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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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126 似てる気がしちゃった!?エルフの森の“縁”に!?






 新年あけましておめでとうございます。

 2026年も、一緒におにポチャを楽しんでいただけると嬉しいです。


 本年も皆様にとって すばらしい一年でありますように。











「この現象って……何か、思いださない?」

 ふいに口をついて出た言葉だった。


 皆の視線が、こちらに集まる。責めるでもなく、促すでもない。ただ「続けろ」と言わんばかりの沈黙。

「直近で行った場所と、似てる気がするんだ」

 胸の奥に引っかかっていた感覚が、ゆっくりと形を持ちはじめる。


 記録が噛み合わない。覚えているはずの出来事が抜け落ち、覚えていない行動だけが残る。人々は口を閉ざし、思い出そうとすると、理由もなく怯える。


「……エルフの森の“(ふち)”だ」

 自分で言って、背筋がひやりとした。


「森に入れないようにするための、あの歪み」

「方向が狂って、感覚が遮断されて……」


 タリクが、はっとした顔で頷く。

「確かに。あれも“敵がいるわけじゃないのに、進めなかった”な」


「でも、今回は森じゃない」

 セリアンが静かに言った。

「村そのものが、そうなってる」


 ツバネは腕を組んだまま、低く唸った。

「外から遮断する“縁”じゃない。内側から――記録ごと歪めてる」


 嫌な沈黙が落ちた。


「……つまり」

 言葉を選びながら、続ける。

「誰かが、この村を“触れてはいけない場所”にしようとしてる」


 罰のためか。隠すためか。あるいは――守るつもりで。


 そのどれもが、裏記録師ならやりかねない。正義と悪の境界を、“記録”の名で塗り替える存在。


 ホンホンが、小さく震えた。

「……ページが、同じ音を立ててるホン。エルフの森と……似た、ざわざわだホン」


 確信が、胸に落ちる。これは偶然じゃない。かつて触れた“歪み”が、形を変えて、ここに現れている。


「……行こう」

 ツバネが言った。短く、だが迷いはない。

「記録を、取り戻す。奪われたままには、させない」


 果樹の影が、風に揺れる。まるで――こちらの覚悟を、試すかのように。メリフル村の異変は、確実に“核心”へと近づいていた。




「あの時……」

 僕は、ゆっくりと言葉を探した。


「エルフの森に踏み入れた、あのとき――」

 視線が、自然と足元へ落ちる。土の感触。湿った空気。鼻の奥に残る、青い匂い。


「あそこでは、まず“方向”がおかしくなった」

 地図も、コンパスも、役に立たなかった。

「歩いているのに、進んでる実感がなくて……同じ場所をぐるぐる回ってる気がした」


「音もだったな」

 タリクが思い出すように言う。

「声が遠くなって、返事が遅れて……最後は、吸い込まれるみたいに消えた」


「魔力も、安定しなかった」

 カゲミが静かに続ける。

「結界を張ろうとしても、手応えが薄かった。森に“拒まれてる”感じ」


 僕はうなずいた。

「うん。でも、一番おかしかったのは――」


 胸の奥に残る、あの感覚。言葉にしづらい、けれど確かだった違和感。


「“思い出そうとすると、止められる”感じがあった」

 思考が、ふっと霧に包まれる。深く考えようとすると、怖さが先に立つ。


「……そうだった」

 セリアンが、眉をひそめる。

「無理に考えようとすると、理由もなく不安になった」


「森が、そうさせてたんだ」

 ツバネが低く言った。

「踏み込む資格があるかどうか、確かめるために」


 僕は、そこで一度、息を吸う。


「でも――」

 視線を上げる。


「僕が“この森、知ってる”って言った瞬間、道が開いた」

 あれは、偶然じゃない。書かなくても、記さなくても、体が覚えていた感覚。


「エルフの血に反応したんだ」

 カゲミが小さく頷く。

「森は、血と記憶を読んだ」


 沈黙が落ちる。皆、それぞれに、あの時の感覚を思い返している。


「……つまり」

 僕は、結論を口にした。


「エルフの森は、記録を消したんじゃない」

「“思い出せないように”して、必要な者だけを通した」


 その言葉が、メリフル村の異変と、静かに重なった。


 同じだ。

 やり方も、感触も。


 違うのは――そこに、森の意思がないこと。


「誰かが、人の記憶と記録を使って、同じことをやってる」


 その事実が、背中に冷たい汗を伝わせた。




 ――エルフの住まう森のふちにて。


 僕が『ノートリアとして迷っている』と口にした瞬間、枝葉の重なりが、ざわりと揺れた。風ではない。意志をもった動きだ。


 絡み合っていた影がほどけ、ようやく一人のエルフが姿を現す。長い耳。淡い光を宿す瞳。年齢の測れない、静かな顔立ち。そこに立っているだけで、森そのものが人の形を取ったように見えた。


「森は、答えを与えぬ」

 低く、澄んだ声が響く。

「だが――問いを、映す」


 エルフは一歩も動かず、ただまっすぐに僕を見つめていた。逃げ道を塞ぐでも、拒むでもない。“見定める”ためだけの視線。


「ノートリアの同胞よ」

 その呼び名に、胸がわずかに波打つ。

「お前は、“何を書かない”つもりだ?」


 刃のように鋭い問いだった。

 同時に――懐かしい。


 そうだ。エルフの門番に、あのとき問われたのも、同じだった。


 ――何を書くかではない。

 ――何を、書かずにいられるか。


 僕は、無意識に拳を握っていた。森はまだ、答えを求めている。通すか、拒むか。その天秤は、僕の言葉ひとつにかかっている。


 ――あの時、僕は何て言った?

 脳裏に浮かぶのは、エルフの森で感じた、あの圧。思い出そうとすると、怖さが先に立つ感覚。

 けれど、それでも――口にした言葉があった。


 僕は、息を吸い、ゆっくりと吐く。


「……僕は」

 一語ずつ、確かめるように言う。


「人が、自分で歩ける場所までは、書かない。迷って、悩んで、間違える権利まで――記録で奪うつもりはない」


 エルフの瞳が、ほんのわずかに揺れた。


「記録は、道標であって檻じゃない。罰でも、裁きでもない」

 声が、静かに続く。


 沈黙。森が、息をひそめる。


「……だから」

 僕は、最後にこう付け加えた。

「“書かない”という選択も、記録師の責任だと思ってる」


 長い沈黙のあと、エルフは初めて、目を細めた。それは笑みとも、合格とも言えない、けれど――拒絶ではなかった。


「答えではないな」

 彼は静かに言う。

「だが……問いから、逃げてはいない」


 枝の影が、音もなく左右に割れる。道が、わずかに開いた。森はまだ、完全には許していない。

 だが――量り終えたのだ。


 その先、深い緑の奥で、僕たちは見つけた。行方不明になっていた冒険者を。傷を負い、動けなくなりながらも、生き延びていたその人を。


「……助かった」

 かすれた声が、確かにそう言った。


 森は何も語らない。けれど僕は、あのとき確信した。


 ――書かなかった選択が、ここでは、命をつないだのだと。


 そうして僕たちは、彼を連れて森を抜け、無事に帰還した。あの問いと沈黙を、胸に刻んだまま。




 しばしの沈黙のあと、ミラが肩をすくめて言った。


「ふうん。村人を操る?人の心を弄ぶのはね……一番やっちゃいけない手だよ」

 その軽い口調とは裏腹に、空気がきっぱりと切り替わるのを感じた。

 ――ここから先は、もう“思い出す”だけの話じゃない。


 メリフル村の異変は、次の段階へ進んだのだ。






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