70 恥ずかしすぎちゃった!?罰ゲームの巻物!?
「はぁ、静かでつまんない。ルーレット回すのも飽きちゃったから、タクミ君を覗きに行ってくるね」
フレクシアはふっと姿を消した。ルミエはただ、そこに佇んでいる。
草むらに埋もれたスイタンの足もとから、そっと草の芽が顔を出した。
それは――禁書スイタンを助けようとしていた禁書ホンホンの仕業だった。
そうか……全部、繋がっていたんだ。そのことに気づいたスイタンは、静かに息を吸い込んだ。
このすごろくを終わらせるのは――自分だ、と。
だったら、その時まで待てばいい。私は、待つのも待ちぼうけも得意さ。
草の道を、生えるままに歩いていく。
その先に――ミラさんと、父さんと、母さんがいた。
三人とも、光をはじくような衣装に身を包んでいる。
「ど、どうしたの?その格好!?」
「あら、タクちゃんだって記録師の制服じゃない?」
言われて初めて、自分の姿に気づく。白地のノートリア制服――袖口に淡い青の水の紋章。まるで、儀式の始まりを告げるようだった。
「ということは……?」
ミラさんは吟遊詩人で“風のノートリア”、
父さんは“森のノートリア”、
母さんは“水巫女”の衣装に――。
それぞれが、まるで違う時代の物語から抜け出してきたみたい。少し照れくさいけれど、どこか誇らしい。
「えっへへー。似合う?」
「うん! 母さんナイスバディだから、めっちゃ似合う!」
……あれ。父さんが、すごくこっち睨んでるんだけど。
「昔、着ていた服だね。こういうのも――コスプレっていうのかな?」
ミラさんが、さりげなく空気を中和してくれる。
その一言で、場の緊張が少しだけほどけた。
「ああ、いたいた」
軽い口調でフレクシアが現れる。その笑みは、どこか退屈をまぎらわせるようだった。
「さて――罰ゲームの時間だよ」
指をくるりと回しながら、彼女は宣言する。
「題して!”あっちむいてホン!”」
空気が、ぴんと張りつめた。まるで、遊びの名を借りた裁きの儀式みたいに。
「じゃんけんぽん――あっちむいてホン!」
フレクシアの掛け声が、水面に弾けた。
「ま、負けた……」
安定の僕が最下位。母さんがトップだ。
勝ち誇ったように両手を腰に当てる母さんと、なぜか本気で悔しがる父さん、横でケラケラ笑ってるミラさん。
まるで家族旅行の延長みたいなのに――この盤上が“禁書の舞台”だと思うと、胸の奥がざわめいた。
フレクシアが静かに掌を掲げる。
「はーい。最下位タクミ君、罰ゲーム決定~」
手のひらの上に、くるくると巻物が現れた。
「このお題をここに書いてね」
「お題は――『僕、青木沢海は、“あっちむいてホン!”でドベになりました(碧貴瀬音)』……なにこれ!?なんか、めっちゃ恥ずかしいんだけど!」
フレクシアは、にこりと笑う。
「うん。だって――それ、キュリシア中に広まるからね」
その瞬間、場の空気が変わった。
笑いがしん、と止まり、草の音すら消える。巻物の紙がかすかに光を帯びて――まるで、何かを“記録”し始めていた。
――その頃、大混乱のキュリシア。
なんとか水紋亭まで避難したツバネとタリクたちは、突如、天井からふわりと舞い降りた巻物を見上げた。
「な、なんだこれ……?」
ツバネが顔をしかめる。巻物は勝手にほどけ、声が響く。
『罰ゲーム。僕、青木沢海は、“あっちむいてホン!”で全敗しました!ドベです(碧貴瀬音)』
……沈黙。
「………………え?」
「………………誰の儀式だ?」
「儀式じゃなくて、恥さらしだろコレ!」
ツバネが頭を抱える。タリクが外を覗くと――町中の空に、同じ巻物が浮かんでいた。
「……おい。あれ、全部……?」
「これは……全世界同時配信!」
いつの間にか現れたゲルが、冷静に、しかしどこか震えながら言った。
風が吹き抜ける。空を埋め尽くす巻物が、煌めきながら同じ言葉を繰り返している。
――「僕、青木沢海は、“あっちむいてホン!”でドベになりました!」
反筆が、静かに口を開いた。
「……ここから消えたフレクシアの仕業だろうと推測する」
「だよな。この状況、理解不能すぎるもんな……納得」
タリクは深く息をつき、こめかみに手を当てた。
頭痛の予感がする。
その時――。
「お~~いッ!セオトはまだ戻ってこないのかッパ!吾輩、キュウリの恋人マヨが恋しいのだぁぁぁッパ!」
突如、水煙を上げて現れたのは――カッパ様だった。
あまりのタイミングに、一同の思考が止まる。
「……誰か、今この混乱のタイミングで恋バナしてるヤツ止めてくれ」
タリクの乾いたツッコミが、虚しく響いた。
「いや、待て。――カッパ様、その“マヨ”って……何だ?」
ツバネが眉をひそめた。
空気が、ぴたりと止まる。聞き慣れないその単語に、周囲の記録師たちが顔を見合わせた。
「そんなまさか……そうだ!ワイも……“マヨ”を知らない!?」
タリクが半ば呆然とつぶやく。
その瞬間、カッパ様の顔が青ざめた。
「ま、まさかッパ……“ツナマヨ”の記憶が――消えてるッパ!?」
「逆に、カッパ様はどうして”ツナマヨ”を知ってるんだ!?」
「吾輩はカッパである。神様の末裔だッパ!」
水紋亭内では、カッパ様、最強説がささやかれた。
「神様の末裔って……それ、どういう意味だ?」
ツバネが問うと、カッパ様は腕を組み、得意げに鼻を鳴らした。
「小賢しい策は吾輩には効かぬ!ということだ。そこの反筆とやら。吾輩のお皿に字を書いてくれぬか?」
「いいぞ、何と書けば?」
「”転”だッパ!」
反筆が書き終えると、カッパ様のお皿が光りだして、反筆と、ツバネとタリク、リウラ、ゲルが光に包まれて消えた。
「早く瀬音を連れてこい!屁のカッパなのだ!」
あっちむいてホン!
――大人げなかったが、息子には負けられなかった!
しかもエイミの水巫女姿を見て「ナイスバディ」だと!?
親子とはいえ、つい睨んじまった……。
……俺も、まだまだだな。
でもまあ、負けたくないって気持ちは、きっと悪くない。
次も勝つぞ、息子よ。誰にも見せ場は譲らん!
――父、守杜のひとりごと。




