4 生きのびちゃった!前世の僕!
僕の前世。とある日本の――「清流」と呼ばれる川の中。
一見すればマイナスイオンたっぷりの癒しの世界。
……だがしかし、実態はめちゃくちゃ物騒だった!
弱肉強食。毎日が喰うか喰われるか。川という名のダンジョンで生き延びていた僕は――川魚の鮎。
珍しい青白さから、仲間に「セセラギ」と呼ばれていた。
「はぁ~セセラギと目が合っちゃった!運命感じた!」
「見てよあの青白さ!守ってあげたくなるでしょ」
「苔を独り占めしないで分けてくれるし……一緒にいると安心するんだよね」
……そんなふうに、みんなから妙に好かれていた。
鮎は1年で命を燃やし尽くす『年魚』。本来なら寿命は1年――のはずだった。
けれど気づけば僕は、2年目も川を泳いでいた。
群れとともに川を下り、海に出て、また遡上する。
水はいつも厳しい。増水すれば押し流され、渇水すれば酸素が奪われる。
それでも仲間はあきらめず、流れに立ち向かい、命を繋いでいった。
――やがて訪れる定めを知りながら。
秋。冷たい流れが落ちてきたとき、みんなは産卵の場へ向かった。
砂に身を横たえ、次の命を託し、光の中へ消えていった。
僕は「青鮎」と釣り人に呼ばれる稀な存在だった。生殖能力がなく、闘争本能も薄い。
だから――長生きできた。
その分、数え切れない仲間を見送った。
ある日、頭上に巨大な影が走る。白い翼。突き刺さるクチバシ。
「わっ、やばっ!」
鷺だ――!仲間の一尾が、無情にも掻っさらわれた。
……合掌。
(いや、魚だから手合わせらんないし。片ヒレで拝むしかないんだけど)
「群れから離れて泳ぐからだ……群れないと生き残れねえだろ!」
隣でぶつぶつ言ってるのは、やたらツンツンした鮎――カゲミ。
こいつとは一年前に会っていた。
カゲミは、釣り人に囮として使われる、気の毒な囮鮎だった。
とにかく元気で縄張り意識の強い特性を逆手に取られて、一匹いっぴきと釣られていくんだ。
(一年前――)
『うぉおぉぉお!泳げ、泳げぇ!』
川岸で叫ぶ釣り人のおじさん。テンションMAX。
その糸に繋がれていたのが――カゲミだった。
針の痛みに耐えながら、縄張り意識むき出しで僕に突進してくる。
「ちょ、ちょっと待って!?僕はナワバリなんか興味ないから!」
水中で逃げまくる僕。その姿はたぶん……すごく情けなかったと思う。
川底からカゲミの声が響く。
「オレだって――仲間を釣らせるために生きてるんじゃない!」
「オレは――オレ自身の流れを残すために、生きてるんだ!!」
ぐっ……!その言葉が、胸を突き刺した。
「だったら……一緒に逃げよう!」必死に泳いだ瞬間。
背後の水面が割れ、巨大な鮎が釣り上げられた。
『おお!掛かったぁぁ!』釣り人のおじさんの歓声があがる。
僕は助けられなかった。けれど、生き残った。
水しぶきにきらめく背ビレを躱して、僕は逃げた。
(一年後――)
「よぉ!相棒!オレは囮鮎の転生魚、カゲミだ」
斜に構えた青白い鮎だった。あのときの囮鮎と同じキズを残している。
前世の記憶を抱えたまま、僕の前に現れた。なんだかんだ分かりあえて一緒に回遊する仲間になった。
――そう、カゲミも青白い容姿、青鮎になっていた。(性格はおとり鮎のまんまだけどな)
「……はぁ。オレは何度生き残っても、釣り人に使われるだけだ」
カゲミはもう何度も鮎に転スイ(転生)しているらしい。ぞわり、と背ビレが震えた。。
鮎の運命って?――一年で命を燃やし尽くすか、人に釣られるか。それを理解した上で、諦めていた。
けれど違う。
僕はもっと生きたい。
この川を泳ぐだけで、体の奥がざわめく。
水の冷たさも、光のゆらぎも、全部が「生きてる」証なんだ。
「それでも、僕は泳ぎたい!」
「……お前、ホント変わんねえな」
あきれたように僕をにらむ。けれどカゲミの目の奥に、一瞬だけ羨望がきらめいた。
次の瞬間。
水面がざぱん!と割って、カワウが潜り込んでくる。黒い影、開いたクチバシ、完全にモンスターじゃん!
「うわあああ!」
「セセラギ!こっちだ!」
カゲミの声に導かれて、僕は必死に急流を疾走した。
体をくねらせ、石影を縫い、必死に泳ぎ続ける。胸ビレが焼けるほど痛い。
でもまだ泳げる。まだ、生きてる。
「ありがとう!カゲミ」
「うっせえ!礼なんか言うな!」
背びれがビッタビタ揺れている。思わずクスッと笑ってしまった。
青鮎になってもカゲミは変わらないらしい。
僕が守りたかったのに、情けなくもカゲミに守られた。
その夜、川面に映る星を見上げた。
「生き残るんだ。仲間のぶんも、群れのぶんも……命を記録するために」
「……ほんとバカだなお前。明日も生きてる保証なんかねえのに」
カゲミは呆れながらも、どこか笑っていた。
「僕は泳ぎ続ける。生きて、生きて……その意味を探すんだ」
星空の下、祈りは水流に乗って、遠くへ運ばれていった。
川の水は、やがて海へ。
僕は2年目の夏、群れとともに2度目の大海に出た。
――ひろい。
――しょっぱい。
――でっかい魚、多すぎ!
相変わらずビビりまくった。でも不思議と「ここに来るのは運命だった」って思った。
夜、海の上で空を見上げたとき――僕は気づいてしまったんだ。
川の星空と、海の星空がつながっていることに。
「なぁ、カゲミ」
「なんだよ、ビビり鮎」
「僕たちってさ……ただ流されてるだけじゃないよな。星だって、同じ空でつながってるんだ。なんて美しいんだろう」
「……お前、川魚のくせに詩人ぶるなよ」
カゲミはぶっきらぼうに言ったけど、その横顔は、ちょっと誇らしそうだ。
波間に揺れる星が、見たことのない光に滲んだ。
「どこまで続いてるんだろうな、この世界は――」
読んでくださって、ありがとうございました。
読んでくれたあなたが、ほんの少しでも楽しんでくれたなら、
それだけで青鮎の僕の胸がきらきらと光ります。
もし気に入ってくれたなら評価してくれると、セセラギ、さらにさらに輝いて大喜びします。
それでは、また水の世界でお会いしましょう。




