37 拾っちゃった!?まさかのスイタン!?
セリアンは竪琴を胸に抱き、ラグ・ノートリア村の広場を見渡した。
「……ここら辺でいいかな」
森の木漏れ日が落ちる開けた場所。遠くで小川のせせらぎが聞こえる。
指先が弦をはじくと、澄んだ音色が空に解き放たれた。
静かに紡がれた旋律は、やがて言葉と共に歌となり、里に流れ込んでいく。
「――流れる水よ、記録を運べ。風よ、思いを遠くまで」
その声に子供たちが駆け寄ってきて、丸く囲む。
「お兄ちゃん、もっと歌って!」
「きれいやなぁ……」
無邪気な瞳が竪琴の音に揺れる。
やがて大人たちも足を止め、手を休めて耳を傾けはじめる。
広場は、ひとつの大きな音楽堂のように静まり、歌声だけが響いた。
歌が終わると、長老が杖をつきながら前に出る。
「言い伝えによると祖師と呼ばれる者は、歌に長けていたと伝わっておる」
「ほぉ。それは初耳です」
セリアンが目を丸くすると、深い皺の奥の目が優しく細められる。
長老は、静かに目を閉じ、口ずさんだ。
「――水は芽吹きを伝え、風は旅路を記す。歌は魂を結び、時を超えて残る……」
それは、古くから伝わる“歌暦”の一節だった。
枯れた声は震えていたが、不思議と旋律と重なり合い、村の空気に溶け込んでいく。
「歌は記録であり、魂をつなぐもの――あんたの声は、それを思い出させてくれる」
長老の言葉に、広場全体が深い余韻に包まれた。
セリアンは少し照れたように笑い、肩をすくめる。
「そんな大層なもんじゃないさ。ただ……心地いいから歌ってるだけだよ」
それでも、里の人々は惜しみない拍手を送った。
子供たちが口ずさみをまね、旋律が村に溶けていく。
セリアンはふと静かに空を見上げた。
(……いつかここに住んで、毎日みんなと歌えたら……いいかもしれないな)
――みんなで子供を助けた後、ほっと息をついた時のこと。
川辺に散らばる落ち葉の間に、奇妙な影があった。
「……ん?こんなところに本が……」
手を伸ばすと、小さな古い書物が半分土に埋もれている。
「これ、誰の……?」僕が覗き込む。
表紙には見慣れぬ紋章が刻まれていて、ページをめくると微かに囁くような文字が浮かび上がる。
「……声が……する?……危険です」
ゲルは思わず後ずさる。呪の影に敏感なゲルには、この書物が放つ微弱な力を感じ取れたのだ。
「言われてみれば影を感じる。危険な本じゃん!?」カゲミが眉を寄せる。
「え?僕、触っちゃったんだけど」
隠れ里の静けさとは相反する異質な気配に、ドキドキしてきた。
「……誰かがここに置いたのかしら?こわいですわ……」リウラが不安げに身を寄せる。
ツバネが辺りを見渡す。
「普通じゃないな……ただの落とし物じゃない、確かに何か仕組まれてる」
タリクは書物を握りしめ、仲間たちに向き直る。
「……油断はできない。ここで何が起こるか分からない。みんな、気をつけろ」
その瞬間、書物から微かに光が漏れ、ページが自然にめくれる。
すると、禁書ホンホンがひらりと舞い、古い書の前にふわりと落ちる。
「おや……君は、誰だい?」
古い書の文字が、微かに声を発する。
ホンホンは少し戸惑いながら、くるくると動いて答える。
「禁書ホンホンだホン!……記録されるのが仕事だホン、君は……?」
「私は封印されし禁書。名を水声抄と言う。長い眠りの後、ここで目覚めた」
古い禁書の声は低く、冷ややかな光を帯びていた。
ホンホンはひるまず、軽やかに紙を跳ねさせる。
「封印……眠り……あぁ、それって面白そうだホン! どんなお話が詰まってるんだホン?」
古い禁書は一瞬迷うように、ページを揺らした。
「……君には理解できないかもしれない。しかし、重要なことが記されている」
「重要なことだったらホンホンも記録したいホン。教えてくれないかホン?」
ホンホンの囁きに、せせらぎの音が混ざり、二者の会話は川辺に不思議なリズムを生んだ。
周囲の仲間たちはその光景を遠目に見守りながら、まだ気づかない。
この出会いが後に協会の事件や禁書の謎を解く鍵になることを……。
「同じ禁書なだけに通じ合う~」
「封印から目覚めたってこと!」
「他の禁書さんも起きたんじゃない?」
みるん・きくん・はなすんの洞察力に僕たちはハッとした。
「もし協会内にある禁書が一斉に喋りだしたら……!」
「パニックだ~!」
僕たちは記録師協会へ戻ることに決めた。
広場にはセリアンと村人たちがいて、透きとおる歌声が響く。
子どもから老人までが目を潤ませて聞き入っていた。
歌い終えると、しばしの静寂ののち、拍手と歓声が湧き上がる。
「セリアン!これ見て!草むらに落ちてた禁書が喋りだして……」
セリアンは僕の手にある古い禁書を見て、小さく息をのみ、そしてはっきりと口にした。
「……この書は――まさかの“水声抄”!」
「スイタン?」
「かわいい呼び方だな……」
長老が息を呑む。
「なんと……!歌うたび、人の心を狂わせるとまで伝わる禁書を……なぜおぬしが知っておる……」
セリアンはその視線をまっすぐ受け止める。
「私は吟遊詩人だからね。さっき歌ったとき……なにかが反応した気がしたんだ。
思えば、誰かに呼ばれるように声が響いて、私の歌はスイタンと重なってしまったんだろう。
これは偶然じゃない。必ず意味があるはずなんだ」
――歌と水の記録をつなぐ禁書。
それがセリアンを通して、僕たちの旅がうねりを見せ始めていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございますホン。
ホンホンの仲間がまたひとり増えて、ホントウに嬉しいホン!
作詞してみたホン♪
禁書ホンホンの絵描き歌
まーる描いてホン! まーる描いてホン!
小さな紙に ふたつ描いてホン!
点をチョンチョン 目になったホン!
にっこり笑顔で ほらできたホン!
四角をひとつ パタリと描けば
ページがひらり 開いたホン!
くるりと線を しっぽにすれば
踊る禁書の ホンホンさ!
ホンホン「そして~2番いくホン!」
まーる描いてスイタン! まーる描いてスイタン!
しずくをつければ 泉の声!
ゆらり広がる 古き調べ!
とわに流れる 水の歌!
できあがり! ぼくたち仲間~!
読んでくださったあなたの心にも、小さな “ホンホンのまる” が描かれていたら幸せだホン。
季節の変わり目、お体ご自愛くださいませホン!




