68 消滅しちゃった!?記録すごろくのツナマヨ!?
「順番は――一番目、タクミ君からだね」
「う、うん……!」
僕は息を吸い込み、両手で大きなルーレットを回した。
くるくるくる……カチ、カチ……ピタッ。
「――マイナス5!」
「おいーっ!?マイナスあるんかーいっ!?」
「ツナマヨおにぎりが消滅!」
「えええええっ!?!?」
その瞬間、盤上から光が弾けた。
キュリシアの地図の上、街角の食堂、旅人の荷袋――
あらゆる“ツナマヨ”の記録が、音もなく光に溶けていく。
「な、なんてことを……!」「あれほど愛された具が……!」
光が消えたあと、世界は一瞬だけ静かになった。
「……ねえ、“ツナマヨ”って、なに?」
誰かがぽつりとつぶやく。
その言葉に、みんなが首をかしげた。記憶のどこを探しても、もう――その味が思い出せない。
「そ、そんな……!ツナマヨが無い世界なんて……!こんなのひどいよ!」
「あはは!いいスタートだね、タクミ君」
フレクシアが楽しげに笑う。
「最初の一手で、ひとつの味が消える――これぞ記録者のゲームだよ」
その手の中で、最後のツナマヨの光が静かに消えた。
「この世界は“記録のすごろく”。進むたびに蔵書のページがめくれ、運命が書き換えられる。“味の記録”も運命のひとつだからね。止まるマスで、何を得るか、何を失うか――それは君たち次第だ」
フレクシアの声が、波紋のように広がっていく。
ボードの上の街や森、そして“キュリシア”の名が刻まれた水面が、光の粒となって浮かび上がった。
「では――お次はセリアン、どうぞ」
「セリアン!気をつけて!」
セリアンがルーレットを回す。止まるまで、竪琴を静かに奏でていた。
くるくるくる……カチカチ……ピタッ。
「――マイナス9!」
「えっ!またマイナス!?」
「さっき“金貨の泉”で《代償付きの加護》を得ただろう? マイナス効果が3回だ。――誰かの大切な金貨だったからね」
「悪ふざけはやめろ!フレクシア!」
フレクシアが肩をすくめた。
「何?イカサマなんかしてないよ。ただのルール通りさ。――さてと、マイナス9。北の大地に、記憶の穴が生まれた!」
「そんな……!?」
キュリシアの北――氷山が轟音とともに崩れ、跡地に巨大な“穴”が開いた。
「させない!」
セリアンは竪琴を抱き、弦をはじく。澄んだ旋律が空気を震わせ、氷の欠片が光の粒に変わって舞い上がる。
――みるみるうちに、穴が塞がっていく。氷山は戻らなかったが、虚ろな闇は光に覆われた。
ドサッ。
力を使い果たしたセリアンが、その場に崩れ落ちる。
「セリアン!」
僕は駆け寄り、冷たい指先を握った。
その唇がわずかに動く――「……大丈夫。みんなで……キュリシアは、守る……」
ルーレットが回っている間に、セリアンは仕掛けていたらしい。
彼の旋律は、最後の瞬間までこの盤上に残っていたのだ。
「1ターンで離脱か。つまらないねぇ」
フレクシアがため息をつく。「お次は――禁書ホンホン、やってごらん」
「ホンホンに任せるホーン!」
意気揚々とルーレットに手を伸ばした、その時――。
「おや?禁書モード、だって?」
フレクシアの目が細められる。
「物語の優位に立とうとする“反ルール行動”は、見過ごせないなぁ」
パチン、と指が鳴る。その瞬間、ホンホンの体が硬直した。
「ご、ごめんだホン……?」
瞳の光が、すうっと消えていく。
「ああ、ざんねん。禁書の自我はフリーズされたから、離脱だね」
フレクシアは、疑うような目でこちらを見て言う。
「ねぇ、やる気あるの?きみたち」
その声は、退屈しのぎに砂を蹴るように軽かった。
「やる気……?」
スイタンが震える声でつぶやく。小さな手が、震えながら拳を握る。
「ホンホンは、ただ……私を救おうとしただけだ!そんなの、そんなの――っ!」
声が震え、草むらの中から光がゆらめいた。
「咎められる謂われはない!禁書は、記録を――守るために――!」
「ハハッ。禁書同士の“友情イベント”発動かい?」
フレクシアが冷たい笑みを浮かべた。
「だからこのゲームをしてるんだよ。世界を壊すために、そして何を残すかを決めるために。何を選ぶか、それが“記録者”の試験だろう?」
「そんなの……!」
僕は思わず叫んでいた。
「こんなの、試験なんかじゃない!誰かの“記憶”を犠牲にしてまで、そんな……!」
フレクシアの瞳が淡く光る。空間の温度が、一瞬で凍りついた。
「――じゃあ、見せてよ。ホンホンの代わりに、何を守るのか。」
くるくるくる……。
誰も触れてないのにルーレットが勝手に回りだした。
「おいおい!?勝手に回るルーレットはアリなの!?」
納得いかなーい!
「審議!回す者がいない場合はスキップが妥当。よってこのルーレットは無効と見なす」
「はいはい、認めます」
ふぅ。ルミエの言うことは聞くみたいだ。――禁書モード、どんなものだったんだろう。見てみたかったな。
でも、少しわかってきた。
ただ流されているだけじゃ、この“記録の盤”には立てないんだ。
瀬音と共に異世界からやってきたキュリシアの人々に愛される味「ツナマヨ」消滅。
吟遊詩人セリアン。歌の力で”記憶の穴”出現を阻止。
禁書ホンホン、”禁書モード”発動できず、システムエラーにより離脱。
記録すごろくは、まだ序章。
次回、“ルール違反の救済”はあるのだろうか……!?
――あなたの世界のツナマヨは、まだ残っていますか?




