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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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125/144

125 駆けつけちゃった!?異変のメリフル村!?






 メリフル村の手前、街道がゆるやかに開ける場所で、見慣れた二つの影が待っていた。


「おーい!」

 先に手を振ったのはタリクだった。その隣で、腕を組んだゲルが小さくうなずく。


「合流できたな」

「緊急事態なんだろ?」

 タリクは表情を引き締めつつ、すぐ横へ視線を向けた。

「だから、ルミアさんにも来てもらった」


「やあ。きな臭いらしいね」

 軽く手を上げたルミアは、相変わらず飄々としている。だが、その目は冗談を許さない鋭さを帯びていた。村の方角を一瞥し、肩をすくめる。


「俺も前から、メリフル村には一度来てみたかったしさ。……それに」

 一拍置いて、低く続けた。

「見過ごせない匂いがする」


 その言葉に、場の空気がわずかに張りつめる。軽口に聞こえても、ルミアは“勘”だけで動く人間じゃない。

「ありがとうございます、ルミア。心強いです」

 気づけば、自然と頭を下げていた。


「そう言われると、張り切っちゃうな」

 ルミアは苦笑し、僕たち一人ひとりを見回す。

「記録師に影巫女に現役の影狩り……ずいぶん濃い面子だ。これで何も起きなかったら、それはそれで奇跡だよ」


「笑えないな、それ」

 タリクが肩をすくめる。それでも、そのやり取りに、張りつめていた緊張がほんの少しだけ緩んだのも事実だった。


 村は、すぐそこだ。

 朝の光に包まれたメリフル村は、一見すればいつも通りに見える。けれど、その“いつも通り”の下で、影が動いていることを、ここにいる全員が感じ取っていた。


「……行こう」

 誰からともなく、そう言った。

 足並みは自然と揃う。緊急事態だ。それでも――独りじゃない。


 そう思えた瞬間、メリフル村への道は、ほんの少しだけ心強いものに変わっていた。




「ホンホン。大丈夫?」

 歩調を緩め、僕はそっと声をかけた。

「何か異変を感じたら、すぐ教えてね」


 さっきまで軽やかに響いていた鼻歌は、いつの間にか消えている。肩のあたりで揺れていた禁書は、今は息を潜めるように静かだった。


「……ホン」

 少し間を置いて、ホンホンが小さく返事をする。

「メリフル村、前に来たときより……空気が重たいホーン」

 冗談めいた語尾も、どこか控えめだ。紙の擦れるような微かな音が、風に混じって耳に届く。


「まだ、はっきりは分からないホン」

 ホンホンは慎重に言葉を選ぶように続ける。

「でもね、ページの奥がざわざわしてる。嫌な予感ってやつホーン」


 僕はうなずき、周囲を見渡した。道端の草はただ風に揺れているだけなのに、その動きが妙に遅く感じられる。


「分かった。無理はしなくていい」

 そう告げると、ホンホンは小さく身を揺らした。


「何かあったら、すぐ言うホン」

 その声は小さい。けれど、確かだった。


 静かになった禁書を胸に、僕たちは改めて村へと足を向ける。目には見えない“異変”が、すぐそこまで迫っている――そんな気がしてならなかった。




 メリフル村の外れ、古い果樹が並ぶ小道で、ツバネは腕を組んで待っていた。夜明け前の薄青い空気の中、その立ち姿だけがやけにくっきりと浮かんでいる。


「来てくれて助かった」

 顔を上げたツバネの表情は、いつもより硬い。村長としてではなく、影狩りとしての顔だった。


「状況を教えて。僕にできることだったら、力になるから!」

 そう言うと、ツバネは一瞬だけフッと笑い、息を整えてから口を開く。


「……すでに影に見張られてるんだ。村全体がな」

「影に!?」

「ここは、簡易的だが結界を張ってある」


 思わず周囲を見回す。果樹の影は静かに地面に落ちているだけなのに、どこか“重い”。


「カゲミ、わかる?」

「……ああ。村に入ったとき、確かに変だった。空気が沈んでる」

 闇巫女のカゲミは目を伏せ、指先で印を結ぶ。


「オレも結界を張る。二重にしよう」

 低い呟きとともに、闇の膜が重なり合い、気配がわずかに和らいだ。


「助かる」

 ツバネは短くうなずく。

「感謝する、カゲミ」


 そして、声を落として続けた。

「村で、小さな“記録の歪み”が続いてる」

「記録の……歪み?」

「ああ。人の証言と、残ってる記録が噛み合わない」


 ツバネは足元の小枝を蹴る。乾いた音が、不安を煽る。

「昨日まで確かにあった出来事が、帳面から丸ごと消えてる。逆に、誰も覚えてないはずの行動が、記録だけ残ってたりな」


 嫌な予感が、背中をゆっくりと這い上がった。


「それって……裏記録師の仕業?」

 そう問うと、ツバネは即答せず、視線を果樹の影へと逸らす。


「断定はできない。でも――」

 拳を握りしめ、言葉を絞り出す。

「“罰”を受けたみたいに、村人が次々と黙り込んでる」


「黙り込む……?」

「聞こうとすると、思い出せなくなる。怖い、触れたくない……そんな顔をするんだ」


 沈黙が落ちた。風に揺れる果樹の葉擦れの音だけが、やけに大きく耳に残る。


「だから、呼んだ」

 ツバネはまっすぐこちらを見据える。

「一人で抱えるには、もう限界だと思ってな」

 その目に宿っているのは、迷いではなく責任だった。胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


「……ありがとう、話してくれて」

 そう言うと、ツバネは小さく鼻で笑った。

「遅すぎたかもしれないけどな」


 それでも――。

 この村で起きている出来事が、ただの偶然ではないことだけは、はっきりと伝わってきた。


「裏記録師の仕事だとすると……」

「ああ」

 ツバネは低く答える。

「兄者か、カルマだな」


 果樹の影が、わずかに揺れた――そんな気がした。











 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


 物語の中では、クライマックスに向かって、影が動き、記録が揺れ、水がざわめく

 ――そんな不穏な気配が続いていますが、現実のこちら側では、今日は大晦日。


 一年の終わりに、この世界を一緒に旅してくださったことを、とても感謝しています。


 来年もまた、この世界で。


 瀬音とカゲミ、そして仲間たちの歩みを、一緒に見届けていただけたら嬉しいです。


 みなさま、どうぞ良いお年をお迎えください。


 そして――来年も、おにポチャをよろしくお願いします。






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