表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/142

31 映しちゃった!?証人は世界中の水鏡!?






 深き洞窟の奥、静まりかえった湖があった。

 鏡のように澄んだ水面が一滴の揺らぎを合図に震え、波紋が広がる。


 その中心から蒼白の光が生まれ、水の粒が浮かび上がり、渦を巻いて天へ伸びていく。

 やがて巨大な影が姿を結んだ。


 ――水龍。


 鱗は月光を飲み込むように淡く光り、しなやかに波打つ体躯は湖そのものが形を得たかのよう。

 瞳は深海を思わせる青で、覗き込む者の心を映し出す。


 轟音が洞窟を震わせる。

 咆哮とも歌ともつかぬ声が四人を包み込み、それは威嚇ではなく――試す声。


「……来たか、記録師たちよ」


 音ではなく、心に直接響く声。

 天と地を結ぶ水の守護者が、悠久の眠りから目覚め彼らを見下ろしていた。



「ラグ・ノートリアの祖師とは水龍さまなのですか?」

 僕の問いに、洞窟の空気がぴんと張りつめる。


 静寂を破ったのは、水龍そのものの低い響きだった。

「それは、我が興味心から生まれた“影”よ。

 人が欲望と嘘に溺れるたび、そやつは心を傷つけ、記録を歪めた……。

 人々は畏れと敬意を込めて、いつしか“祖師”と呼んだのだ」


 水面が淡く揺らぎ、一瞬、そこに白い影の人影が浮かんでは消える。

「だが、その影はついに我へ還り、眠りについた。

 ――ゆえに祖師はもはや存在せぬ。ただ、水に刻まれた記憶だけが残る」


 ホンホンが甲羅を叩いて「ぴったり答え合わせ~!」と跳ねる。

 一同は、己が触れている歴史の深さに言葉を失っていた。


水龍は深く息を吐き、洞窟全体を震わせる。

その声は滝の轟きにも似て、同時に春先のせせらぎのような優しさを帯びていた。


「……先ほどの誓い、見事であった。嘘偽りない心を見せられるとは。

 我は何度裏切られても、こうして真の心を知るたび、嬉しくなるのだ」


 鱗が淡く光を放つ。瞳は底知れぬ水の奥を映し出している。


「我が眠りは長く、その間に記録師協会は腐食した。かつての理想は灰となり、欺きが蔓延している。

 そこの精霊ゲルよ、直ちにこの不忠を告げよ。我は許さぬ、これより清浄を為す。」

 水龍の言葉が洞窟に落ちると、空気が一瞬凍りついた。


 ゲルは顔を強張らせ、拳を握りしめる。胸の奥で何かが燃え上がるのを感じながら、低く頷いた。

「わかりました。世界中の水面を水鏡にするご許可をください」

 目には覚悟と不安が混ざる。

「……よかろう。許す」


「では、この水鏡を通じて……キュリシア全土に告げましょう。ラグ・ノートリアの継承を!」

「いま再び、我が力を解放する――!」

 水龍の声が洞窟を震わせると同時に、水鏡の表面が揺れ、大河のような光が奔った。

 光は地下から地上へ、泉から川へ、川から湖へ。

 やがて海を渡り、大陸全土へと広がっていく。


 アオハの町では、井戸の水面に突如として幻が浮かび、子供たちが「わあ!」と声をあげる。

 農村では、田の水鏡に勇姿が映り、老人が手を合わせ涙ぐんだ。

 交易都市の噴水広場では、行き交う商人たちが足を止め、目の前に現れた継承の儀にざわめきが走る。

 さらに遠く、砂漠のオアシスや雪山の氷湖にさえも、その光景は届いた。


 忍の誓いを果たすツバネ。

 祖師の記録を受け継ぐタリク。

 歌で真実を響かせるセリアン。

 そして、青鮎の魂を宿しながら前へ進む瀬音。


 彼らの姿が、水鏡を通じてすべての人々の前に映し出された。

 人々は息を呑み、その心は――確かに揺さぶられていた。



 森深く、息をひそめるように暮らしていたラグ・ノートリアの隠れ里。

 井戸水に浮かんだ継承の光景に、子供たちが驚き、大人たちは立ち尽くす。

「……タリク……あの小さかった子が……!」

 白髪の老婆が涙を流し、若者たちは拳を握りしめた。

 閉ざされてきた扉の外に、希望の光が差し込んでいた。



 一方、記録師協会の執務室。豪奢な水盤に現れた映像を見て、執務官たちは顔を青ざめさせた。

「な、何をしている!? あの儀式は……禁忌のはずだ!」

「協会を通さずに……全土へ流しただと……!」

 だが足元の弟子や下働きの書記たちは、息を呑み、密かに心を震わせていた。

「これが……本当のラグ・ノートリア……」



 荒野の旅商人は水袋の水面に光景を見た。

 雪深き山村では、炉端の水椀に映る歌に耳を澄ます子らがいた。

 港町の船乗りたちは、樽の水に走る光を見て歓声を上げた。

「……これが、新たな時代の始まりかもしれないな」

 それぞれの場所で、人々は同じ光景を目撃し、胸に刻み込んでいった。


 その時、水鏡が揺れ、波紋の奥から水龍の声が再び響く。


「よくぞ嘘偽りなき心を見せた……。

 この誓いは、もはや一部のものではない。

 世界そのものが証人となったのだ」


 その宣言は、希望と同時に――大いなる波乱の幕開けを告げていた。










 アオハの町にも、水鏡に映し出されたあの光景は届いていた。


 誓いの場面を見届けた子供たちは、広場に集まって「継承の儀ごっこ」を始める。


「ぼくが水龍さまだ! ドロドロドロ〜!」


 大きな声で唸ると、背中に毛布を羽織って龍の真似をする。


「じゃあ、わたしがツバネ!シュバッ!忍者のかっこいいポーズ!」


 木の枝を振り回して刀さばきを真似る子。


「わたしはセリアン! ら〜ら〜♪」


 即興の歌をうたって、みんなを笑わせる子。


「タリクのセリフは……『魂を継ぐ!』だよね!」


「じゃあ、瀬音は……『流されても進む!』だ!」


 言葉を真似しながら、幼い目はどこか真剣だった。


 まだ意味のすべてを理解していないけれど、心には確かに光が宿っている。




 見守る大人たちは笑い、時に涙ぐみながら、その遊びに目を細めていた。


 彼らの未来に、あの誓いが種のように芽吹いていくことを信じて――。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ