7 届いちゃった!?あのときのツナマヨ!?
フルーメンをさらに南下し、僕たちはその先の村を目指して急いでいた。
道先案内人はタリクだ。迷いのない足どりにはついていくしかない!そう、僕は方向音痴。
「この先の村はメリディフルーメン村。村人は”メリフル村”って呼んでる」
「メリフル村かー、覚えやすいね」
日差しはじりじりと熱く、川沿いの草木も元気をなくしている。
水路に目をやれば、あれほど澄んでいた水が細く、弱々しく流れていた。
「……本当だ。流れが痩せてる」思わず息をのむ。
「渇きの精が目を覚ましたんだろうな」ツバネが低くつぶやく。
「ちょっと待て、まずは腹ごしらえや!」タリクが背中の鍋をドンと下ろす。
「えっ!? おい、こんなときに!?」カゲミが目を剥いた。
「アホぬかせ。渇きの精は水分を奪う。なら、先に体に“水気”を蓄えておかんと戦えんだろ」
鍋の蓋を開けると、甘い香りの湯気がふわりと広がる。
「……スープ?」
「特製《水分補給スープ》だ! 野菜も果実も煮込んだからな。ひとくち食べるだけで、体の奥から潤う」
匙を口に運んだ瞬間、喉の奥に清らかな水が流れ込むような感覚に、干いた風さえ心地よく思えた。
「うわ……すごい。渇きが消えていく……!ふふん、タリクやるじゃん!」
元気を取り戻したカゲミの姿に、僕も思わず微笑んだ。
その横で、リウラがぷいっと頬を膨らませる。
「またまたカゲミが一番に食べてる……ずるい!水精霊ファーストよ!」
ゴウゥ、と黒く渇いた熱風が吹き抜ける。
「きゃああ!熱いー!」
リウラが両手で顔をおおい、熱風に押されてよろめいた。
「リウラッ!!」
どうやら巫女から長く離れすぎたために水だけじゃなく、風まで濁っていったようだ。
僕たちでリウラの嫉妬心を止めないと。
「おっと――」
次の瞬間、ツバネが素早く自分の忍者服の口布を外し、ぐるぐるっとリウラを包んだ。
まるで巻物でも巻くみたいに手際がいい。
「な、なにするのよ!くるしいじゃない!」
リウラがバタバタ暴れる。
「じっとしてろ。熱気を遮るには、これが一番なんだ」
「……むぐっ」
口元まで覆われたリウラは一瞬戸惑ったが、すぐに目を大きく見開く。
「……すごい。渇きが消えていきますわ……!」
リウラは小さく息をのんだ。
布ごしに涼やかな風が伝わり、さっきまでの灼熱がすっと和らいでいった。
リウラは頬を真っ赤に染め、ぷるぷる震える。
「……ま、待って……これ……ツバネがいつも使ってた口布……?
ってことは……わ、わたし、ツバネと……間接キス……!?」
「ははっ、そうきたか」
「ちょ、ちょっと、もっと恥ずかしがりなさいよ!?」
「いやぁ、俺は気にしないタイプだからな。むしろ――拙者はキスしたっていいぞ?」
「なっ……!?ば、ばかばかばかっ!」
ぐるぐる巻きのまま、リウラはじたばた突っかかる。
「も、もう……乙女の心臓がもちませんわ!」
その場にしゃがみこんで、耳まで真っ赤になるリウラ。瞳はきらきら揺れていた。
その姿にツバネはふっと目を細め、わざと軽口を叩く。
「ほら、ほっぺまで真っ赤。拙者が独り占めしたみたいで……悪くないな」
「~~~っ!?!? な、な、なに言ってるのよっ!知らない!もう知らないっ!」
リウラは口布の中で必死に抗議する。
顔を覆ったまま、小さな夢見る乙女のようにくるくるしていた。
やがて頬をぷいっと膨らませたまま、小さく口にする。
「……ありがと。助かりましたわ」
ツバネは照れくさそうに鼻を鳴らした。
その百面相なリウラに、みるん・きくん・はなすんが「かわいい~!」と大騒ぎ。
「むはは!なんじゃこの騒がしい宴は」
カッパ様がきゅうりをかじりながら豪快に笑う。
「よし!吾輩もスープを三杯もらおう!」
「また食うんかい!!」
全員のツッコミが重なり、不思議と胸の奥が温かくなった。
水は細り、泉は渇きかけている。恐ろしい魔物が待っているはずなのに。
僕たちはこうやって笑って、食べて、力を合わせて進むんだ。
――そして辿りついたメリフル村。広場には乾いた風が吹き、ひび割れた水瓶が並んでいた。
「……水は、まだかのう?」
「記録師さまが来てくれれば、きっと泉の水を導いてくださるって……」
「もう一日でも早く……」
耳に入るのは、渇きに耐える声ばかり。胸がきゅっと苦しくなる。僕が、なんとかしなきゃ。
そのとき――ざわめきが変わった。
「見ろ、あの首飾り……!青く光ってる!」
「“青鮎の記録師”じゃ!」
村人の視線が一斉に集まる。誰かがポツリとつぶやいた。
「あの中性的な容姿……まさか、ツナマヨ革命の瀬音さまでは!?」
「え?あ、はい?」
僕は思わず背筋をのばした。
「忘れもせぬ!16年前に!この村にあのツナマヨおにぎりが降臨したのじゃ!」
「おおおおおー!」
「この方が……ツナマヨ様を伝えたお方か!」
「ありがたや~!おかげでうちでは、マヨ焼きトウモロコシが大好評じゃ!」
「いやいや、うちはマヨを塗ったキュウリ!もう手放せん!」
……え?気づいたら水の件より先に、マヨ感謝が飛び交ってるんだけど!?
「瀬音さま!ほんに感謝を!マヨネーズは家庭を救う!」
「ありがたや~!」
感謝の嵐に、頬が熱くなる。必死に手を振った。
「ありがとうございます!でもまずは水!水が大事ですからね!?
僕、マヨの人じゃなくて、ノートリアですからね!?」
村人たちは口々に「ありがたや~!」と叫びながらも、マヨ談義が止まらない。
(……ツナマヨ一個がキュリシアの食文化を変えるとか……僕のおにぎり、どんだけインパクトあったんだ……!?)
――渇きと感謝とマヨの嵐。
僕の冒険は、やっぱり流され体質全開なんだなぁ。
――メリフル村の広場は、乾いた空気でひび割れた水瓶と、にぎやかな人の声に包まれていた。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
あの時のワタシのぷいっと膨らんだ頬も、きっと皆さまに見えていたんですよね……?
ツバネにぐるぐる巻きにされてドキドキしたことも……。
こ、これからも、私たちのちょっと不思議で、ちょっとドキドキな冒険を見守っていてくださいませ。
評価していただけると……ツバネの口布、また借りるかもしれませんわ。
ふふっ、ちょっとドキドキしてしまいそうだけど――
それでは、また水の世界で――お会いしましょう。




