2 目覚めちゃった!?僕の記憶にびっくりドッキリ!
ぼんやりと思いだしてきた……
『汝、流されるままの少年よ――記録を担う者として選ばれた』
(……そうだ!僕、転生してきたんだ!たしか“アオアユになれば異界を渡れる”とか言ってたっけ!?)
僕はもともと日本の高校2年生――|青木沢海。
そして、この世界キュリシアでは、碧貴瀬音として生まれ直した。
こっちで赤ん坊になってからは、前世のことなんてすっかり忘れて……今の今まで思い出しもしなかったのに。
(うっわ、びっくりドッキリ玉手箱だよ!)
しかも、僕たち一家。父さんも母さんも、そして兄さんも――みんな転生者だったなんて。
ここは水の流れが”命の源”とされる世界、キュリシア。
僕が生まれたのは南部の町アユハ。記録師協会があって、川沿いに水と記録を大切にする人々が暮らしている。
この世界には「水の記憶を記す仕事」を担う記録師がいて、兄は16歳でその道に進んだ。
両親はほとんど家におらず、僕を育ててくれたのは八歳年上の兄――汐真。
泣き虫だった僕を叱りながらも、ちゃんと背負ってくれる人だった。
夜中にしくしく泣けば、母親代わりに面倒みてくれた。
「……ひっく、ふぇぇ……」
(おかあたん、おとうたん……いつ帰ってくるの……)
トン、トン、トン
「……にいたん!」
「……おやすみ、セオト」
手をのばすと抱きしめてくれて、トントンと規則正しい音に安らいでいつの間にか眠ってしまっていた。
絶妙なあやし方が心地よかったんだよな。安心感バツグンのぬくもりだった!
両親の不在にも慣れた頃、兄は記録師として働いていた。
兄の真面目な仕事ぶりに、周囲と兄からのプレッシャーに襲われていたなぁ。
「瀬音!いいかげんちゃんとしろ!」
「なんとかなるよ」
――喧嘩は日常茶飯事で、僕の返事はいつもヘラっとしたもの。
ある日、家に帰ると、黒づくめの老人と兄がいた。
「……流れ……抗うは、必ず記憶は流さ……泡となって……」
足を止めた僕に気づいた兄は、あわてて言った。
「っ……おかえり! 仕事の話だから部屋いってろ!」
「……うん」
(変なの)――そのときはそれだけだった。
だが翌日。兄は「仕事に行ってくる」と出かけたきり、二度と戻ってこなかった。
「僕の兄、汐真が帰ってこないんです!どこに行ったか知りませんか!?」
協会に泣きついても、「記憶の穴に落ちたのだろう」と片付けられるばかり。
記憶の穴――。
水の記録が絶たれると、大地そのものの記憶が抜け落ち、地表にはぽっかり空洞が生まれる。
忘れられた記憶と流されぬ記録が濁りや消失を生むことはある。
だが、その異変は報告されていなかった。
兄の行方はわからない。
町の人は「協会に任せれば間違いない」「記録は真実」と言うだけ。
協会には、うやむやされたままで。……僕の疑念は増すばかりだった。
記録師協会のことが信用できなかったけど、それでも兄を探すために記録師を志した。
言葉も行動も不器用な僕は、時間ができると河川敷でぼんやりしていた。
(自分の居場所……わからない。僕、ここにいてもいいんだよね……)
ぐしっと袖で目蓋をこすった。両親の記憶は薄くて……誰にも頼る気はない。自分で探すしかない。
だから今――僕はあの記録師協会の入口に立っていた。
ゴクリ、と思わず喉がなる。
白壁に水紋の刻まれた建物は、まるで僕を呼んでいるように見えた。
「兄さん!今度は僕が助ける番だ!」
兄にもらったイヤーカフが熱を帯びる。
ギィィ……。
扉を開けた瞬間、眩しい青白い光に包まれ、僕は床に崩れ落ちた。
――水紋のペンダントが反応し、前世の記憶がぶわっとよみがえる。
(えっ!ガラスだと思ってた――)
ざわ……ざわ……ざわわ……。
青白い魚の群れ。水草に揺れる清流を泳ぐ鮎の影。その中に、水面に映るもう一人の僕――。
『汝、流されるままの少年よ――記録を担う者として選ばれた』
「……僕は……タクミ!で、僕は鮎だったのか!?」
思いだした!僕、転スイ(転生)したんだ!
川で転んで落ちたツナマヨおにぎりを追って、水に呑まれたあの瞬間。
|青木沢海という名の、自分の過去を。
懐かしさに胸がこみあげる。日本の父さん、母さん、兄さん……。
記憶が戻っただけで、寂しさがほんの少し和らいだ気がした。
「ひええー! あのクールな瀬音さん、おでこにでっかいたんこぶできてるーっ!」
「しかもキュウリの匂いがする! 嗅がせて嗅がせて!!」
「やめとけ、俺らモブだから……!」
(……誰だ今の声?)
『私たち、みるん・きくん・はなすん! 瀬音くんと同じ新米ノートリアですっ!』
(……いや、誰!?)
気づけば、僕は医務室に運ばれていた。
記録者協会の内部は、不思議な空間だった。ビバ異世界!
天井には巨大な水鏡――空が映っているのに、水一滴落ちてこない。
「……セオト!お前!入口で倒れてたんだぞ!大丈夫か!?」
駆け寄ってきた仲間たちの声で、僕はゆっくりと目を開けた。
「いってぇぇ……」
額のタンコブを押さえながらベッドの上で呻いた。驚いた顔。心配そうに伸ばされる手。
「……ごめん。ちょっと、川に落ちた夢を見てた」
髪先から、水滴がぽたぽたと零れ落ちた。
――それは夢じゃない。僕が「鮎になって渡った」証だった。
「「「はぁ?!夢で川に落ちたからこんなずぶ濡れだと!?」」」
ベッドの脇には、片目に分厚い水晶レンズを嵌めた青年――タリクが立っていた。腕組みしてこちらを睨んでいる(呆れてるらしい)。
「初日からぶっ倒れるとはな。記録師どころか、ただの川魚に戻るんじゃねぇのか?」
短いマントに、足首までピタリと黒ずくめ。忍者っぽい姿の青年――ツバネ。
「か、川魚って……!」
胸の奥にざわりと残る、消えかけの泡のような記憶。
小魚と共に遡った流れの感覚。その中に確かに“僕”と”君”がいた。
(……あの過去には、まだ続きがあるんだ)
言い返そうとした僕の前に、ひょいっと影が割りこんできた。
「ふふん、まぬけだね。協会の門で転んで失神とか、新人あるある通り越して伝説だよ。記録師史上に名を残すかも、おもしろ半分で心配して損したわ」
「うぐっ……」
その瞬間――「し、死んでない!? まだ息ある!? おでこ触っていい!?」
わぁっ!と喚くのは、銀と青の鮎に似た流線形の体に、金の瞳、僕の手のひらサイズなのに存在感が濃い精霊――カゲミ。でも、そっと僕の額を冷やしてくれていた。
闇精霊のカゲミ、影狩り一族のツバネ、片目の観測者タリク、――同じ新米ノートリアたち。
仲間の目を見てから、小さくうなずいた。
(異界を渡れるなら……いつか必ず、日本に戻って兄さんを探す。僕は、そのためにここにいるんだ)
その瞬間から――僕たちの物語は、本当に始まった。
読んでくださって、ありがとうございました。
よろしければ評価してくださると、カゲミがピョンピョン跳ねて大喜びします!
「ヒャッホー!やったぜ!次も読んでくれよな!」って感じです。
それでは、また水の世界でお会いしましょう。




