も、冗談のようでいて、深い。彼女の歩んできた旅路が、ひとつひとつの助言に染みこんでいる。


 彼女のリードに従い、僕たちのすごろくは進行していく。危険なマスを避けながら、時には戻り、時には遠回りをして――

 けれど、不思議と不安はなかった。ミラさんが笑うたび、盤の上の風景に、少しだけ色が戻っていくような気がした。そして僕たちは、その光を頼りに、盤の先へ進んでいった。



 ――彼女の言葉には、いつも少しだけ“痛み”が混じっているのに気がついた。

「ミラさんは……昔、何か失くしたことがあるの?」


 彼女は笑って、盤の上に指をすべらせた。

「失くした?ううん、“残しすぎた”のよ。――記録をね。あの頃の私は、何もかも正しく残せば世界が救われると思ってた」


 すごろくのマスがひとつ進む。足もとで、光が一瞬、陰る。


「でも、残しすぎた記録は、やがて人の心を縛る。“この道を歩け”って、他の選択を奪っちゃうの。セリアンにも教えなくちゃね」


 セリアンの名前を口にしたとき、ミラさんの目がやわらかく揺れた。

「アイツは、私よりずっと優しい。きっと記録を燃やすとき、ちゃんと祈る。“ありがとう”って言って、灰を見送る歌を歌うんだ」


 盤の上を、風がひとすじ流れた。マス目の模様がかすかにきらめき、次の道筋を示す。



「そういえば、セリアンを起こさないとね」

 ミラさんはそっと目を閉じた。


 静かな呼吸とともに、声が流れ出す。それは言葉というより、光の粒のような歌だった。盤の上の空気が震え、駒がひとつ、かすかに揺れる。


 ――ああ、これが。ルミアが言っていた“魂を込めろ!”ってことなんだ。


 記録でも、命令でもない。ただ「想う」こと。心の奥で、もう一度、誰かを迎えること。


 その光の渦の中で、ひとつの影が静かに動いた。灰色の世界に、かすかな色が差す。――セリアンだ。


 ゆっくり目が開く。まだ眠りの残る瞳に、盤の光と、ミラの歌が映る。


「……ここは……?」

 声はかすかに震えていたが意識はしっかりしていた。

 ルミアがセリアンの駒を置く。

「セリアン、まだ遊べるかい?」


 セリアンはゆっくりと立ち上がり頷く。盤の上に光の輪が広がり、影が色を取り戻していく。かつて灰に沈んでいた輪郭が、確かな形として現れる。

 息を整え、掌に触れる駒を手に取る。まだ淡く灰色がかった光を帯びていた。


「――よし」

 セリアンが駒を置き終えると、光の波紋は盤全体に広がり、微かな風が吹いた。

 その瞬間、風と光、音と影が交錯し、すごろくの世界は一層鮮やかに動き出す。


「よし……これで、遊びの再開だ」

 ルミアの声に、ほんの少しの誇らしさが混ざる。僕たちは意識が戻ったセリアンをみてホッとした。


 ミラさんは微笑み、盤の光を指先で撫でる。

「さあ、これからは――自分たちの手で、道を描くよ!」


 すごろくは、もう一度、光と影の中で動き出した。

 遊びの始まり。忘却のあとに、生まれた新しい世界の第一歩だった。












 俺が目を開けたとき、最初に感じたのは盤の上を満たす柔らかな光と、かすかな歌声だった。

 ――ミラ師匠の歌だ。


 灰色に沈んでいた世界に、色と音が少しずつ戻っていく。俺はその中で、ふたたび立ち上がった。

 でも正直に言えば、また意識をなくしてしまった自分に、情けなさと恥ずかしさでいっぱいだ。


 二度目だ。前もああして眠ってしまったのに、今度もまた――みんなの前で弱い自分を見せてしまった。

 でも、盤の光が、師匠の歌が、俺を呼び戻してくれた。


 ルミアが駒を置き、俺に手渡してくれた瞬間、気づいた。

 これはただの記録の再生じゃない。遊びを通して、俺たちはもう一度世界を描き直せるんだと。


 師匠の歌が、俺の胸の奥に染みてくる。

 弱くても、情けなくても、仲間と一緒なら――立ち上がれる。

 このすごろくの上で、もう一度、俺は前に進む。


 少しだけ、笑いながら。

 少しだけ、恥ずかしがりながら。

 でも確かに、心は光に満ちていた。



 ――寝起きは良い派、セリアン。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ