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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第2章

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60 触れちゃった!?小箱の中身!?






 ツバネとタリクは、瓦礫となった記録師協会跡地の前に立ち尽くしていた。

 崩れた柱、散らばる古びた書物、砕けたガラス窓――かつての威容は、水底に沈んだ夢のように崩れていた。


「……これじゃ、引き出しどころじゃないな」

 ツバネは瓦礫の山を見下ろし、低くつぶやく。


「ああ。どこを探しても、机の残骸さえ見当たらない」

 タリクもまた、瓦礫を慎重に踏みしめながら首を振った。


 沈黙が二人を包む。

 かつて協会が放っていた“流れ”の気配は、もはや薄く、僅かに残る水の香りだけが、過去を忍ばせる。


 (オルグは……本当に、ここに何かを隠したのか?)

 ツバネの胸中で思いは巡る。しかし目の前にあるのは、瓦礫の山だけだった。


「……仕方ない、今日はここまでか」

 タリクが言い、二人は崩れた階段を登り、水紋亭の方向へ歩き出す。瓦礫の山を抜けると、二人の目に小さな影が映った。

 じっとこちらを見つめる魔物――恐ろしいほどおとなしいが、どこか意思を持っている。


「……お前、協会長の執務机がどこにあるかわかるか?」

 ツバネはそっと声をかける。

 魔物は目を瞬かせると、クイクイっと首を傾げ、ついてこいと合図した。

 まるで“案内してやる”と言っているかのようだ。


 二人は互いに目を合わせ、覚悟を決める。

 瓦礫の奥、沈んだ過去の記録の中へ――魔物に導かれながら、足を踏み入れた。


 魔物に導かれ、二人は瓦礫の間を慎重に進む。

 水底の空気はひんやりと重く、光はほとんど届かない。倒れた棚や崩れた書架が沈んだ記録の影を作っていた。


 ツバネの胸元にいるリウラが光球を作り、瓦礫の間を照らす。

「……沈みすぎているな。ここに執務机があるとは信じがたい」

「でも、魔物が案内してくれてる。諦めるのはまだ早い」

 タリクは低くつぶやく。目の前で、魔物がクイクイと手招きする。


 瓦礫のさらに奥。水流の届かない淀みに、何かがかすかに光っている。

 近づくとそこには半ば沈み、泥と瓦礫に埋もれた木製の机があった。古い紙片や埃に覆われ、まるで時間が止まったかのようだ。


 ツバネは息を呑む。

「……これか。これが、オルグの執務机……」


 机の引き出しの奥に、何か光るものが見え隠れしている。魔物はじっと二人を見つめ、安心するかのように小さく身を揺らした。


 タリクがそっと手を伸ばす。瓦礫の間をかき分け、引き出しを開くと、中には――オルグが大事にしていたらしい小箱が、淡く光を放っていた。


 ツバネは息を整え、タリクの隣で小さくつぶやいた。

「……こんな場所に隠していたのか。やっぱり、あの人らしい」


 魔物は引き続き控えめに二人の背後に付き添う。沈んだ協会の中、静かに守り続けていた忠実な案内者だった。


 金具は錆び、表面には水紋のような刻印。ツバネが手を伸ばすと、指先に冷たい脈動を感じた。


「……これが、オルグの“執着”か」

「うわ……空気が重いな。開けるぞ?」


 二人で蓋を持ち上げると、中には一枚の薄く透ける紙片。光を透かすと、裏から別の文字が滲んでいる――表と裏の境界が、もう存在しないかのように。


「……読めるか?」

「いや、文字の形は見えるのに、意味が“変わり続けてる”」

 ツバネが低く呟く。


 紙片に触れた瞬間――“波紋”が、内側から広がった。

 魔物はニタリと、仄暗く静かに歪んだ笑みを浮かべるのを、ゲルは見逃さなかった。

「ッ!危険です、離れましょう!」

「ゲル!わかった!」


 周囲の瓦礫が水面に変わり、空気が凍る。タリクの足元から、記憶の泡が浮かびあがり、過去の声が響く。


『記録師とは、書く者ではない。書かれる運命を、選びなおす者だ――』


「い、いまの声……オルグ?」

「いや……違う。これは――」


 ツバネが顔を上げた。湖面のような空気に、もうひとつの筆跡が浮かび上がる。


『おまえたちの筆も、わたしの頁の上にある』


 タリクが後ずさる。

「おいツバネ……今、“わたし”って言ったぞ。誰のことだ?」


『……“原初の記録者”』

「は?」

『この世界を最初に紡いだ“存在”の代理――わたしが、フレクシアだ』

「干渉者か!?厄介だな……」


 水が逆流し、二人の足元が割れる。見上げた天井が、紙のように透けていく。そこに浮かぶのは――巨大な筆跡。まるで空そのものが、文字で覆われていた。


『読むな。まだ、頁は閉じていない』


 声が直接、脳に響く。タリクは耳を押さえ、呻いた。

「やばい!これ、ホンモノの禁書だ!ツバネ、離れろ!」


「……遅い!」

 ツバネの指先から、紙片がゆっくりと溶けていく。――代わりに、彼の眼に淡い光が宿った。


「ツバネ!?な、何が見える!?」

「……“記録の裏側”なのか、これが……」


 彼の声は、どこか遠く、底の方から響いていた。

『問おう。おまえは“記録する者”か。それとも、“書かれる者”か』


 その瞬間、光が弾けた。

 頁が閉じる音――いや、世界が一度“めくられる”音がした。


 タリクが叫ぶ。

「ツバネぇ!!」











 (何なの!?この展開は!?)


 精霊たちはパニックを懸命に抑えこみ、互いにアイコンタクトを試みた。


 私たちは、ただそこに在るだけ。


 気配を抑え、声を潜め、光と影の間に身を置く。


 リウラも、私も。――空気でいることが、今の世界ではいちばん正しい形です。


 (……原初。聞いたことない輩がでてきた!リウラは認識したことあります?)


 (知らないですわ!ヤバすぎですわ!こんなの、ワタシたち役に立ちませんわ!)


 (やはり!……同感です……。水精霊の役割はおわったように理解できます)


 世界が”更新”をはじめようとしていて……私たちの役目は、もう、きっと無い。


 答えは、まだ霧の奥にある。


 だから静かに息をひそめて――見守ります。


 

 ――リウラとゲル。






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