26 お外出ちゃった!?持出厳禁の秘策!?
「ツナマヨ様、退出……おっと間違えた。瀬音さん、退出……と」
来た道を戻って、僕たちは記録師図書館から外に出た。
「やっぱり退出時も手荷物検査あったな、ふぅ」
「はぁぁ、久しぶりの青空だぜ!……ってもう夕陽沈みそうじゃん!」
外に出られて大はしゃぎのカゲミ。僕も同じ気持ちだった。みんな無事だし……。
思わず自分の胸ポケットを見下ろす。
記録師協会の制服はポケットが多くて便利だし、見た目もパリッとしてカッコイイ。
――まあ、それはさておき。
水底の記憶図書館の中庭のベンチ。
禁書ホンホンが急にバタバタ羽ばたきはじめた。
「ちょ、ちょっと待ってホンホン!禁書は外に出ちゃダメだろ、持ち出し禁止なんだから!」
「ふふふ、禁書たるホンホン、実は折り紙に変身できるホン!」
――次の瞬間、ホンホンがぺたんと紙になり、僕の胸ポケットにするり。
ハンカチ……いや、ポケットチーフもどきになった。
「ひぃっ!?なんか入ってきた!」
「遠目から見れば誰も気づかないホン!」
「いや絶対ホンホンだろ!」
「フフン!“できる”と思ったらできちゃったホン!
ホンホンは、長い間、鍵のかかったあの禁書部屋に閉じこめられて、退屈してたんだホン!」
胸元からポケットチーフ姿のホンホンが叫ぶ。
「本や活字が苦手だって、廊下を通る誰かが言うのを聞いたこともあるホン……!」
「でも、ホントはそんなことないホン!ホンホンをキライにならないでほしいんだホン!
本は閉じるものじゃない――開けば、未来を描けるものなんだホン!」
力強く叫ぶと、勢い余ってホンホンはひらりと飛び出してしまった。
「うわっ!?ホンホン、どこいくんだ!」
ツバネが慌てて追いかける。だが、風に乗ったホンホンは空高く舞い上がる。
「ホンホン、どこまでだって飛べるホン!」と楽しそうに言った直後、ぽつり。
「……でもやっぱり、おやつがないと力が出ないホン!」
その瞬間、中庭の地面からにょきっと水草が生えた。
「草生えたー!」
ツバネが指差して笑う。タリクは吹き出して肩を叩き、セリアンは目を丸くして笑いをこらえている。
ホンホンは得意げに胸を張って羽をパタパタ。
「ほら、ホンホンの力は無限大ホン!」
「楽しいね~」
「きくんも草生える?」
「おやつがあれば生えるさ」
みるん・きくん・はなすんまで草に興味津々。
みんな笑いながらも、ホンホンの叫びにじんわり心を打たれ、未来へ進む一歩を胸に刻むのだった。
記録師図書館には司書や記録師もいたが、誰一人ホンホンの脱走には気づかない。
こうして、秘密の小さな旅のお供が決まってしまった。
次の日。
キャラバンチルに到着した僕たちは、慎重にラグ・ノートリアの隠れ里の情報を集めることにした。
……のはずが。
「おお、お主ら!新米ノートリア諸君。よく来たな!昨日の続きじゃぞぉ~!」
チルに現れたのは――まだ酒瓶を抱えたカッパ様だった。
「き、昨日!?って……まだ飲んでたのか!?」
タリクが声を裏返す。
「カッパッパ!キャラバンチルの水はうまいッパ!」
カッパ様がグイッとラッパ飲み。
「いや、それ絶対お酒だよね……」
「わっが~はい!ミズえもんです!」
カッパ様が僕からはじまるあのトーンで自己紹介を始めた!
「ホンホンなのホン。ミズえもん、よろしくホン!」
いつの間にかポケットから抜け出した禁書ホンホンが、さっそく挨拶を返す。
初対面でも壁ゼロのホンホンに、僕は驚いた。
正直、僕には真似できない。
「ホンホンはすごいね。僕は地味だから……情けないな」
「ふふふ、瀬音も草生やすかホン?」
にょきっと羽を広げた瞬間――僕の靴下のつま先から水草が芽を出した。
「うわっ!?な、なんで僕まで!?」
「瀬音も草生えたーー!!」
赤面しつつも、僕はホンホンの無邪気さに思わず笑ってしまう。
「…ま、まあ、少し楽しいかもな」
ホンホンは誇らしげに羽を光らせて胸を張る。
「ほらほら、ホンホンと仲間たちの冒険は、笑いも草も止まらないホン!」
「ホンホンよ!吾輩にも草を生やしてくれ!」
カッパ様が食い気味に迫ってきた!
頭のお皿から聖水が1滴、ホンホンめがけて飛ぶ――。
その光景は、スローモーションのように僕には見えた。
「1滴たりとも許すまじホン!シミ抜き加工ホンホン!!」
ホンホンが叫ぶと、羽がピリッと光り、防水+即時シミ抜き加工が発動。
水滴は衣服にもページにも触れず、光となって消えた。
「えっ、ホンホン、今の完全に魔法掃除機だよ!」
「ホンホンは本であるがゆえ、水気に弱いホン!」
「だからこそ……ホンホンはもっと強くなるホン!」
キャラバンチルの広場。夕方の市が落ち着き、人通りがまばらになるころ――。
ベンチに座った親子が、一冊の絵本を開いていた。
「ほら、ここで王子さまが――」
「えへへ、つづきはどうなるの?」
子どもの小さな声がはずむ。
親がゆっくりと読み進めるたびに、ページの上で物語の世界が広がっていく。
夕暮れの風がページを揺らす。子どもの笑い声が、広場にやわらかく溶けていった。
そのとき、僕の胸ポケットでじっとしていたホンホンが、そっと羽を震わせた。
「……ホンホン、思い出したホン」
小さくつぶやいた声は、どこか懐かしさに満ちていた。
「ホンホンね、ずっと禁書の部屋に閉じこめられてたとき、夢を見てたんだホン……。
童話のつづきを書きたい――って夢を」
ホンホンの目にきらりと光が宿る。
「本は終わりじゃないホン!
だって、子どもたちは“つづき”を読みたがってるんだホン!
なら……ホンホンが描けばいいホン!未来の童話を!!」
「『続・キュリティシアの冒険ノート』禁書ホンホン著だホン!」
ホンホンの言葉に、僕も胸の奥が熱くなる。
禁書ではなく、新しい物語の書き手としてのホンホン――。
その夢が、僕たちの旅と重なって見えた。
「ホンホン……! あの親子が絵本を読んでるのを見て、ふと思いだしたホン。
そうだホン、ホンホンには夢があったホン!
童話の続編を書きたいホン!
あのとき途中で終わったお話の先を、ぜったい書いてみせるホン!」




