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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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121/144

121 見抜かれちゃった!?エルフの森の縁(ふち)で!?






 依頼書を読み上げて、思わず聞き返した。


「……行方不明になった冒険者の捜索、ですか?」


 記録師協会にも、正式な要請が届いていた。すでに同業の冒険者たちが現地入りしているが、状況は芳しくないらしい。


 場所は――エルフの森の“ふち”。

 ミラソムから北東にある「深緑未踏域」。

 地図上では、まだ森の内部ではない。それなのに、誰一人として、そこから先へ踏み込めずにいるという。




 現地に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 木々は密集していない。視界も悪くない。なのに、どこか“奥行き”がつかめない。


「……おかしいな」

 先行していた冒険者の一人が、眉をひそめる。

「方角がわからん。コンパスが、まったく機能しないぞ」

 差し出された方位磁針は、くるくると回り続け、北を指そうともしない。


「魔力も安定しないな」

 別の者が、掌に浮かべた光を見つめる。

「術式は組めるのに、流れが定まらない。これじゃ先に進めない」


 そのときだった。


「……待て」

 誰かが小さく声を上げる。


「今、聞こえた音……」


 全員が耳を澄ます。風の音。木の葉の擦れる音。足元の砂利の音。

 ――どれも、途中で途切れている。


「……吸われた?」

「音が、森に……?」


 ざわ、と空気が揺れた。

 森は何もしていない。威圧も、敵意も、攻撃もない。

 ただ――受け入れていない。


 冒険者たちの視線が、自然とこちらに集まる。


「記録師さん。何かわかるか?」


 僕は一歩前に出て、ノートを開いた。けれど、書こうとして――ペンが止まる。

 (……書かなくても、わかる)


 森の“縁”は、境界ではない。これは、試されているのだ。

 誰が来たのか。何を持ってきたのか。そして――どう向き合うのかを。


 そのとき、隣でミラが小さく息を吐いた。

「……なるほどね。今日は、“進まない日”だ」


「え?」

 冒険者の一人が振り返る。


 ミラは、森を見上げて、いつもの調子で肩をすくめた。

「無理に入ろうとすると、余計に迷うよ。この森、そういうの……嫌うからさ」


 セリアンも、そっと喉に手を当てる。

「……歌、やめたほうがいいですね。今、音が――戻ってこない」


 その言葉に、空気が一段、静まった。冒険者たちは、気づいていない。だが確かに、森の“拒絶”は、少しだけ――緩んでいた。


 僕は、ノートを閉じる。

「……行けます」

 自分でも驚くほど、はっきりした声だった。


「ただし、条件があります。“探す”つもりで入らないこと。この森は――見られる側です」

 ざわり、と森が鳴った。それは、許可とも、警告とも取れる音だった。


 エルフの森の“縁”は、ようやくその輪郭を、僕たちに示しはじめていた。




 エルフの森か……。

 胸の奥で、その言葉が小さく反響した。父さんとミラさんは、エルフだ。そして――僕とセリアンにも、その血が流れている。


 だからだろうか。恐怖より先に、懐かしさが胸を満たしていた。僕は深く息を吸う。


 目を閉じる。耳を澄ます。鼻先で、空気の匂いを確かめる。

 湿った土。若い葉の青さ。遠くで咲く花の、甘くかすかな香り。


 音も、匂いも、魔力も――理屈より先に、身体の奥へ染み込んでくる。


「……この森」

 気づけば、言葉がこぼれていた。

「書かなくても、“知ってる”感じがする」

 自分でも、何気ない一言だった。


 その瞬間――


 森が、応えた。

 張りつめていた空気が、わずかに緩む。ざわめいていた迷いが、すっと止まる。視界が、静かに開けた。


「……道だ」

 セリアンが、小さく息を呑む。


 木々のあいだに、今まで存在しなかったはずの一本道が現れていた。無理に切り拓かれたものではない。最初から、そこに“用意されていた”かのような道。


 ミラが、楽しそうに口角を上げる。

「ふふ。やっぱりね。この森、血と気配は誤魔化せない」


 足元から、柔らかな魔力が流れ込んでくる。拒絶ではない。歓迎とも、まだ言えない。


 ――確認。


 森は僕たちを見ている。敵か、味方かではなく。

 “覚えているか”を。

 僕はもう一度、森に向かって息を吸った。


 大丈夫だ。ここは、知らない場所じゃない。

 エルフの森は、静かにその奥を示しながら、僕たちを待っていた。




「――そこのノートリアの……」

 森の奥から、低く澄んだ声が響いた。

「……男、か?」


 一瞬。ほんのわずかな“間”が、空気に落ちる。その沈黙が、妙に気になった。――前にも、こんな間を感じたことがある。


「我らの血が、混じっているな」

 木々のあいだから、姿はまだ見えない。けれど視線だけは、はっきりと感じた。肌をなぞるような、鋭くも冷静な気配。


 セリアンが小さく息を詰める。ミラは肩をすくめて、楽しそうに口元を緩めた。

「ずいぶん率直だね。隠す気もないらしい」


 僕は一歩、前に出る。

「……はい。ノートリアです。でも、父がエルフで――」

「わかっている」

 言葉を遮る、淡々とした声。否定でも、肯定でもない。


「森に入れたということは――」

「お前は、“記録者”として迷っている」


 胸の奥を、指先でなぞられたような感覚が走る。


 ――当たっている。


 反論しようとして、言葉が出なかった。

 記録とは何か。書くとは、残すとは、選ぶとは何か。ここに来るまで、ずっと考えていた。


「……迷っています」

 正直に答えると、森がわずかに鳴った。葉擦れとも、笑いともつかない音。


「ならば、尚更だ」

 枝の影が揺れ、ようやく一人のエルフが姿を現す。長い耳、淡い光を宿す瞳。年齢の読めない、静かな顔。


「森は、答えを与えぬ。だが――問いを、映す」

 エルフは、まっすぐ僕を見た。


「ノートリアの同胞よ。お前は、“何を書かない”つもりだ?」

 その問いは、刃のように鋭く。同時に、どこか懐かしかった。逃げ場はない。けれど、拒まれてもいない。


 森は、まだ――僕を、通すかどうかを量っている。










 正直に言おう。

 俺たちだけだったら、あの森には入れなかった。


 方角は狂う、魔力は散る、音は消える。

 敵がいるわけじゃないのに、進めない。ああいうのが一番、冒険者には厄介だ。


 ……ああ、認めるさ。


 記録者、すげえ。






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