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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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122/144

122 覚悟きめちゃった!?ツバネの見極め!?






 (ツバネ視点)


 メリフル村へ定期で戻る日がやってきた。瀬音とは別行動で、途中までタリクとゲルと一緒だ。

「……先に行ってくれ。寄るところがある」

 道の途中、拙は少しだけ進路を変えた。

 理由は多く語らなかった。言えば止められる気がしたし、止められる筋合いでもない。



 向かう先は、旧記録師協会の跡地。

 今では完全に廃墟化し、冒険者の間では「廃墟ダンジョン」として扱われている土地だ。その地下――水底図書館の中庭のさらに奥。


 影狩り一族の墓。


 足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。湿った水の気配と、石と紙が長い年月を吸い込んだ匂い。足音がやけに深く響いた。


「……相変わらず、陰気だな」


 独り言は、静寂に吸い込まれていく。水底図書館は、今も眠っていた。沈黙した書架。水面に映る、逆さの文字。記録が記録であることをやめた場所。


 その奥、石造りの回廊を抜けると中庭に出る。墓域を守る門が、そこにあった。


「ゾル」

 名を呼ぶと、影が揺れた。


「……久しいな、ツバネ」

 門の前で、黒いローブを纏った男が姿を現す。影狩り一族の墓守――ゾルだ。

「町長様が、こんなところまで何の用だ?」


「……町長は関係ない」

 拙は一歩、墓域に踏み込む。

「影狩りとして来た」


 ゾルは、ふっと口元を歪めた。笑ったのか、嘆いたのかはわからない。

「相変わらずだな。肩書きを脱ぐのが、下手な男だ」


「……兄者のことだ」

 そう口にした瞬間、空気が一段、重くなる。


 ゾルはすぐには答えなかった。墓石に手を置き、ひとつ、息を吐く。

「生きているか、死んでいるか――それを聞きに来たか?」

「違う」

 即答だった。

「……何を選んだのか、だ」


 沈黙。

 水音が、どこか遠くで揺れた。


「カナエは、一族を捨てた」

 ゾルは、低く言った。

「だが、それは裏切りではない。あれは……逃走でも、反抗でもない」


「じゃあ、何だ」


 ゾルの片目が、わずかに細まる。

「“守るために、名を捨てた”」

 胸の奥に、鈍い痛みが走った。

「……影狩りは、守るために刃を振るう一族だ」


「そうだ」

 ゾルはうなずく。

「だが、お前の兄は言った。『刃を振るわない守り方もある』とな」


 無口で、不器用で、いつも一歩引いていた背中が、脳裏をよぎる。


「……馬鹿な人だ」

 そう言いながら、声が少しだけ震えた。

「自分が一番、刃に向いてたくせに」


 ゾルは何も言わなかった。ただ、ひとつの墓石の前に立ち止まる。


「ここに、名は刻まれていない」

 指先が、空白の石をなぞる。

「生きている証でもあり、死んでいない証でもある」

 拙は、その石の前に立った。

「……なら、探す意味はあるな」

「あるとも」

 ゾルは静かに言った。

「お前が町を守り記録を残すなら――あの男も、どこかで同じことをしているだろう」


 拙は深く息を吸い、吐いた。

「ありがとう、ゾル」


「礼を言うのは、早い」

 ゾルは、影に半身を溶かす。墓域の闇と境目が曖昧になり、どこからが影なのかわからなくなる。

「影狩りの道は、いつも“後から”重なる」

 その言葉だけを残して、ゾルは消えた。



 墓域を後にしながら、拙は振り返らなかった。過去に縛られるつもりはない。ここで立ち止まれば、影は足を絡めてくる。

 ただ――。


(兄者が選んだ道は)


 それは今も、どこかで続いている。影狩りの名を捨て、それでも“守る”ことを選んだ道。

 その選択が、今の拙の背中を、確かに支えている。


 だからこそ――信じたい。兄者の正義が光なのだと。



「……どうして、聞かないの?」

 墓域を抜け、水底図書館へ戻る回廊で、不意に声がかかる。胸元にいるリウラだった。薄暗い水の反射が、彼女の顔を照らす。


「ツバネ……」

 苦しそうに眉を寄せ、こちらを見つめている。

「ワタシが、裏記録師について知っていること……教えましょうか?」


 一瞬、足が止まる。


 彼女の立場は理解している。以前、裏記録師リ・ノートリアの偵察精霊だったリウラ。

 彼女が知っている情報は、すべて“表”には出ないものだ。そして――それを受け取るということは、代償を背負うということでもある。


「機密だろう」

 拙は、静かに言った。

「触れれば、代償を払わされる。……わかっている」


 リウラの唇が、わずかに震える。

「それでも……知りたいと思わないの? 近道になるかもしれませんわ」


 近道。確かにそうだろう。影狩りは効率を重んじる一族だ。本来なら、迷わず選ぶ。


 だが――。

「拙は、自力で見極める」

 はっきりと、言い切った。

「兄者が何を選び、何を捨てたのか。それを、誰かの“切り取った記録”で知る気はない」


 リウラは、目を伏せた。

「……ツバネは優しすぎますわ」


「違う」

 首を振る。

「これは、拙の都合だ」

 影狩りとして、町長として。そして――弟として。


「兄者を、信じるかどうか――」


「それを決めるのは、拙自身でなければならない」


 沈黙が落ちる。水音だけが、ゆっくりと時を刻んでいた。

 やがて、リウラは小さく息を吐く。


「……わかりましたわ。知りたくなったら、いつでも言いなさい」


 その声には、諦めと、ほんのわずかな安堵が混じっていた。拙は答えなかった。言葉を返せば、迷いまで伝わってしまいそうだったからだ。

 前を向く。

 影は、後から重なる。だからこそ、今は――自分の足で進むしかない。


 兄者の背中を、ただ追い続けていた過去。その背中に置き去りにされまいと、刃を握り、影に身を沈めていた日々。

 そして今。

 同じ“先”を、自分の目で見たいと願い、記録師になった現在。


(……この先にあるものを)


 胸の奥が、わずかに軋む。影狩りとして、町長として、記録師として。背負うものは、確実に増えている。


 ――これから起こるであろう、未来。

 兄者が選び、拙が歩もうとしている、その先。

(受け止めきれるだろうか……)


 答えは、まだない。だが、立ち止まる理由にもならない。


 足音を殺し、拙は歩き出す。後から重なる影ごと、引き受ける覚悟で。


 それが、今の拙にできる――唯一の選択だった。










 ここまで読んでくださってありがとうございます。


 年の瀬、ギリギリ更新中です。あと数日がんばればー。






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