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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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127 見られちゃった!?エルフの森の“王”!?






「セオト。エルフの森と似てると思ったのなら――」

 ミラは歩みを止め、振り返らないまま言った。

「君にも、わかってきたんじゃない? この現象の意味が」


 まるで、答え合わせを促すような口調だった。


「え……!?」

 思わず声が漏れる。

「似てるから、って言われても……」


「ふふ、推理っていうのはね、確信より“引っかかり”から始まるものなんだよ」

 ミラは小さく笑い、ゆっくりと言葉を選ぶ。

「森が形を変えたのも、視線を感じたのも、問いを投げかけられたのも――全部、“通すかどうか”を量られてた」


 胸の奥で、何かが静かに音を立てた。

「……じゃあ、これも?」


 ミラはきっぱりとうなずく。

「そう。ここでも君が試されてるんだよ。記録師として――いや、セオト自身としてね」



 そう言って、ふっと足を止める。

「そうだよな」

 その一言とともに、ミラはゆっくりと後ろを振り返った。

 そこには、さっきまで“何もない”はずだった空間がある。けれど僕にはわかった。


 ――見られている。


 森のときと同じだ。直接姿を現さなくても、問いだけは、確かにそこにある。

 答えるのは、もう逃げられない。




 ――エルフの森での出来事が、脳裏によみがえる。


 あのときも、エルフは何も語らず、ただこちらを見ていた。見張っている、というより――“役目を果たしている”ような視線。ふと、胸の奥に小さな棘のような違和感が引っかかる。


 ――どこにいるかわからないが、確実に見られている。


 気配は濃いのに、敵意はない。むしろ静かすぎるほどで、森の呼吸に溶け込んでいる。


 ……初めて、来たはずだ。

 そう、頭では理解している。けれど――。


「……変だな」

 思わず、独り言が漏れた。


「どうした?」

 タリクが小声で訊ねてくる。


「いや……この森……」

 視線を逸らさないまま、言葉を選ぶ。

「初めて来たはずなのに、そう思えない」


 カゲミが、わずかに眉を動かした。

「記憶のズレか? それとも……」


 いずれにせよ、ひとつだけ確かなことがある。この森で起きている違和感は、自然だけのものじゃない。

 記録には残らない形で、誰かの意図が――確かに、ここに触れている。



 張りつめた沈黙を、ふっと切ったのはミラだった。

「ねえ」

 穏やかな声色で、けれど一切の冗談を含まない目で、門番のエルフを見据える。


「君は――誰なんだい?」


 エルフはすぐには答えなかった。風が枝を揺らし、葉擦れの音が、間に流れ込む。


 その沈黙こそが、答えの一部だった。


 ――森が、変わりはじめた。


 ざわ、と音を立てて揺れたのは一本の木ではない。連なり、重なり、呼応するように、周囲の木々が同時に軋んだ。枝の角度が、わずかにずれる。葉の重なりが、意図をもってほどけていく。さっきまで遮っていた視界が、ゆっくりと開かれた。


「……これは」

 誰もが、息を呑む。


 道だ。 いや――配置の変更。森そのものが、構造を書き換えている。


 木々は排除するでもなく、押し退けるでもない。ただ“必要な分だけ”場所を譲り、余計な影を引き取っていく。その動きに、敵意はない。だが、明確な意志があった。


 ――問いは、受け取られた。


 エルフは動かない。だが、その背後で、森が先に答えている。

 ここにいる彼は、単なる門番ではない。誰かの操り人形でもない。


 森が、彼を今もなお「自分の一部」として扱っている。それだけで、十分だった。

 風が、一本の幹を撫でるように抜けた。


 ――通れ、とも。

 ――入るな、とも言わない。


 ただ、選べと。 その先に進む覚悟があるのかを、森は静かに示していた。


 森が静まり返る。


 軋んでいた枝の音が収まり、葉擦れも、風の気配も、嘘のように遠のいた。まるで、世界が一度、息を止めたかのように。

 その沈黙の中で、ようやく――声が落ちた。



「エルフの血を引くものが、記録師とはな」


 低く、抑えた声。嘲りではない。驚きと、ほんのわずかな感心が混じっている。

 エルフは、こちらを見たまま、目を細めた。


「王も……粋なことをする」


 その言葉に、胸の奥がわずかにざわつく。

 知っている。血のことも、立場のことも。――それを、森ではなく“個として”認識している。


 操られているだけの存在なら、こんな言い方はしない。


 ミラが、半歩だけ前に出た。軽い口調のまま、だが視線は逸らさない。


「……へえ。あなたたちの王は、ずいぶん通だね」


 エルフは答えない。代わりに、森の奥で、一本の木が静かに軋んだ。


 ――まだ、終わっていない。この出会いは、確認だ。

 誰が、何を知っていて。誰が、どこまで関わっているのか。


 そして――誰が、書いてはいけない領域に、足を踏み入れたのか。


「……なるほどね」

 短く、独り言のように呟く。それだけで十分だったらしい。


 ――けれど。

 僕だけが、取り残されていた。

「……ミラさん、どういうこと!?」


 思わず声が出る。

 王? 血? 記録師?

 どれも言葉としては知っているのに、いま目の前で起きていることと、うまく繋がらない。


 ミラは、ちらりと僕を見る。すぐには答えない。その一拍が、余計に不安を煽った。

「今は、全部は言えないよ」

 そう前置きしてから、視線を森へ戻す。


「でもね――」

 声を落とし、静かに続けた。

「君は“偶然ここにいる記録師”じゃないってことだけは、向こうにバレてる」


 胸の奥が、ひやりと冷える。

「……それって」

「うん」

 ミラは、あっさり頷いた。


「この森は、君を“試す場所”として見てる」


 エルフの視線が、僕と交差した。深く。重く。

 理解できていないはずなのに、逃げ場がないことだけは、はっきりと分かった。


 エルフは、ミラの言葉に小さく口角を上げた。それは笑みというより、「理解者を見つけた」者の表情だった。


「察しがいいな、さすがエルフの吟遊詩人よ」


 森の奥から、低く澄んだ声が響く。木々がざわめくたび、その声は幾重にも反響し、どこから発せられているのか分からなくなる。



「……だから、何の話なんですか」

 喉が乾いているのが、自分でも分かった。

「僕は、ただ行方不明の冒険者を探しに来ただけで――」


「それが“ただ”だと思えるうちは、まだ浅い」

 言葉を遮るように、エルフは告げた。


「この森はな、記録を嫌う。 だが同時に、“記録されなかった選択”を、最も重んじる」


 枝が軋み、地面の影がゆっくりと動く。木々が、位置を変えていた。道だったはずの場所が閉ざされ、逆に、何もなかったはずの場所に、細い獣道が浮かび上がる。


 ――森が、形を変えている。


「お前たちがここに来た理由は、すでに知っている。行方不明の冒険者。傷を負い、歩けぬ者だ」


 胸が、強く脈打った。

「……生きているのか?」


 問いかけに、エルフはすぐには答えない。代わりに、僕を見つめたまま、こう言った。


「問おう。ノートリアの同胞よ。 お前は――」


 森が、静まり返る。風も、鳥の声も消え、世界に残っているのは、その声だけだった。


「その者の“すべて”を、書くか?」


 息を呑む。


「恐怖も、弱さも、迷いも、後悔も」

「生き延びた理由も、死にかけた理由も」

「それらを“正しい記録”として残すか?」


 これは、選択だ。

 あのときと同じ――いや、それ以上に重い。


 僕は、無意識に拳を握りしめていた。


「……書きません」


 声は、震えていなかった。


「その人が、自分で語ることまで、僕が奪うつもりはない」

「生き延びたことだけで、十分です」


 エルフの瞳が、わずかに細まる。


「理由は?」


「理由を書くと、それは“罰”になる」

 言葉は、自然と続いた。

「記録が、誰かを裁くためのものになるなら……それは、違う」


 長い沈黙。


 そして――。


 森が、深く息を吐いたような音を立てた。

 枝が割れ、影が退き、一本の道が、確かに開かれる。先ほどまで存在しなかったはずの、小さな谷間へと続く道だ。


「……通れ」

 エルフは、初めて一歩だけ後ろへ退いた。


「その選択、覚えておけ」

「いずれ――森よりも厄介な場所で、同じ問いを突きつけられる」


 ミラが、ふっと息を吐く。

「合格、ってやつだね」


 エルフは答えない。ただ、森の一部へと溶けるように消えていった。


 僕たちは、開かれた道を進んだ。やがて、谷の奥。倒木の陰で――見つけた。



「……誰か……いるのか……?」

 かすれた声。血の跡。破れた装備。


「いた……!」

 生きている。確かに。

 駆け寄ろうとした、その瞬間。


「焦るな」

 ミラが、静かに言った。

「この森はもう、邪魔しない。けど――」

 視線を、僕に向ける。


「ここから先は、“森じゃなくて人の世界”の話だ」

 僕は、うなずいた。


 ――書かなかった選択は、確かに命をつないだ。けれど同時に、それは次の問いを、確実に呼び寄せている。

 森を抜けるとき、背後で木々が、元の位置へ戻る音がした。


 まるで何事もなかったかのように。だが、胸に残った感覚だけは、消えなかった。


 記録師であることは、選ばれることではない。選び続けることなのだと――




「も、もしかしてエルフの森の王って!」






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