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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第1章

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44 解き放しちゃった!?禁書たちの座!?






「記録師協会は、もう終わりだ。誰かの“許し”を縛る場所に、未来はない。」


 汐真の声は静かで、深く響いた。封印陣が崩れ、光が天井を突き抜ける。

 天蓋に描かれた「律文」の紋が、ひとつ、またひとつと砕けた。


 ――パリン。

 光の欠片が雨のように降りそそぎ、禁書たちの鎖を溶かしていく。

 そこは、世界の頁が閉ざされた“終わりの書架”だった。


 大地は墨のように黒く、空には星一つ瞬かない。

 けれど、無音の闇の奥には、確かに“息づくもの”がいる。

 声なき声、文なき言葉、名を失った数多の記録たち。

 かつて世界を滅ぼしかけた「語られすぎた物語」たちが、静かに蠢いていた。


 禁書たちは人の形を持たない。ひとつは泣く頁、ひとつは燃える詩、ひとつは沈黙する音楽。

 それらは互いに絡み合い、巨大な書架の影となって眠っていた。


 ツバネが一歩踏み出すと、足元が波紋のように揺らめいた。

 床は石ではなく、古い羊皮紙を圧縮したような質感。

 足音が響くたび、紙が涙を吸うように沈み、低く呻いた。


「……ここが、禁書たちの座……?」……。

 声が、何百倍にも反響して返ってくる。

 “声”という行為そのものが、この場所では禁忌のように重くのしかかる。


 汐真は目を細め、静かに指先を上げた。

 その手には、古い封印印章が握られている。。

 その朱は乾いてなお新しく、禁を刻むために存在する最後の朱だった。

 だがそれは、クロムが奪った“協会の印章”とは異なる。

「その印章は……!?」

「封印印章は、もともと俺の家――碧貴家のものだ。

 俺たちは“記録を閉じる”ためではなく、流れを“留めておく”ために作った。

 けれど協会はそれを“鎖”に変えた。ならば――俺がその鎖を断つ」

 汐真の声は穏やかだった。悲しみではなく、確かな覚悟の響きがあった。

「……彼らは、まだ語りたがっている。けれど、それが外に漏れれば――世界はまた、言葉に喰われる」



 書架の影の奥で、禁書たちがざわめいた。紙の羽音が、雨のように降りしきる。

 ここは封印の地であり、同時に記録の原罪が還る場所。


 “禁書たちの座”――それは、すべての物語がやがて沈黙に還る場所だった。


 汐真は迷いなく歩み出る。

 その姿は、まるで何百年も前からこの場所を知っていた者のようだった。


 座の中心には、円環状に積み上げられた黒い書架。

 その渦の中心に、一本の“巨大な巻物”が立っている。

 刻まれた古文字は読めないはずなのに、意味だけが心に流れ込んできた。


 ――これは「語ることを拒まれた者たち」の名。


「汐真!なにする気だ……まさか協会を、あんたが……!」ツバネが叫ぶ。

 タリクが咄嗟に腕を掴もうとする。「禁書を解き放つなんて、正気じゃねぇ!」


 だが、汐真は静かに首を振った。

「……禁は、閉じるためだけにあるものじゃない。誰かが語り直さなければ、世界は同じ間違いを繰り返す」

 そう言って、ゆっくりと印章を掲げた。朱が淡く輝き、言葉の鎖がひとつずつ外れていく。

 金属ではなく、“記録”そのものの音。

 書架がうねり、無数の声が滲み出した。

 悲鳴でもなく、歓喜でもなく、ただ「語りたい」という純粋な衝動。

 それが音となり、光となり、そこに刻まれた禁文が空を裂いた。

「きゃあああーーーー」リウラは思わず目を覆った。

 禁書たちの苦悶の声が、やがて――ため息のような安堵に変わった。


 ツバネとタリクの胸が、まるで“読まれている”かのように鼓動した。

 ゲルが呟く。「……これが、“記録”の原初……」


 汐真の衣の裾が風に舞う。瞳には、遠い過去を見るような静けさが宿っていた。

 禁書たちが次々と姿を取り戻す。

 少女、魚、水面の光。どれも儚く、美しい記録の残響だった。


「……ようやく君たちの物語を書き直せる」


 その瞬間、光が弾けた。


 封印は解かれた。だが、それは災厄の再来ではなかった。

 この世界が抱える“記録の痛み”を、再び言葉へと昇華する――

 “再生の頁”が、静かにめくられた瞬間だった。


 開かれた禁書たちは、静かに空をめくるように漂い、ひとつ、またひとつと消えていった。

 まるで、自らの頁を風に還すように。


 やがて図書館全体が低く唸り、封印の鎖が完全に砕けた。

「これが……本当の禁書たちの座。世界が、もう一度“自分を記し始める”場所だ。」


 そして――汐真が座の中央で言葉をつむぐ。

「……つらかったな。君たちは“禁じられる”ために生まれたんじゃない。

 “記す”ために、ここにいたんだ」

 本棚の奥から、もうひとつの光が滲み出す。

 空間そのものが頁のように折り重なり、輝く環が幾重にも広がっていった。

 風が巻き、無数の記録が空へ昇る。


「瀬音には……伝えなくてもいい。あいつなら、きっともうわかってる」

 汐真の声が遠くに溶けた。その姿が光に包まれ、ゆっくりと消えていく。



 月明かりの下に、焦げた紙が一枚、ふわりと舞い落ちた。

 そこには、手書きの一行だけが残されていた。


 《記録は終わらない。けれど、書き手は変わる。》


 崩れゆく協会の奥で、ひとりの記録師が世界の“禁”を解いた。

 そしてその瞬間、静かに――ダンジョン化の序章が始まった。













 崩れた協会の瓦礫と、再生の光に包まれた空間。


 ツバネとタリクは息を整えながら、座の中央で光に包まれる汐真の姿を振り返った。


 (消えた……)


 タリクも同じように目を丸くし、思わずツバネを見た。


 二人の視線が交わる。


 ツバネが小さくうなずく。


 (……全部、持っていかれたな)


 言葉はいらなかった。このアイコンタクトで、すべてが伝わった。







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