表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/148

137 動きはじめちゃった!?それぞれの流れ!?






「ほぉ。元ノートリアで、ファントムなのに……劇場の支配人か。摩訶不思議だな」


 低く落とされた守杜(マモリ)の声は、感心とも警戒ともつかない響きを含んでいた。

 屋根付きの休憩所には、ハーブティのやわらかな香りがまだ淡く残っている。


 ベンチの端では、カゲミがすっかり眠り込んでいた。影を抱くように身を丸め、規則正しい寝息を立てている。無理を重ねてきた反動だろう。

 その横で、禁書ホンホンがページをぱらぱらと揺らしながら、旅のあらましを語っていた。


「それでホン、セオトが消えちゃって、カゲミが影占いして、ホンホンが飛び出して木に引っかかって……」

「順番に話してちょうだい」

 詠水(エイミ)が、くすっと笑いながら促す。


「むずかしいホン!でも大事なところは、劇場に行けばわかるホン!」

 ホンホンは胸を張るように、少しページを反らせた。


 マモリは腕を組み、静かに頷く。

「クロム……か。ノートリアの中でも変わり者だったが……あの場所を守っているとはな」

 エイミは、どこか懐かしむように微笑んだ。

「ふふ。過去を背負ってる感じはしたけど……悪い人じゃないわよね」

「そうホン!」

 ホンホンは勢いよく同意する。

「ちょっと変だけど、劇場はちゃんと守ってるホン!」


 しばしの沈黙のあと、エイミがふと思い出したように声を上げた。


「あらあら……汐くんが、もう記録師協会長なのね~」

 指を口元に添え、目を細める。その言葉に、マモリがわずかに目を見開いた。

「……もう、そんな立場か」


「早すぎるくらいよね」

 エイミは遠くを見るように続ける。

「でも、あの子なら……背負ってしまうんでしょうね」


 ホンホンは、ぴたりと動きを止めた。ページの隙間から、眠るカゲミを一瞬だけ見やる。

「……背負うの、みんな得意すぎホン」

 ぽつりとこぼした声は、いつもより少し低かった。


 マモリは、その言葉を否定しなかった。

「だからこそ、誰かが隣にいなければならない」

 今は不在の息子たちを思いながら、視線は眠る闇巫女と、語る禁書へと向けられていた。


「俺たちも行くか。ミラソムの劇場へ」

「そうね。協会にも行って……驚かしちゃいましょう」

「嬉しいホン! ありがとうだホンホン!」


 ホンホンはぱたぱたとページを震わせ、はしゃぐように宙を一回転した。


 屋根の下。カゲミのもとに味方が増え、新たな流れが動き始めていた。






 そのころ――

 村の水源、久潤の泉のほとり。


 水面は不思議なほど静まり返り、そこに映る空は澄みきっていた。

 泉萬介(いずみ よろずのすけ)――人々からは敬意を込めて「亀様」と呼ばれる存在と向き合い、セリアンとミラはすでに言葉を交わし終えていた。


 ホンホンから託された伝言は、いったんメリフル村に届けられ、村外れで合流したツバネとも、すでに共有されている。



 そして今。旅立ちを前に、村を見渡せる丘の上。

 村人たちが円を描くように集まり、誰もが固唾をのんで、二人を見つめていた。


 セリアンは一歩前に出て、リュートを構える。深く息を吸い、静かに――弦を鳴らした。


 ――ひと音。


 それだけで、ざわついていた空気が、嘘のように鎮まった。言葉はない。だが音は、水脈のように村全体へと行き渡っていく。


 続いて、ミラが微笑んだ。

 その笑顔のまま、彼女は歌い出した。明るく、軽く、それでいて芯のある旋律。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ! 流れは止まってないよ!」

 歌声は風に乗り、丘を越え、村へと降りていく。


 子どもが顔を上げて笑い、大人はふっと肩の力を抜いた。

 胸の奥に溜まっていた不安が、音に洗われるように、少しずつ沈んでいく。


 協奏が終わると、しばしの静寂。 やがて、セリアンが振り返った。



「それじゃあ、僕たちもセオトを助けに行きます」

 穏やかだが、迷いのない声だった。

「各地の異変も……気になりますしね」


 ツバネが頷く。

「頼むぞ。拙はここを守る」


 そこへ、ミラが笑顔で伝える。

「実は……」

 彼女の手のひらで、小さな影がもぞりと動く。

「子亀さまたちが、同行してくれることになった。……ツバネのそばにもいてくれるそうだよ」

「えっ――」

 次の瞬間。


「きゃあああ! かわいい亀ちゃん!」

 甲高い声を上げたのは、ツバネの胸元にいたリウラだった。目をきらきら輝かせ、小さな手を伸ばす。

「ちっ……かわいいな」

 ツバネのつぶやきが、すべての答えだった。


 ミラはその様子を見て、くすっと笑う。

「ふふ、守ってくれそうだね」


 セリアンは泉のほうへ一礼する。

「ありがとうございます。では行ってきます」


 久潤の泉は、何も語らない。ただ、水面がやさしく揺れ、光を返した。


 こうして、また一つ流れが生まれる。

 それぞれの場所で、それぞれの想いを乗せながら――物語は、前へ進んでいった。










「あれ?」

 夕陽に染まるミラソムの丘で、遊び疲れた子どもが足を止めた。


「……ここにも、亀?」


 草の影から、ちょこんと顔を出した小さな甲羅。

 ゆっくり、のそのそ。逃げるでもなく、威張るでもなく、ただそこにいる。


「ちっちゃ!」

「かわいいね!」


 次の瞬間、子どもたちは一斉に声を上げた。

 きゃいきゃいと笑いながら、夕焼けの中を駆け回る。


「またねー!」

「バイバーイ!」


 誰かが手を振り、誰かが振り返り、

 やがて足音は坂の向こうへ消えていった。


 丘に残ったのは、沈みかけの夕陽と、静かな風。

 そして、草むらの中で並ぶ、小さな甲羅たち。


 子亀さまたちは、互いに顔を見合わせるように、

 ――ぽてん、と首を引っ込めた。


 何も語らず、何も誇らず。

 けれど確かに、今日もひとつ、流れを見届けている。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ