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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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129/150

129 宣戦布告しちゃった!?僕は――僕だ!?






 メリフル村は、平穏だった。


 ――少なくとも、表向きは。


 朝の空気は澄み、畑は手入れが行き届き、家々の煙突からは細い煙が立ちのぼっている。泣き声も、怒号も、争いの気配もない。


 けれど、村に足を踏み入れた瞬間、胸の奥がひどくざわついた。


「……やっぱり変だな」

 思わず、呟いていた。通りを歩く村人たちは、確かに動いている。洗濯物を干し、畑を耕し、荷車を押している。生活は、完璧に回っている。


 ――回りすぎるほどに。


 誰一人として、こちらを気に留めない。


 視線は合う。合うのに――反応がない。

「おはよう」

 村長のツバネが声をかける。返事は、なかった。


 しばらくして、一人の男の口が、ぎこちなく動いた。

「……作業を……続けなければ……」

 感情の抜け落ちた声。“話している”というより、決められた言葉を再生しているようだった。


「村人たちが……操られてるのか?」

 タリクが、声を潜める。


「それは違うな」

 ミラが、即座に首を振った。

「これは“命令”じゃない。“確定”だよ」

 ――確定。その言葉に、背筋が冷えた。


 魔法でも、呪いでもない。“こうあるべきだ”と、誰かが決めてしまった結果。村を覆っているのは、その結論そのものだった。


 村の中心に近づいた、そのとき。


 空気が、きしんだ。


 風が止み、音が消える。まるで村全体が、同時に息を止めたかのように。


 そして――村人たちが、一斉にこちらを向いた。

 その動きは揃いすぎていて、ぞっとするほどだった。


 一人の老人が、前へと進み出た。


記録師(ノートリア)さま」

 低く、平坦な声。

「この村は、平穏だ。このままでいい。書き換える必要は、ない」


 胸の奥で、嫌な予感が、はっきりと形を持つ。


「……誰の記録だ?」

 ミラが問う。


 老人は、わずかに首を傾げた。

「書かれなかった、ほうの記録……守られた選択」


 その瞬間、すべてが繋がった。


 ――“書かなかった”結果が、ここにある。


 誰かが争いを避けるために。悲しみを残さないために。書かず、選ばせず、決めてしまった。

 その“優しさ”が、村を縛っている。


「……ホンホン。気がついたね?」

 声をかけると、禁書は小さく震えた。

「……裏記録師の痕跡だホン」

 それだけで、十分だった。


 やはりこれは、裏記録師の痕跡だ。だが――完成形じゃない。途中で止められた、“なりかけ”の村。


「このままなら、村は壊れない」

 老人が、静かに告げる。

「悲しみも、後悔も、生まれない」


「代わりに、選ぶ未来も、生きる実感も、消えるけどね」

 ミラが、落ち着いた声で続けた。



 村人たちは、何も言わない。――言えない。


 僕は、一歩、前に出た。

「……悲しいな。あんなに元気な村だったのに……」

 喉が、ひりつく。


「それでも、この村は“生きてる”って言えるのか?」


 老人の目が、初めて揺れた。

 その揺らぎを見て、確信する。この“記録”は、絶対じゃない。


「僕は、書かない」

 一拍置いて、言葉を重ねる。

「決めもしない」


 前を見据え、はっきりと言った。

「この村を愛してる人たちに――委ねるよ!」


 空気が、割れた。ざわ、と音が走る。村人たちの動きが、ばらつく。誰かが立ち止まり、誰かが膝をつく。


「……あれ?」

「……なんで、ここに……?」


 声が戻ってくる。迷いと混乱と、不安と一緒に。

 老人の姿が、ゆっくりと崩れた。そこに残ったのは、誰かの“残した意志”だけだった。



「元の村に……戻った……!?」

「あの老人は……!?生きてなかった、のか?」

「幻には見えなかったけどね……まあ、これでいい」

 ミラが、小さく息を吐く。


 村は、再び“生き始めた”。


 泣く者もいる。

 怒る者もいる。

 混乱も、後悔も、これから生まれるだろう。


 それでも、メリフル村は自分たちが選ぶ場所に戻った。僕たちは、間に合ったんだ。

 仲間たちに向き直る。


「聞いてほしい。……エルフの森で、わかったことがある」

 自然と、視線が集まった。

「この現象に、裏記録師が関わっている」

 きっぱりと言う。

「これは、確信だ」


 だからこそ――言う。

「僕たちは戦うべきかもしれない。裏記録師とも、記録師協会とも」

「……っ、セオト!」


「でも僕たちは、ノートリアだ。だからノートリアにしかできない革命を起こそうよ!」


 拳を、軽く握る。


「オルグみたいに権力を振りかざさないし、裏記録師のように、誰かを粛清もしない」


 そして、僕はやっぱりこう言うんだ。


「きれい事に聞こえるかもしれないけど。僕は――僕だから!」



 不意に、くすりと笑う気配がした。


「フフッ。そこの影が聞いてるよ、セオト。宣戦布告して良かったのかい?」

 楽しそうな声のルミアは顎で示すように、少し離れた建物の影を指さす。そこは、光の届かない静かな場所――けれど、何もいないとは言い切れない場所だった。


 僕は振り返らない。もう、隠す必要はなかった。

「はい。兄さんたちに、僕の気持ちを言っておきたかったから」

 僕に迷いはなかった。


 ――僕の兄、シオマと、ツバネの兄、カナエ。いずれ二人と対峙することになると思う。


(……あの時、別れてしまったカルマも)

 胸の奥で、その名を思い出す。

(無事だと、いいんだけど……)


 風が、メリフル村を吹き抜けた。


 もう、戻れない。

 でも――進む理由は、はっきりしていた。






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