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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第1章

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35 企んじゃった!?それぞれの策略!?






 水龍はゆるやかに首をめぐらせ、泉の光を映す瞳でゲルを見据えた。

「……協会の鎖がほどけないようだな」


 胸の奥がひやりと縮み、ゲルは思わず後ずさろうとした。だが、その視線に釘づけにされる。


「それは己で打ち破るか、呪を施した者に外してもらうか――あるいは……だな」


 その「あるいは」の余韻が、泉の奥で何度もこだました。

 喉がひりつき、言葉を返せなかった。精霊であるはずの背中に、冷たい汗が滲んで流れていく。


 リウラが心配そうに振り返ると、ゲルは必死に首を振る。

「……な、なんでもありません」


 だが龍の視線は最後まで揺らがず、ゲルの奥底を射抜いていた。


 水龍の声は、泉の奥から低く重く響いた。


「協会の鎖がほどけぬのは、ただの偶然ではない。

 その鎖に呪を施した者――クロム・リーフの影が、今もお主を縛っている」

 ゲルの喉がひゅっと鳴った。


「……クロム、だって……?」

 リウラとカゲミが驚きの目を向ける。だが水龍のまなざしはゲルだけを射抜いていた。


「選べ、ゲル。己で鎖を断ち切るか。あるいは、鎖に絡め取られたまま、影と共に歩むか。

 ――その時、おまえの手は誰を離すのか」


 ゲルの胸の奥に、冷たい針のような痛みが走った。流れる汗は止まらない。


 必死に冷静な表情を作り、仲間たちを安心させようとするが、拳は小刻みに震えていた。

 その震えを、水龍だけが静かに見届けていた。


「呪に抗わねば、おまえの意思はやがて絡め取られ、己で選んだと錯覚したまま操られてしまう」


 ゲルの目が大きく見開かれる。

「……操られ……る……?い、いやです」


 喉が乾き、声がかすれる。

 カゲミが思わず前に出たが、水龍は淡々と続けた。


「心しておけ。鎖は重く、抗うことは困難だ。

 だが忘れるな――その瞬間も、おまえの胸の奥には必ず“痛み”が残る。

 それが、操られる者であっても“己”である証だからな」


 リウラもカゲミも気づかない。だが水龍だけは、その震えが「未来への影」によるものだと見抜いていた。





 時を同じくして――。

 記録師図書館の書庫では、普段は静まり返る棚の間に、ざわめきが広がっていた。


「……な、なにこれ!?禁書が……喋ったのか?」

 若き記録師の手にある古びた書物が、かすかに震えている。まるで呼吸をしているかのように。


「禁書が喋る……だと?」

 年長の書記も眉をひそめ、棚の禁書たちを見回す。

 その眼差しは、次に声を上げる書を探す狩人のようだ。


 記録師たちは我慢できず、禁書を手に取り、記録し、集め始める。

 机の上はたちまち禁書の山となり、静まり返っていた書庫は、いつの間にか好奇心と緊張に満たされた。


「全部、記録しなければ……どれが次に喋るか分からない」

 誰かがつぶやき、周囲が頷く。

 禁書はただの文字の器ではなく、“語る存在”へと変貌していた。

 その日から、記録師協会では「禁書収集」という新たな慣習が密かに始まる。

 書庫の片隅には、期待と恐怖を孕んだ禁書の山が、静かに積み上がっていった。


 やがて日が落ち、書庫の奥。暗がりの中、禁書の山から微かな囁きが洩れる。


「……ああ、また来たのか……」


 誰も読んでいないはずの書が、低く呟いた。

 若手記録師たちは顔を見合わせ、息を飲む。


「……やっぱり、喋ってる……!」

 その声は波紋のように広がり、次々に禁書が唸りを上げ始めた。


 書記長は眉をひそめ、命じた。

「急げ、全ての禁書を一箇所に集めろ。記録せよ。そして、喋った書には印を付けろ」


  ――だがその頃、協会執務室の奥。権力者しか触れることのできない書庫の暗がりで、ひときわ古い禁書が囁いていた。


「……誰も知らぬ秘密が、また動き出す……」

 そこは、許された者だけが入れる魔窟。


 その夜を境に、協会内には静かな恐怖と好奇心が渦を巻きはじめる。

 喋る禁書の存在は珍事ではなく、古代の呪縛の兆し――事件の前触れだった。


 若き記録師たちの間で交わされた忠告はひとつ。

「禁書には、触れてはならないものがある」


 深夜の禁書庫は再び静まり返る。だが、積み上げられた書から囁きが洩れた。


「……動かねば……動かねば……」


 棚の陰で若手が凍りつく。

「……また、喋った……」


 その瞬間、執務室の最古の禁書が自らの頁をぱらりとめくり、光を放った。

 浮かび上がる文字が空気を震わせ、呪文めいた声が全員の耳を突き刺す。


「……封じられし者たちよ、目覚めよ……」


 轟音とともに図書館の書棚が揺れ、積み上げられた禁書が床に崩れ落ちる。

 ひとつの禁書が光の塊となって宙を駆け、触れた書を次々に開かせた。


 若き記録師たちは悲鳴を上げ、逃げ惑う。

 だが、執務室奥の古き禁書は、、微かに笑うように囁いた。


「……予言は、ここから始まる……」


 ――喋る禁書の目覚めは、ただの怪異ではない。

 古代の力を解き放ち、協会に眠る秘密と封印を呼び覚ます、最初の合図だった。












 キャラバンチルの巫女、ユラナです。

 あの……正直に申し上げると、いまだに驚いています。


 本来なら瀬音さんたちと共に旅立たれると思っていたカッパ様が、なぜか私たちとキャラバンチルに戻り――水鏡を通じて現れる水龍様と、きゅうりについて熱心に語り合っておられるのです。


 「浅漬けこそ至高!屁のカッパである」

 「いや、塩揉みの素朴さを忘れるでない」

 ……と、最初はただの食卓談義のはずでした。ところが気づけば――。


 「心を操るには、好物を握るのが早い」

 「そういえばあのツナマヨおにぎりは旨かった!どおりで我の流れも変わったのだ」


 などと、何やら企みじみた言葉が飛び交い始めて……。

 わたし、背筋がひやりとしました。


 カッパ様は頼りになります。ときに人知れず力を貸してくださる存在です。

 けれど同時に、時折こうしてトラブルの火種を落としていかれるのです。


 水龍様とカッパ様のやりとりを前に、巫女であるわたしが「止めるべきか、黙って聞くべきか」と揺れるのも一度や二度ではありません。


 ……それでも。

 この小さなコミュニティーでの物語は、きっとこの“絶妙に危うい会話”からも動き出すのだろう――そう思えてしまうのです。


 次はどんな「談義」が始まるのか。皆さまも、どうぞ肩の力を抜いて見守ってくださいませ。






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