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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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149/149

149 気になっちゃった!?青鮎の“右手”!?






 檻ではなくなったアクアプリズン。

 その静けさを破るように、やたらと元気な声が飛び込んできた。


「セオトー!!ここにいたのか! 助けにきたぞー!!」

 怒涛のごとく影が一直線に迫ってくる。

「……カゲミ?本物!?」

 一瞬、現実感が追いつかなかった。

「ぐすっ…………無事そうでよかった」


 次の瞬間――


「オトちゃん!無事でよかったぁ……!本当に、心配したんだから!!」

 エイミがほっと息を吐き、胸に手を当てる。

「え?母さん!?」


「正面突破してたら、もっと早く会えたホン!」

 ホンホンが胸を張る。

「あ、ホンホン。カゲミと一緒だったのか!」


「いやいや、結果オーライだ。ちゃんと生きてた。まずはそれで十分だ」

 マモリが肩をすくめる。

「父さんまで!どうしてここに!?」


 思わず、笑ってしまった。胸の奥で張りつめていたものが、ほどけていく。唖然とする僕に、母さんが簡単に状況を説明してくれた。


「……うん、来てくれて、ありがとう」

 短く、けれど確かに頷く。



 そのときカゲミの視線が、ふと僕の右手に留まった。


「……セオト、そのアザ……?」

  左手は、何もないまま自由だった。 右手には、淡く光る刻印が残っている。


 カゲミは、じっとそれを見つめたあと、何も言わなかった。ただ、少しだけ口元を緩める。

「……そっか。ちゃんと……選んだんだな」

 小さく、けれどはっきりと。


 マモリも、静かに頷いた。

「刻む形を、外じゃなく内に変えたか。重いぞ、その覚悟」

「うん。でも僕には……必要だった」

「セオト。枷は、外すものじゃない。森では、縛る縄は――朽ちるまで待つものなんだ。この鎖は、“未来が一つしかない”という前提で編まれていた。だが……」

 父は、わずかに笑った。

「お前が正解だったな」


 歌。ズレた行進。笑う魔物。逃げない青鮎記録師。


「未来が増えた。お前の覚悟が創ったんだ――」

 森の記録師は、穏やかにそう告げた。



 そのやり取りを、周囲の青鮎記録師たちも息を潜めて見ていた。

 歓声でも、拍手でもない。ただ確かめるような視線が、僕たちへと集まってくる。


「……外から、来た人たち……?」

「いや……違う……」

 誰かが、囁く。


 青鮎記録師の一人が、ふとマモリの姿に気づいた。水草の揺れに溶けるように立つ、落ち着いた背中。森の気配をまとった、その在り方。


「……まさか……」

「……森の……?」

「記録師……?」


 声が、震える。水が、ざわ、と鳴った。恐怖ではない。期待とも違う。長く閉じ込められていた場所に、外の名前が落ちたときの音。


「……森の記録師、マモリ……?」

「生きてたのか……」

「本当に……来たんだ……」


 名が広がるにつれ、ざわめきは、次第に静まっていった。騒ぐ者はいない。ただ、信じられないものを見る目が、ひとつ、またひとつと増えていく。

 マモリは、その視線を受け止めて、静かに一歩前へ出た。肩の力を抜いたまま、いつもの低い声で言う。


「……久しぶりだな。青鮎の者たち」

 水草が、彼の足元でゆっくりと揺れた。

「ここまで、よく耐えた」

 その一言で。何かが、ほどけた。


「……俺たち……」

「……見捨てられて、なかった……?」

 誰かの声が、泣きそうに掠れる。


 マモリは、首を横に振った。

「記録師は、仲間を切り捨てない。それだけは、昔から変わらない」


 水底に、深い静寂が落ちた。歓声はない。けれど、誰も俯かなかった。

 青鮎記録師たちは、この場所の外と――確かにつながったのだと、理解していた。


「……そうか。マモリさんの息子だったのか、お前は……」


 そして僕は、その輪の中心で、右手の刻印を、そっと意識する。

 ――この人たちも、同じ重みを、知っている。


 だから――胸の奥に不思議な安心が広がっていった。



 エイミが一歩前に出る。微笑んで、指を鳴らす。

「さぁ!ここからは、ひとりじゃないわよ」

「うん。母さん、父さん、カゲミ、ホンホン。青鮎記録師のみなさんも。行こう!」

 その言葉に応えるように――水の奥で、音が膨らんだ。

 拍子。旋律。泡が弾ける軽やかなリズム。



「魔物たちのパレードが……始まった」

 マモリが前を見る。

 魔物たちが、動き出している。だが、もう恐怖はない。整列でも、拘束でもない。

 歩調だ。


「これがオラクルパレード……でも、なんか……雰囲気が楽し気だホン?」

 ホンホンが目を丸くする。僕は、右手を胸に当てたまま、左手を前に伸ばす。

「うん。これは……奪う行進じゃない」


「カゲミ……一緒に!」

「おう!置いてかれる気、ないからな!」

 僕たちは手を握りあった。久しぶりのカゲミだ。


「ウフフ。私たちも、記録師さんたちも、全員参加で。魔物のお祭りね!」

「護りは任せろ!道は、森が読む」

 マモリが低く言う。


 青鮎記録師たちも、動き出す。鎖はない。だが、右手の重みは、皆同じだ。それでも足取りは、確かだった。

 魔物と、人と、記録師と。立場も、過去も違う者たちが、同じリズムで進む。

 オラクルパレードは、今や祝祭だった。生きている者が、生きたまま、選び続けるための行進。


 水底の舞台で、僕たちは一歩を踏み出す。

 左手は、未来へ。右手は、記録と共に。




 水底が、騒がしい。だがそれは、恐怖のざわめきではなかった。

 触手の魔物が、音に合わせて揺れている。鱗の魔物が、隣とぶつかって笑っている。隊列は崩れ、拍子はズレ、儀式としては致命的。

 それでも、止まらない。

 太鼓のような水圧。泡の弾ける音。どこか――祭りの失敗みたいな、陽気さ。


「何かが……やって来るぞ……!」

 森の記録師、父さんが何かを察知する。


 歌とリズムが重なり、光が水に踊るその只中で、ふいに音が消えた。

 静寂。

 打楽器も、泡の弾ける音も、誰かの笑い声も――すべてが、一拍だけ息を止める。


 次の瞬間。


 水が、沈んだ。重く、深く、引き込まれるように。水圧が変わる。流れが反転する。まるで、この水域そのものが――頭を垂れたかのように。


「……なに、これ……」

 誰かの声が、震えた。


 最深部の闇が、ゆっくりと裂ける。白銀の光が、一本の線となって現れ、次第に輪郭を持ちはじめた。

 それは鱗だった。巨大で、透きとおるようで、光を拒まず、抱き込む。

 龍のようで、魚のようで――いや、そのどちらでもない。

 水の中に溶け込みながら、確かに“そこにいる”存在。


 長大な身体が、しなやかにうねる。尾が揺れれば、余波だけで水が澄み、濁りが剥がれ落ちていく。ひと振りごとに、歪められた記録が、泡となって浮かび、消えた。


「こんなところにいたのね……古代水霊獣……」

 エイミが、息を呑み涙ぐむ。

「シュレイヴァ……ちゃん」






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