3 嗅がれちゃった!転スイ(転生)の秘密
キュリシアには古から伝わる民話がある。
「あれは魚にあらず、命の祈りなり。三たび生きて、流れの真を知る者――青鮎なり。」
むかしむかし、ある山あいの里に、美しい清流が流れておった。
その川には、夏の終わりになると無数の鮎が帰ってきて、命をつなぐという。
けれど、その中に――たった一匹、決して群れに混ざらぬ鮎がいた。
そいつの体はほのかに青く光り、月夜の下では、銀でもなく、黒でもなく、青玉のように輝いたそうな。
村の年寄りたちは、それを「青鮎」と呼び、「三年流れに逆らいし命。人知を超えし魚なり」と語った。
「青鮎を見た者は、大切なものを失うが、大切なことを知る」
「青鮎は、川の記憶をすべて背負って流れる」
「青鮎は、三たび夏を越えて、この世とあの世をつなぐ橋となる」
ある旅人が川辺で道に迷い、水音に導かれてふと見れば、ひときわ青く光る魚が、流れの中でじっとこちらを見つめていたという。
その目は、魚のものとも思えぬほど深く、人の心を見透かすようであったと。
今もその川の奥に、青く光る一筋の流れを見る者がいれば、それは、かつて長く流れに逆らい、川と命を愛した者の魂かもしれぬ。
(アオアユ……それってもしかして僕のこと……?)
今日は、人生で最も緊張する日――記録師の適正を見る目的の採用面接だ。
僕は、キュリシアで生まれた瀬音。転生前は日本人の沢海だった。
さっき入口でぶっ倒れた僕は川沿いに立っていた。はぁ~、そよぐ風が気持ちいい。
……面接官は真剣そのものである。え?外で面接すんの?
「志望動機を聞こう。瀬音君」
ガチガチに緊張してしまった!頭が真っ白になる。
志望動機?兄さんのことは黙ってるとして、ノートリアになりたい!ただそれだけなんだが!袖をぎゅっと握った。胸の奥がざわつく。
「あ、えっと……ぼ、僕は……大丈夫かな……ハッ!?」
(ヤベッ!心の声が漏れたー!落ちつけ!冷静になるんだ!兄さんと再会するためにここまで来たんじゃないか!!)
面接官がためいきをつきたそうにしている気がする。
「まあいいや。瀬音君、極端な話なんだが。もし世界が枯れても、協会の指示に従えるかね?」
キーン!
突如、聞き覚えのない声がこめかみあたりに響く。
⦅記録を手放してはならない。従順な者だけが、この水を受け継げる⦆
!?
胸の奥がざわめいた。いやな予感だ。これはきっと、ただの問いじゃない。
(あぶね、安易に「はい」と言わなくてよかった……)
言葉が詰まってたら、なにかに引きよせられて、ガクッと膝が折れた瞬間――
「……スンスン、お主からかぐわしいキュウリのような!我らの赤子のようないつまでも嗅いでいたい匂いがする……!!こ、これは抗えぬー!たまらんッパ!」
突如どこからともなくカッパが現れ、スンスン、されている!
(スンスン?カ!カッパにニオイ嗅がれてるんだがー!?!)
「吾輩、キュリシアの神様の末裔なんだッパ。だから瀬音は記録師に合格だッパー!屁のカッパなのだ!」
ワガハイって!ネコなのかラッパーなのか?よくわからないが、カミサマノマツエイって日本でいうコウゾク!えええ~!?
カッパ様が笑いながら説明してくれる。
16年前、僕と一緒に異世界に渡ったツナマヨおにぎりが、マヨネーズという調味料を生み出し、キュウリとの革命的な相性を生んだのだとか。
「ありがたや~、僕のツナマヨが歴史に刻まれるとは!」
「吾輩の愛するマヨネーズとやら、ルンパッパ!キュウリに嫉妬するくらい相性がいいYO!」
カパパパーと笑ったカッパ様の頭のお皿からビチャッと水がこぼれている。
「ひやあぁ!?笑うとお皿の水が干からびて弱体化してしまう~!」
カッパ様は急いで川へ飛びこんで、消えた。
川を覗きこんでた、白目をむいた面接官が我に返って僕に言った。
「瀬音君、カッパ様がおっしゃる通りにー合格だッパー」
――流され体質の僕だけど、ツナマヨのおかげで記録師になれそうだ!
「えええ!あ!ありがとうございますっ!」(カッパ様~!ツナマヨサイコー!⦅棒読み⦆)
喜びの余韻も束の間、僕は足を滑らせた。表情の固まった面接官を見ながら僕は落ちていった。
――ドボンッ!川の冷たい水に全身を包まれる。
青白く光り輝くのがホントにきれいだな……なんて呑気にペンダントを見つめていた。
「お前、また流されたのか!」
背びれをプリプリさせて小さな闇精霊カゲミが怒っている。
「またって。やっぱり君は、おとり鮎だった記憶を持つ、カゲミなんだね!」
ズルルー!
驚きの衝撃で川の水をすすりながら、前世の青鮎としての記憶が鮮やかにフラッシュバックする――
読んでくださって、ありがとうございます。
もし気に入ってくれたなら評価してくださると、カッパ様も大喜びで水をバシャバシャ飛ばしちゃうッパ!
それでは、またキュリシアの川辺でお会いしましょう。




