63 歌われちゃった!母と師匠の“水流魂”!
注文していたフライドポテトが、ついに届いた。テーブルの上に、ほかほかの山。
「きたぁぁぁぁ!!!」
セリアンのテンションが一気に跳ね上がる。ホンホンもスイタンも、鼻息荒く尻尾(?)をぱたぱたさせながら、「よし!」と言われるのを待っている。――いや、禁書だから食べないんだけどね。
「ホン!あついホン!でもうまいホン!スイタン、こっちの細いのサクサクだホン!」
(え?ホンホン食べてる?……わけないか)
「セリアン、それケチャップつけすぎだホン!塩気とのバランスだホン!」
(グルメな禁書になったな……)
そんな賑やかさのなか、父さんはというと――黙々と、しかし誰よりも速いペースでポテトを消化していた。
「……父さん、ケチャップいる?」
「……いや、塩だけなのがちょうどいい」
無言の職人のようにポテトをつまむ父。それを見て、セリアンがぽつりと呟く。
「……なんか、師匠より強そう」
「あら、セリちゃん。守ーも、ミラちゃんも、つよつよよ!」
ぷはっ!ミラ師匠は吹きこぼしそうになりながらグラスのソーダ水を掲げた。
「よーし、次は私の番ね!ミラちゃん歌うわよ!」
母がリモコンを握りしめ、勢いよく選曲した。
イントロが流れた瞬間――ミラさんが目を輝かせる。
「それ……!まさか“水流魂”!?」
「そうよっ!青春は水際にありっ!」
二人は顔を見合わせ、がっちり握手。次の瞬間、画面のテロップと同時に――
「♪負けないで流れを掴めぇぇえ!!」
二人の声が完全にハモった。力強くて、爽やかで、まるで水面を突き抜ける風みたいだった。
しかも母さん、セリフパートまで完璧!
「流れは……止まらない!」
「そう、それが……私たちの記録!!」
バンッと決めポーズまで入ったところで、ホンホンがテーブルの上でぴょんぴょん跳ねた。
「すごいホン!セリフまで完璧ホン!!もうCD出せるホンホン!!」
「ホンホン……CD出すって……今は配信っていう――」
僕はホンホンに新たな知を教えた。禁書の吸収力にびっくりだ。
カラオケボックスの小さなテーブルに、笑い声とポテトの香ばしい匂いが満ちていた。
アカペラはまだまだ続く。
スイタンが日本で書いた新譜を、セリアンがそっと歌いはじめる。竪琴の弦がふるえ、声が滲む。音というより、水が言葉をなぞっていくようだった。
僕は静かに目を閉じ、流れのままにセリアンと呼吸を合わせる。――「水の祈り」。
この曲を歌うと、胸の奥にいつも光が集まる。
言葉を紡ぐたびに、空気が澄んでいくのがはっきりわかった。
ミラ師匠がうなずき、ホンホンは小さく羽音を立て、スイタンは目を閉じて頬を伝う雫を拭った。
音も、声も、誰かの想いも――この瞬間だけ、まるで水のなかでひとつになっていた。……ここにカゲミがいたらなぁ――。
笑いと拍手の渦の中、カラオケボックスの空気がいっそう明るくなっていった。
曲が終わり、拍手と笑いがひと段落したころ――父がゆっくりと立ち上がる。
「じゃあ……次は、俺の番だな」
リモコンを操作して、渋いイントロが流れる。木漏れ日のようなギターの音。
タイトルは――《森は泣かない》。低くて深い声が、静かに部屋を満たしていく。
♪木を切る 斧の音 明日を育てる音 枯れぬためには 整えること――
「こ、これが演歌!」
セリアンが思わず息をのむ。演歌は初めて聞いたみたいだ。
「……これは“森の記録師の唄”じゃないか」
ミラさんは目を潤ませながら、ポテトを握りしめていた。
サビで父は胸に手を当て、真っ直ぐに歌い上げた。
♪生きるために 切り そして育てる 森は泣かない 人もまた――
その声には、風と土の匂いがあった。
「……シブいホン……!」
ホンホンが小さな羽を震わせながら、ぽつりとつぶやく。
カラオケボックスの空気が、森の奥みたいに静かになっていった。
みんなが笑顔で見守ってくれている――そのあたたかさが、胸にじんわりと広がる。
思わず大声が出てしまった。
「みんな、ありがとう……!」
ホンホンも小さく羽を震わせながら拍手している。スイタンは目を輝かせ、セリアンも頷き、父も母も静かに微笑んでくれた。
「僕は、あきらめない!」
胸をぎゅっと握りしめる。
「カゲミを、必ず見つけるから!」
その言葉に、部屋の空気が少し震えた気がした。誰もが心の中で応えてくれている。
――きっと、この流れなら、どんな困難も乗り越えられる。
僕は深呼吸して、笑顔を取り戻し、もう一度、仲間たちの顔を見渡した。
――大丈夫。僕は、ひとりじゃない。みんなに頼ってもいいんだ。
ミラさんもお泊りした次の日、僕は教えを乞うべく「しずく堂」へやってきた。雫さんは静かに頷き、優しい笑みを浮かべる。
「淀みが消えちゃったのか……」
「はい……」
淀みが、跡形もなく消えていた。あの水の底に、確かにカゲミの気配を感じていたのに――流れは静かに続いている。まるで、何かを決意したように。
どこにいるんだろう、カゲミ。呼びかけても、返事はない。でも、不思議と心の奥で、かすかな“光”を感じる。
――まだ、つながってる。きっと。
フライドポテトって、なんであんなに幸せの味がするホン?
セリアンもスイタンも、みんな子どもみたいな顔で笑ってたホン。
エイミさんとミラさんは、最強タッグだったホン!
タクミのお父さんも、ぜったい一番楽しんでたホン。あれは“流れを味わう顔”ホンね。
日本のカラオケボックスって、ほんとうに不思議な場所だホン。
歌って、笑って、食べて――“記録”には残らないけど、心にちゃんと刻まれてるホン。
ページのすみに、小さく油じみがついちゃったけど……これも冒険の証ホン。
この香ばしい記録、ぜったい忘れないホン!
――グルメと歌を旅する禁書ホンホン。




