124 元気でちゃった!?エマージェンシーのおかげ!?
「泉萬介くんから――エマージェンシー・テレパシーだホンホン!!」
その叫び声に、部屋の空気が一気に跳ねた。声の主は、ここ最近やけに物静かだった禁書ホンホンだ。机の上でぴょこんと跳ね、紙束を揺らしながら騒いでいる。
「……え、どうしたの!?」
思わず声を上げると、ホンホンは目をきらきらさせてうなずいた。
「泉萬介くん――ホンホンの友人の亀様からだホン!」
胸を張るように言う。
「緊急連絡ホン!ツバネとリウラから、“大至急メリフル村に来てほしい”って伝えてほしいって言われたんだホン!」
「大至急……?」
その一言で、場の空気がわずかに引き締まった。
「おお、メリフル村か!前から一度、行ってみたかったんだよなぁ」
真っ先に反応したのはミラだった。
「遊びに行くんじゃないですよ」
即座に、ぴしっとした声が飛ぶ。セリアンだ。苦笑しながらも、どこか本気の目をしている。
「ホンホンもね、正直言うと――」
禁書ホンホンは、くるりと一回転してから続けた。
「ここ、ミラソムの空気が閉塞感ありすぎて、草生えそうだったホン!だから、外に出るのは楽しみだホン!」
「だからね……」
思わず、ため息混じりに口を挟む。
この面子が集まると、どうしても話が軽くなる。だが、今回の呼び出しは――そんな空気で片づけていいものじゃない。
「……でも」
ふいに、セリアンが静かに言った。
「私は……みんなで楽しく歌える場所がいいな」
一瞬、言葉を探すように視線を落とし、
「一方的に騒がれるのは……もう、いいや」
その声音は、穏やかで、けれどどこか疲れていた。
――セリアン。そうだよね。あれは……大変だった。
「……行こう」
ミラが、いつになく落ち着いた声で言う。
「ツバネが“大至急”って言うなら、理由は一つじゃないだろ」
「ホン!」
禁書ホンホンが勢いよくうなずく。
「これはもう、冒険の予感しかしないホン!」
不穏さを胸の奥に抱えたまま、けれどそれぞれ違う想いを抱いて、僕たちはメリフル村へ向かうことになった。
ミラソムを出発してしばらくすると、驚くほど分かりやすく変化が現れた。
本当に――禁書ホンホンが、元気になったのだ。
「ふんふんふ〜んホン♪」
鼻歌が止まらない。歩いている間も、荷の上でも、ちょっとした休憩の合間でも、とにかくずっとご機嫌で歌っている。さっきまでの物静かさが嘘みたいだ。
「……ここまで違うと、逆に分かりやすいな」
思わず苦笑する。
「多分ね」
闇巫女カゲミが、ぽつりと言った。
「闇の力の影響だったんじゃないか?禁書が“喋りにくくなる空気”って、確かにあるんだよ」
「やっぱりか……」
僕も思い当たる節は、ありすぎるほどあった。
あんなに楽しそうに、好き勝手しゃべり倒していたホンホンが、あの場所では妙に静かだった。無理に黙っていたわけじゃない。ただ、声を出すこと自体が重そうだった。
「ふんふ〜ん、ふふふ〜ホン♪」
その当人は、そんなこともう忘れたかのように、しっぽフリフリのように、本の角を揺らしながら歌っている。
その様子を見ていると、自然とこちらの頬も緩んだ。元気なホンホンがいる。それだけで、旅の空気は明るくなる。
「なあ、ホンホン」
声をかけると、ぴたりと鼻歌が止まる。
「なにホン?」
「メリフル村の事件が解決したらさ」
少し先の話を、あえて口にする。
「亀様――萬介くんに、会いに行こうな」
一瞬の間。そして次の瞬間。
「わーい!! 萬介くんに会えるの、すっごく楽しみだホーン!!」
ホンホンが跳ねた。ぱたぱたと本が揺れ、その弾んだ声につられて、皆が思わず笑顔になる。
――まだ、事件は終わっていない。影は確かに動いているし、メリフル村には不穏な気配が残ったままだ。それでも、この一瞬だけは。
「タリクとゲルはね、水龍さまが連絡してくれたから、メリフル村で合流だホーン!」
ホンホンは胸を張るように言った。
「水龍さままで協力してくれたのか!?」
思わず声が弾んだ。
「すごいな……それなら、水龍さまにも会いに行こう!」
危機の只中にいるはずなのに、不思議と胸の奥が軽くなる。
「もちろんだホンホーン!」
禁書ホンホンの返事は、やけに頼もしく、力強かった。さっきまでの沈んだ気配が嘘みたいだ。ページを震わせる声には、迷いも、曇りもない。
――ミラソムから出てみて、正解だったな。
そう思う。場所が変わるだけで、空気はこんなにも違う。言葉は軽くなり、笑顔は自然にこぼれる。闇に満ちた場所では、気づかないうちに心まで縮こまっていたのかもしれない。
こうして笑える未来を、何の無理もなく思い描けること。それ自体が、きっと大切な“証”なのだ。
闇があるからこそ、光を信じられる。影が動くからこそ、進む意味が生まれる。
危険は、まだ終わっていない。
メリフル村には不穏な気配が残り、裏で何かが蠢いている。それでも――。
この旅は、きっと“闇”だけで終わらない。
そんな確信を胸に、ミラソムを後にした道を、僕たちは一歩ずつ、確かに進んでいった。
笑い声と、希望と、まだ見ぬ答えを連れて。
読んでくださってありがとうございます。師走がじわじわ……。
明日もおにポチャでお会いしましょう。




