40 予言やっちゃった!? 禁書たちの大暴走!
僕が湧水祭に流されていることを知らないツバネとタリク、数名の仲間たちは、記録師協会を通り抜け、混乱しているであろう記録師図書館へと向かった。
「やっぱりここか……」
タリクが低く呟く。廃れた廊下の奥から、微かな囁きが聞こえる。
――ページが自らめくれ、文字が光を帯びる。
「……!?本が……喋ってる!これ全部禁書なのか?」
ツバネが息を呑む。
禁書たちはひそやかに、しかし確実に声を響かせていた。
『予言のとおり、水の祈りが届いた……水鏡に映る影あれば、許すな……』
『滅びの道、進むべし……人の世は終わりを迎える……』
仲間たちの間にざわめきが広がる。
瓦礫の間を走る足音、書物が床に落ちる音、ページがめくれる音。
館内は混乱の渦に包まれた。
「うわっ、何これ……!」
一人の見習い記録師が叫び、倒れかけた書架を押さえる。
タリクは剣を構え、周囲を警戒する。
「落ち着け、皆!まずは状況を把握するんだ!」
禁書たちは次々と囁き、館内の空気を重くする。
『流れを止めるな……だが、汝らの行動次第で世界は変わる……』
ツバネが小さく拳を握る。
「瀬音はいつ来るかわからんな……。拙者たちがここで抑えないと、何が起きるかわからない。」
床の一部が沈み、水の波紋が広がる。
禁書たちの声が館全体に響き渡り、仲間たちの足元に小さな揺れが伝わる。
タリクが声を張る。
「よし、分かれろ!本と瓦礫を抑えながら、奥の禁書を確認するぞ!」
館内の空気はさらに張り詰める。
喋りはじめた禁書たちは、まるで自らの意思で行動するかのように動き出し、記録師たちを翻弄する。
「……まずい、ただの書物じゃない!」
ツバネが唇を噛む。
彼らは、協会が滅びの道へ向かうことを目撃する最前線に立っていた。
「ひぇ~!幻影がー!」
「ぼぼぼ僕たちもノートリア」
「モブだよー!ぴえん」
みるん・きくん・はなすん。がんばれ!
館内の文字の渦と瓦礫、水流が仲間たちを襲う。
ツバネもタリクも、倒れそうな見習い記録師を支えながら必死で進む。
その瞬間――館内の空気がピタリと止まった。
渦巻く文字は固まり、瓦礫は宙に浮き、水流も静かにうねりを止める。
世界が一瞬、凪のように静まった。
低く、確かな声が響いた。
「――止まれ。」
その声と共に、光の帯をまとった青年が姿を現す。
白銀の長衣、揺れる髪、落ち着いた瞳。
圧倒的な存在感に、仲間たちは息を呑む。
「誰だ……?」タリクが思わず後ずさる。
青年は瓦礫の間に取り残された見習い記録師を救い、文字の渦に斬り込む。
文字は光の粒となって弾け、幻影は消え、瓦礫も静かに落ち着く。
リウラは目を輝かせ、思わず手を叩いた。
「わぁ~!カッコイイですわ~!本当に、ヒーローですわ~!」
ツバネもタリクも、呆然と青年の背中を見つめる。
「……誰なんだ、あの人……?」
青年は静かに一歩前に進む。
その動きだけで、幻影も文字の渦も避けるかのように収束する。
誰もその正体を知らない――だが確かに、救世主のような存在だった。
幻影に怯えていた心が、勇気に変わった瞬間だった。
「皆、大丈夫か。」
青年の声は低く静かで、しかし全てを支配する力を帯びている。
仲間たちは自然に頷き、胸の奥に力が湧く。
瓦礫の隙間で怯えていた見習い記録師も、青年に抱きかかえられて安全圏へ。
「ありがとう……!」
リウラはさらに目を輝かせ、声を震わせる。
「本当に……素敵ですわ~!まるで、物語のヒーローですわ~!」
青年は振り返らずに館の奥を指差す。
「さあ、進もう。核心は向こうだ。」
湧水祭からやっと解放された僕とカゲミは、記録師協会へと向かう。
数日ぶりの記録師協会だ。静かな外観に、少し安心すら感じていた。
「瀬音!カゲミ!」
館の入口付近で、セリアンが慌てた表情で待っていた。
息を整えながら、急ぎ足で近づいてくる。
「え……どうしたの、セリアン?」
眉をひそめる僕に、セリアンは少し震える声で言った。
「禁書スイタンがさっきから、協会はあぶないって……!入るんじゃないって……!」
カゲミは不安げに目を丸くする。
「えっ……あぶないって、どういうこと?」
僕は少し考え込み、協会の入口を見つめた。
「……まだ何が起きてるかは分からない。でも、気をつけろってことだよね」
セリアンはうなずき、二人を制止するように手を上げる。
「中に入るなら、準備して!何かあったらすぐ逃げられるように!」
僕はカゲミの肩に手を置き、力強く笑った。
「分かった。じゃあ、気をつけながら進もう。」
カゲミは小さく頷き、緊張しつつも僕に続く。
「う、うん……行ってみないとわからん……!」
セリアンは二人を見送りながら、自分も館の奥に進む覚悟を決めた。
「……何があっても、みんなで突破するんだ。」
僕とカゲミ、そしてセリアンは、静かに館の内部へ足を踏み入れた。
満月の歌
夜空に浮かぶ満月が、静かに水面を照らす。その光に導かれるように、セリアンは歌い始めた。
「まーるい月よ、見守る光よ 流れゆく水に 願いをのせて
消えぬ記憶も、迷う心も すべてを抱いて 照らしてほしい」
歌声は館の外へ、川の流れへ、そして心へと響いていく。
「流れる水よ 時を越えて 仲間のきずな強く結び
悲しみも喜びも すべて抱いて 明日へと運んで…」
セリアンの歌声に、静かな祈りの力が宿る。
聞く者の胸に、ほんの少しの温かさと安心を残し、夜は深まっていく。
「満月の光よ、どうか皆のもとへ 希望と勇気を そっと届けて…」
夜空の満月は、今日も静かに輝き続ける――きっと素晴らしい満月です。空を見上げてください。




