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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第2章

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72 怒らせちゃった!?フレクシアの追放!?






 ――音が、消えた。


 鈴のような余韻を残して、風が止まり、波がほどけていく。まるで誰かが世界の「再生」ボタンを押し忘れたみたいに。


 色が、ぬけていく。

 青も、金も、白も――すべてがやさしく灰に溶け、光と影の区別さえ曖昧になる。


 キュリシアは、世界でなくなっていった。空は灰紙のように平らで、街の輪郭はスケッチの途中で止まる。人々の声は泡のように消え、鳥の羽音も、鐘の音も、記録のように静止した。



 白と黒の境目に、ルミアはひとり立っていた。

「フレクシア!……壊すことは許さん!」

 短く刈られていた黒髪が、風に煽られながら伸びていく。つむじ風が立ち、腰まで届く髪が光を反射して舞った。


 ルミアは、正面にいるフレクシアを鋭くにらみつける。

「俺の目的と――孤独と――歴史に背くつもりか」

「そんなつもりはない!……だって、退屈だったんだもん!おもしろくしたっていいじゃない!」


 ひび割れたすごろく盤の欠片が、まるで光の紙片のように宙を舞う。


「退屈、ね。君は昔からそればかりだ」

 ルミアはひと欠片を拾い上げ、ほほえんだ。

「たしかに俺の時間は、ほかの誰よりもゆっくりと流れてる。それがどれほど退屈でも……愛するものを壊されて黙っている気はない」


 ――スパァァンッ!


 盤が裏返り、閃光を放ちながら元の位置に戻る。天地が一瞬、ひっくり返ったようだった。


「うわぁ!……これって、キュリシアは、どうなっちゃってるのかな!?」

 影響が少ないことを僕は祈った。




 ――盤がひっくり返った、その刹那。


 再起動ボタンを押したかのように、世界が動きはじめる。


 キュリシアの空が、ざらりと音を立てた。青でも白でもない。塗りかけのキャンバスみたいに、色がほどけていく。


「……なに、これ……?面白い……?」

 市場の少女が見上げた。いつも流れていた風が、まるで別の方向へと吸いこまれていく。


 噴水の水が止まり、時間がゆっくりと反転した。

 落ちていたリンゴが、地面からふわりと浮かび上がり――逆さに積み上がる。


 町全体が、巨大な盤の上に乗っていたかのように、軸を中心にゆっくりと回転し始めた。

 建物が倒れず、光だけが上下を取り替える。空と大地が入れ替わり、海が空に、雲が地に落ちた。


 だが人々はその変化を“感じられない”。笑っている者はそのまま笑い、歌っている者はそのまま歌っている。

 ――まるで誰かの記録の上で、時間だけが巻き戻っているかのように。



 透明な影が、光の粒の中で笑う。フレクシアだ。輪郭はゆらめき、まるで風のいたずらみたいに形を変えている。


「おまえ……!今のも干渉したのか!?」


「だって、“遊び”がなきゃ、生きてる意味ないでしょ?あんたの“記録”は、なんかこう……カタすぎるのよ。冷たいの」


「冷たくなければ、長く残らない」

「冷たすぎたら、誰も触れないじゃん」

 フレクシアの笑みが、光の中でかすかにゆれる。

 まるでこの世界のルールそのものをくすぐるように、足元の地面が波打つ。


「なら――もう一度、描き直すしかない。……反筆、来い!」

 ルミアの手の中に、黒い羽根のような筆が現れた。ツバネが持ってきた反筆。ルミアによって創られたもののひとつだ。記録の反対――“記す”ではなく、“消す”ための筆。


 ルミアはそれを、静かに構えた。


「ルミア、それ、やめなよ。そんなの使ったら……」

「……俺が何を失うか、わかっている」

 彼は視線を伏せた。灰色の風が髪をほどき、肩に流れる。

 遠くで、かすかにゲルの声がした気がした――けれど、それも音のない世界に飲まれて消えた。


「記録を守るには、誰かが線を引かなきゃならない。おまえの“遊び”は、あまりにも線を越えすぎた。フレクシア、おまえをキュリシアへ追放する!」


 反筆の先が、宙を走る。触れた場所から、光が吸い取られていく。フレクシアの体が透けていく。


「やめてよ、そんなの――つまんない……!」

 フレクシアが駆けだす。だが、足元が描かれていない。線が消えた場所には、もう立つこともできなかった。


 ルミアは筆をひと振りし、黒い羽根を散らす。その一瞬、光が走り、フレクシアの姿が白に溶けた。


「ルミア、ごめん。――次の遊びでまた会おうね」

 彼女の声だけが残響のように響き、灰色の空へ吸い込まれていった。


 静寂。


 反筆が地に落ちる音すら、もう聞こえない。ルミアは膝をつき、灰の中に手をついた。


「……みんな、誰だったっけ……?」

「ルミア……雫さん!」

「ああ、タクミ君。俺……原始の記録が消えたんだな。他の記憶はある……はず」


 記録の守人の胸に、ぽっかりと穴が空いた。

 それは風よりも静かで、言葉よりも確かな――“忘却”の形をしていた。











 ――ねぇ、見た? あのルーレット。

 止まったの、「マイナス25」だったんだよ。

 あのときは笑っちゃった。だって、マイナスなんて普通、出ないでしょ?


 それから、音が消えた。

 風も、色も、みんな止まって――灰色のキュリシアができた。

 ルミアが怒るのも、当然だよね。

 でも、退屈だったんだもん。

 誰ももう、夢を見ようとしなかった。記録ばっかりで、遊びがないんだもん。


 ……でもね。私は、止められないんだ。

 だって、“動いてる”世界が好きだから。

 たとえ壊れても、その瞬間が生きてるってことだもの。


 ――次のルーレットは、誰が回すのかな?

 できれば、プラスの目が出ますように。


  ――フレクシア






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