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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第1章

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48 歌で止めちゃった!?禁書スイタンの反撃!?






 クロムの指先が弾けた瞬間、空気が裏返った。波紋のように広がった引力が、あらゆる音を飲み込む。

「影の魚か。囮らしく、前世のようにまた食われてみるかい?」

 カゲミの小さな体が、銀光の輪に乗ったまま――滑るように傾ぐ。


「カゲミ――ッ!!」


 反射的に、僕は水の流れを呼び起こした。掌から走った青の紋が、水を矢のように射出してカゲミを包もうとする。ツバネの刀が闇をはがし、タリクの風が背中を押す。みんなの力が、一瞬、絡み合った。


 カゲミが縁に指をかけた瞬間、底なしの闇が口を開いた。その闇は、水ではない。記憶そのものを飲み込み、何もかもを“なかったこと”にする穴――。


 クロムが微笑む。

「君は、記録の“誤字”だ。修正される運命なんだよ」

「おまえなんかに、消されるもんかッ!」

 だが、足場が崩れた。カゲミの小さな身体が、闇へ――


 ――その時。

「書かれぬ者よ、まだ筆を置くな。記録は終わりを恐れはしない!」


 セリアンの腕の中で、禁書スイタンが震えながら口を開いた。ずっと沈黙を守っていた禁書スイタン。ページの隙間から、古い声が滲み出る。その声は、まるで水面のように澄んでいた。


 クロムが眉をひそめる。「……誰だ?まだ“語る者”が残っていたのか?」


「語るのは私ではない――“記されなかった想い”が、語らせるんだ!」

「おやおや、里に置いた禁書じゃないか。こんなところで道草食ってたのかい?お前、とっとと隠れ里の記録を抹消してこないか!」


 その声は柔らかく、だが刃のように鋭い。クロムは掌をひねり、黒い霧のような紐を一閃させた。地面に落ちたページを拾い上げ、空気の中でくすぶらせる。古い紙の匂いが、焦げはじめる。


「どうやらお転婆ちゃんたちの躾がなってなかったようだね。まとめて燃やそうか?」

「やめろ!クロム!」セリアンが涙声で叫ぶ。

「ラグ・ノートリア村の記録を勝手に消す権利は、誰にもない!」

 タリクが真っ先に飛び出した。拳を握りしめ、顔は震えているが、声は確かだった。クロムはゆっくりと笑った。瞳の奥に冷たい計算が光る。


「権利?甘いね、ラグ・ノートリア。記録という名の“道具”を管理するのが協会の真の仕事さ。だが今日は特別だ――ここで芽吹いた“厄介な種”は、根から叩かなきゃねえ!」

 ツバネが庇うように前に出た。「 協会のやり方はもうたくさんだ!これからは変わる!」

 クロムは指で鼻先を撫で、嘲るように首をかしる。「おや、反抗的だね。ならば、見せてもらおう――ゲル、殺れ!」


 ゲルの背中に走る呪の刻印が、ほのかに光る。瞳がタリクを捉える。混乱と抗いの狭間で、一歩を踏み出す――守るために、あるいは命じられて動くために。


 タリクはゲルの目を見て、低く叫ぶ。

「ゲル! 思い出せ!お前は操り精霊なんかじゃない!」


 ゲルの表情がぐっと引きつる。身体は動くが、その動きには明確な違和感があった。クロムの呪いに誘発された、他者の意志をなぞるようなぎこちなさ。ゲルはわずかにタリクへと手を伸ばし……しかしその手はクロムの方へ振られた。


「ほら、流れは私のもの。君らはただの泡沫だ」


 ゲルは呪の刻印が光る背中を震わせ、タリクの方をちらりと見る。

(……みんなを守りたい……でも呪に逆らえない……)


 そのとき、スイタンが、静かにページを震わせた。淡い光が弾け、クロムの顔を一瞬照らす。


「……私は従わぬ。命ずる者の名など、我が記録には影を落とさぬ」

「ふん、私に逆える本がいるとはね。面白い」


 クロムの笑みが小さくひび割れる。たかだか一冊の書物が面倒だという表情を浮かべる。だがすぐに、冷酷な決断がその顔に戻る。腕を振るい、黒い鞭のような呪具をスイタンに向かって振り下ろした。

 セリアンはとっさに書を抱き寄せ、身で護る。焦げた紙の匂いが濃くなる。


「いいね、混乱は祭りの始まりだ!」クロムは冷たく笑い、両手を広げる。


 禁書ホンホンも跳ねながら、みんなを守ろうとする。

「ダメだホン! お転婆ちゃんたちは……ホンホンが守るホン!」


「みんながいれば!」

「こわくない!」

「一緒にたたかう!」

 みるん・きくん・はなすんの声が響き、勇気が波紋のように広がる。


「ありがとう、ホンホン。記録の終わりに、真実は書かれる。――今こそ、“消える者”を記す時だ」

 スイタンが、まばゆい文字を放ちながら開いた。ページの中から響くのは、命令ではなく――祈りに似た声。


「これを歌え!吟遊詩人(セリアン)!」

 セリアンの瞳が見開かれる。次の瞬間、胸の奥から“知らないはずの旋律”があふれ出した。その声が、風と水の境を震わせる。音が、言葉が、記録の膜を切り裂く。


  ♪記せ、名もなき流れよ 奪われた涙に、還る岸を――欺く筆を、今 光に曝せ 虚ろの王を 沈めよ――♪


 クロムが嘲るように笑う。「歌で、私を封じられるとでも?」


 スイタンが応じる。

「記録は言葉で始まり、言葉で終わる。おまえの“書き換え”もまた、歌に還るのだ」


 歌声が強まる。セリアンの髪が風に舞い、彼の身体から光の譜が溢れ出す。カゲミを包んでいた闇が、リズムに合わせてひび割れた。


 ♪水は語る、名を知らぬまま 偽りのページよ、滅びを刻め――♪


「馬鹿な!世界の流れは私のものだ……!」


 クロムの周囲の記録が、逆流するように崩れていく。まるで、彼の台本そのものが“読まれ、終わり”を迎えるかのように。


「詩は刃。おまえの美学を、最終章にしてやろう――」

「……これが“歌う禁書”!クッ!まだ終わらぬ……次はもっと面白くしてや……る」

 最後の一節が放たれた瞬間、クロムの影が音の渦に飲まれて、虚空に散った。



 ――歌は、静かに水へと還る。











 長い間、私は眠っていた。クロムが禁書を操る術をかけて、里に放りなげこむ。


 ずっとイヤでイヤでたまらなかった。


 だから隠れ里の片隅で、土に埋もれ、草の中に身を潜め――消滅を待つ身になった。


 世界に背を向け、誰にも見られず、ただ静かに時間だけが流れる


 ――それが私の居場所だと思っていた。



 だが、セオトが私を拾い上げてくれた。

 

 そして、セリアンが私に声をくれた。


「これを歌え!吟遊詩人!」


 胸の奥で何かが震えた。


 長い眠りの間に忘れかけていた“記録の喜び”が、まぶしい光のように戻ってきた。


 言葉が、旋律が、世界を切り裂き、流れを変える――私が待っていたものはこれだったのだ、と。



 涙がこぼれそうになった。


 消されるかもしれない、忘れ去られるかもしれないという恐怖を抱えながらも、


 私は初めて、命の温もりを感じた。


 私を必要としてくれる存在が、こんなにも確かにいる――それだけで、私は歌えるのだ。



 そして私は知った。


 どんなに長く眠り、どんなに隠されていても、真実の声は必ず届く。


 歌は、記録は、消えない――たとえ誰かがそれを忘れようとも、記す者の思いは生き続けるのだ。



 スイタン――それが私の名。


 そして、私はもう、消えるためだけの存在ではない。


 セリアンが歌い、私が響く――この瞬間こそが、私の新しい記録の始まりだった。


 

 ――眠りし禁書 水声抄スイタンの覚醒






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