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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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128 決意しちゃった!?僕の未来!?






 ――その瞬間だった。


 胸の奥で、点だったものが、静かにつながった。違和感。視線。問い。あの森が、なぜ僕を量ったのか。

 僕は、わかってしまった。

 エルフの森の“王”とは――。



「……そういうこと、か」

 思わず、声が漏れる。誰に聞かせるでもない、独り言だった。


 王座に座る存在じゃない。命令する者でも、裁く者でもない。


 森が問いを投げ、答えを待つ、その仕組みそのもの。“書かれなかった選択”を覚え続ける、意志の集積。


「王って……人じゃないんだ」

 喉の奥が、ひりつく。理解してしまったからこそ、逃げ場がなくなる。


 エルフの森の王は、――記録されなかった歴史そのものだ。


 書かれなかった言葉。消された記憶。選ばれなかった未来。

 それらすべてを抱え込み、なお、誰かに答えを強制しない存在。

 だからこそ、問いだけを投げる。


 ――お前は、何を書かない?


 背後で、葉擦れの音がした。森は、何も言わない。

 それでも僕には分かった。あの視線に、敵意はなかった。

 試練ですらない。

 ただ、同じ“記録の側”に立つ者かどうかを、確かめていただけなのだ。


 僕は、そっと息を吐く。


「……王様なんて、呼び方じゃ足りないな」


 それは、支配者じゃない。守護者でも、裁定者でもない。

 “忘れられなかったものたち”の、最後の居場所。

 だからこそ――裏記録師が、最も恐れ、最も歪んだ形で似てしまった存在でもある。


 胸の奥で、静かに覚悟が固まる。

 この先、僕はきっと、何度も同じ問いに立ち会う。


 書くか。

 書かないか。

 そのたびに――森の王は、黙ってこちらを見ている。




 しばらく、誰も口を開かなかった。

 森を抜けたあとの空気は、不思議なほど静かで、さっきまでの緊張が嘘のようだった。


 その沈黙を、ぽつりと破ったのは――ホンホンだった。


「……ホンホンの中にある歴史がね」

 小さな声だったけれど、不思議とよく通った。

「セオトの未来を、危惧してるんだホン」


 思わず、視線が集まる。ホンホンは、いつもの軽さをどこかに置いてきたみたいに、静かに続けた。


「……ホンホンね」

 一瞬、言葉を探す間があってから。


「昔は、“書かない”ほうが、いいって思ってたホン」

 それは、懐かしさよりも、後悔を含んだ声だった。

「でも……それで、誰かが泣いたホン」



裏記録師(リ・ノートリア)はね」

 ホンホンは、前を向いたまま言う。

「最初から“裏”だったわけじゃないホン」


 そして、ほんの少しだけ声を落とす。


「誰かを守ろうとして…… “書かない”を、選びすぎた結果だホン」

 風が、草を揺らした。それだけの音が、やけに大きく聞こえる。

 守ろうとしたこと。書かなかったこと。

 その積み重ねが、いつの間にか“裏”と呼ばれる場所へ辿り着いてしまった――。


 胸の奥に、冷たいものが落ちた。

 それが過去の話なのか、それとも未来の警告なのか。

 まだ、誰にも断言できない。


 ただひとつだけ、確かなことがある。


 この旅は、選択の連続だ。そして――“書かない”という選択もまた、決して無垢ではない。



 ミラは、少しだけ肩をすくめた。


「……ま、続きは“今じゃない”って顔だね」


 それ以上、何も聞かなかった。ホンホンの過去も、裏記録師の始まりも。

 あえて踏み込まない――それが、彼女なりの線引きだった。


 僕は、口を開きかけて、やめた。


 ――もし、それが僕の未来だとしたら。


 そう続けそうになった言葉を、喉の奥で飲み込む。

 まだ、聞くべきじゃない。

 まだ、書くべきじゃない。


 その沈黙のまま、歩き出す。答えは、きっと――もう少し先にある。




 メリフル村を見渡せる丘に、風が吹き抜けた。

 けれど、皆が集まるこの場には、まだ緊張の余熱が残っていた。僕は、ひとつ息を整える。


「……エルフの森で、わかったことがあるんだ」

 自然と、全員の視線が集まった。急かされることも、遮られることもない。ただ、聞くための静けさ。


「僕の選択次第で……僕自身が、変わってしまうかもしれないってことだ」


 言葉にした途端、その重みがはっきりと胸に落ちた。だからこそ――今、ここで言うべきだと思った。メリフル村で。そばにいる皆に。


 僕は、まっすぐ前を見て続ける。

「僕は、ノートリアだ」

 一度、言い切る。揺れないように。


「前世のことも、過去のことも……思い出せて、今がある」

「だから、逃げない」


 誰かが小さく息を呑む気配がした。


「オルグみたいに傲慢にはならない」

「裏記録師にも、ならない」


 それは誓いというより、確認だった。自分自身への。


「僕は――僕だ」

 短い沈黙が落ちた。


 タリクが、腕を組んだまま口の端を上げる。

「らしいな。回りくどいけど」

 からかうようでいて、その声音はどこか安堵を含んでいた。

 セリアンが、静かにうなずいた。


 カゲミは言葉を挟まない。ただ、そっと僕の影に寄り添った。その温度だけで、十分だった。


「……覚悟を決めたんだな、セオト」

 ツバネが、迷いを残した目でこちらを見る。立場も、責任も、簡単じゃない。その揺らぎが、痛いほど分かる。

 それでも――僕は小さく、確かにうなずいた。迷いを知った上で、もう決めたのだ。


 少し離れた場所で、ミラが柔らかく息を吐く。

「……選ぶってことは、怖いよ。でもね」

 ちらりと、僕を見る。

「自分で選んだなら、戻ってこられる」


 その一言が、胸の奥に静かに沁みた。重く絡んでいた何かが、少しだけほどける。

 メリフル村の異変は、まだ終わっていない。影も、問いも、これから先でまた形を変えるだろう。


 それでも――。

 この場で言葉にできたことは、この場で言葉にできたことは、確かに残った。


 書かれなくても、消されなくても。

 それは、僕自身の中に刻まれた、ひとつの“記録”だった。






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