21 聞いちゃった!?ツバネの誓い!
中庭の水面がざわめいた。
生い茂った水草がざわざわと揺れ、やがて左右に裂ける。
見えない手に導かれるように、奥へと続く道が形づくられた。
その奥に――重々しい影。水の幕を抜けて現れたのは、黒塗りの門。
影狩り一族の記録を封じ込めた、まるで時を閉じ込めた墓所のような門だった。
冷たい気配が漂い、空気ごと凍りつかせる。
「隠されていた影狩り一族の門だホン」
禁書ホンホンが羽音のようにページを鳴らす。
「一族の血を継ぐ者にしか開かぬホン。他の者には、ただの壁にしか見えないホンホン」
「なぜこんなところに……」
僕は息をのむ。圧倒的な威圧感が、門から押し寄せてくる。
「……ここは、拙者が行く。みんなは先に進んでくれ」
ツバネが一歩前へ出た。
「ひとまず待ってるよ。ツバネ、気をつけて」
「ワタシも一緒だから、きっと大丈夫ですわ」リウラは胸元で自信満々に笑う。
「ああ……承知した」
ツバネと小声で言葉を交わした後、リウラは俯いていたカゲミの元へ飛んでくる。
「元気ないわね、闇精霊。ツバネが影狩り一族の門に行くから、ワタシも一緒に行くのですわ」
水面を指先でなぞりながら、軽やかに言った。
「あなたの取柄がなくなっちゃいましたわ。いい?私の名前は――リウラ」
ため息をつき、ひとつひとつ言葉を区切る。
「リとウラ。どちらも“裏裏”。ワタシは裏記録師の偵察精霊だったのですわ」
カゲミの尾が震え、思わず声が裏返る。
「ハッ!?えっ……!」」
リウラは目を細め、わざとらしく肩をすくめた。
「カナメを探らなければいけなかったんだけど……セオトとツバネのおかげで、呪縛から逃れることができましたの。ウフフ」
「それがおわったら――ワタシたちを創ったラグ・ノートリアが生きているかどうか、禁書ホンホンに聞いて探しにいってあげてもいいですわよ」
カゲミは一瞬目を伏せ、沈黙ののち、小さくつぶやく。
「……ありがと」
リウラはにこりと笑い、髪のように揺れる水の影をはためかせる。
「カゲミとセオトには感謝してるから、お安い御用ですわ!」
そう言って、嬉しそうにツバネのもとへ戻っていった。
禁書ホンホンはその後ろ姿をじっと見つめ、ぽつりと告げる。
「カゲミ……キミを闇精霊にしたのは、ラグ・ノートリア祖師かもしれないホン。
囮鮎として水に還るはずの命を、記録から消さないために……」
(ツバネ視点)
影狩り一族の記録が眠る門へ、リウラを胸に連れて歩く。
「……あいつら、騒がしいくせに、妙に頼りになるんだよな」
「ふふ、ツバネがそんなこと言うなんて珍しいですわね」胸元でくすくす笑う。
「べ、別に褒めてるわけじゃない。……ただ、背中預けられるってのは、悪くねぇ」
「でも、セオトのこと気にしてるでしょ? まだまだ子どもっぽいのに、よく頑張ってるから」
「……あぁ、あいつはまだ弱ぇ。でも……伸びる奴だ。
記録師なんて胡散臭ぇ役目でも、全力で向き合ってやがる」
「……素直じゃないなぁ、ツバネ」小声でつぶやいた。
からかう声が聞こえた拙者は少し照れた。
「タリクの野郎もムカつくけどな……。まぁ、あいつがいると場が締まる。強さも本物だし」
「喧嘩ばっかりしてるくせに~」
「……だからこそ油断ならねぇんだよ。けど……いざって時に頼れる奴がいるってのは、悪くねぇ」
感情が声に乗ったのか、少し声が低くなる。
「……拙者は一族のことで背負うもんがある。仲間なんて……邪魔になると思ってた。けどな……」
「けど?」
「一緒に歩いてくれる奴らがいるのも……悪くねぇって、最近思っちまうんだよ」
リウラが柔らかく笑う。
「うん……ツバネがそう言ってくれるの、すごく嬉しいですわ」
「……お前もな、リウラ。拙の隣にいてくれて、ありがとな」
「……えへへ。こっちこそ」
「……兄者なら、どうしてたんだろうな」
拙は拳を膝に押し当てる。
「俺が子どもの頃から、全部背負って立ってた人だ。村も、一族も……俺のことも」
「……兄者は何を選んだんだ? 拙者は……兄者を憎みきれねぇんだ」
「ツバネは、カナメさんが自分を見捨てたって思ってるの?」
「……いや。あの人はそんなことはしねぇ。ただ……協会に仕えてまで生き延びた理由がわからない」
「拙者は一族を守れなかった。だからせめて……誇りだけは背負おうと決めた。
でも兄者は……影に堕ちてまで何を守ろうとしたんだ?」
リウラは真っ直ぐ見つめて言う。
「……やっぱりお前は甘ぇな、リウラ。俺みたいな奴に希望を見せやがる」
「甘いんじゃなくて……ツバネを信じてるんですわ」
「……なら信じてみるさ。兄者が何を背負ったのか、拙が受け止めてやる」
そう言い合いながら、緊張も少しほぐれ、門へと辿りつく。
門の前に――黒いローブを纏った男が立っていた。
ゆっくりと手を広げ、その姿は人というより水底に沈んだ古い記録の化身のようだった。
「我が名は、“記録の墓守”ゾル。影狩りよ……ひとりで来るとは、愚かだな」
ゾルは冷たい目でツバネを見下ろす。
拙者は刀の柄に手をかけ、静かに答える。
「愚かじゃない。覚悟だ。ここで止められようが、必ず――仲間のために進む」
ゾルはにやりと笑う。
「なるほど……では、試してやろう。お前の覚悟、どれほどのものか――」
水底の埃や古い紙片が舞い上がり、戦いの予兆が張りつめる。
拙者はひとつ深呼吸し、ゾルを見据えた。
「……行くしかない」
仲間は拙者を信じて待っている。
拙者が倒れれば、誰も先に進めない。だから――拙者が守る。
「行くぞ……!」
その瞬間、水底の静寂を裂き、二人の間に火花が散った――。
「みなさま、最後まで読んでくださってありがとうございました!ですの!」
うふふ、秘密がある女って魅力的ですわ」
「……魅力的かどうかは知らねぇが、面倒ごとが増えるのは間違いねぇな」
「それも冒険のスパイスですわ。――ところで、ツバネ?
次回はどんなことが待ってるんでしょう?」
「次は……そうだな。影狩り一族の“墓守”と、ついに正面衝突だ。
拙者の誓いが試される……そんな話になるだろうな」
「いよいよワタシの出番ですわね!みなさま、お楽しみにですわ!」




