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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第2章

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69 草追いかけちゃった!?記録の命!





「……まあいいや」

 パチン!

 フレクシアが軽く指を鳴らした。


「でもさ――ルール違反には、罰ゲームがあるよね?」


 その瞬間、盤上がキィ、と音を立てた。

 動かなくなったホンホンのいるマスが、ゆっくりと変化を始める。タイルが剥がれ、記号が崩れ、底の見えない闇が滲み出していく。


「ま、待って……!そこ、ホンホンが――!」

 僕の叫びも届かず、マスは沈みこみ、光が呑まれていった。



「禁書の罰ゲーム。――代わりに、誰がやる?」


 フレクシアの声が、静かに水面を打つ。冗談でも挑発でもない。ただ“当然の手順”として告げられるその響きに、背筋がぞくりとした。


 誰も答えられない。盤上の光がゆらめき、ホンホンのいたマスだけが暗く沈んでいる。


「まさか……本当に、“代わり”を出せって?」

 スイタンがかすれた声で問う。


 フレクシアはただ、楽しげに微笑んだ。

「ルールは、そういうものだろ?」


「ホンホンを――どこへやった!?」

 胸の奥が焼けるように熱くなる。

「僕をそこへ連れてけよ!」


 いつもは感情を抑えている僕が、自分でも驚くほど声を荒げていた。怒りで視界がにじむ。手が勝手に震えて、盤上の空気がざわめいた。


 その瞬間――。


 カチ、カチ、カチ……。

 ルーレットが、誰の手も触れていないのに回りはじめた。まるで僕の怒りに呼応するように、光を帯びて加速していく。


「やめろ……沢海!冷静になれ!」

 父さんの声が飛ぶ。その瞬間、我に返った――けれど、もう遅かった。


 ルーレットの針が、ゆっくりと止まる。


「――マイナス4、か。ふふ、ちょうどいいね」

 フレクシアが笑う。その指先が盤上をなぞる。


「残っている三人と、タクミ君。……じゃ、行ってきて!」


 言葉の終わりと同時に、足元の光が崩れた。視界が反転し、風が巻き上がる。

 僕たちは――落とされた。




「なぜだろう。書き物をまとめただけなのに自我を持ってしまった。不思議ちゃんだ」

「気がついたらおしゃべりしたくなったんだホン。不思議だホン!」

 ケラケラと、まるで紙のすき間からこぼれるような笑い声が響く。これは――ホンホンの記憶なのかな?



 声が消えると同時に、まわりの光がゆっくりと滲んでいく。書かれた言葉たちが、ひとつ、またひとつ、形を失い――。僕は胸の奥がきゅっと痛んだ。

「ホンホン……また、話そうな」



 ――でも、その記憶の奥に、話し相手が一瞬だけ見えた。

 淡い光の向こうに、黒い髪がゆれていた。ルミエ――雫さん!?


 どうして、彼がそこに?僕の胸に、説明できない寒気が走った。



「ねえ、ホンホン!君を作ったのは、ルミエなの!?」

 問いかけても、返事はない。


 ……返事はないけど。


 にょき。

 足もとから、小さな草が生えた。まるで「違うホン」とでも言いたげに、風に揺れている。


「ホンホン。やっぱり最高だね」

 泣き笑いのまま言葉がこぼれる。僕に、こんな顔をさせられるのは――ホンホンだけだよ。




 僕は歩きながら、実体のない――でも、きっとそばにいるホンホンに話しかけた。

「ここどこだろう?一緒に落とされたミラさんや父さん、母さんと合流したいんだけど!」


 にょき。にょき。 ……にょき。

 足もとに、小さな草が一列に顔を出す。


 まるで「こっちだホン」とでも言いたげに。僕はその草の道しるべをたどって歩きはじめた。


 足音を立てるたびに、土が柔らかく呼吸するみたいに沈む。空気は淡い青色を帯びていて、どこか水の底のようだ。


 やがて、道の先に光が差しているのが見えた。それは泉――だけど、普通の水じゃない。鏡みたいに静かな水面に、文字が浮かんでいた。


 《ホンホン システムログ》


「……システムログ?」

 そっと手を伸ばすと、水面に波紋が広がった。そこに映ったのは、懐かしい声。


『ルミエ、記録体H-ONの実験を開始します』


 僕は息をのんだ。――やっぱり、ホンホンはルミエが作ったんだ。ずいぶんと長生きだなぁ。

 ルミエが長生きしてまでもやりたいことって、いったい何なんだろう?僕は、波紋の奥でゆらめく声に耳をすませた。


 ――《記録は、命に似ているな》


 水面から、ルミエの声が滲み出すように響く。

 《誰かの思いが宿ると、ただの文字や音じゃいられなくなる。だから、俺は見届けたい。記録が“命”になる瞬間を》


 光がゆるやかに集まり、ルミエの面影が浮かびあがった。黒の髪を束ね、淡い水の羽衣のような衣をまとった彼が、ホンホンのもとに手を伸ばしている。


 《タクミ君。俺の記憶を見てるな》

 ドキッとした。当時のルミエが、僕に話しかけてるよね……。

 《この子は本当は禁書なんかじゃない。忘れられた声を、もう一度世界に返すための――“回路”なのさ》


 ルミエの指先がホンホンの表紙に触れる。その瞬間、ホンホンの体にあたたかな光が走り、まるで笑っているように小さく震えた。


 ――ルミエが、創造したのは。“記録を生かすための禁書(聖域)”だった。




 すると、水面の奥に浮かぶページが一枚、音もなくめくられた。古びた筆跡が、淡い青光の中に浮かび上がる。


 《裏ルール 第零章:救済の手》


 ――記録の欠落に対し、禁書の意思が介入したとき。その記録は「破棄」ではなく「継承」へと転じる。

 ただし、継承の代価は、記録者自身の一部の“記憶”。


 僕は息をのんだ。

 つまりホンホンは――“ゲーム”を利用して、フレクシアの記録を消す代わりに、自分の記憶を削ろうとしたんだ。

 ホンホンが笑顔の裏で、どれだけの記憶を失っていたのか。そのことを、ルミエは知っていたんだ。




 突然、水面にノイズが走った。光が乱反射し、波紋の向こうから微かな声が届く。


『――タクミ、聞こえるホン?』


 ……ホンホン!?どこから話してるの?


『ルミエの回路、まだ切れてないホン。だから、少しだけ……おしゃべりできるホン』


 声は弱く、ひどく遠いのに、不思議とあたたかかった。

『泣かないでホン。ツナマヨは消えても、味の記録はどこかに残ってるホン。おわりは――始まりにつながるホン』


 波が静かにひとつ、弾けた。その中心に、光る草の芽がひとつ、芽吹いていた。






 うんしょ。うんしょ。うんしょだホン!

 うんしょ。うんしょ。うんしょっと、だホン!


 ……はぁーー。

 起動しないホン……。


 あっ!

 今のためいき、ナシだホン!なんちゃってだホン!


 金土じゃないホン、今日は水曜だホン!

 ……全然つまんないホン。


 にょき。


 あっ!草生えたホン!


 セオトにもたれてる。背もたれ。……にょき。

 タクミのたくあん、食べた。……にょき。


 いっぱいいっぱい草、生やすんだホン!



 だって、タクミを守りたいんだホン!






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