119 【特別編】作っちゃった!?キュリスマスのお礼!?
キュリスマスパーティーの翌朝。
外はまだ薄暗く、日が昇るには少し早い時間だった。
目を覚ました瞬間、空気の冷たさが、いつもと違うことに気づく。
「……寒っ」
布団から顔だけ出して、思わず身をすくめる。昨日までこんなに冷え込んでたっけ。真冬に逆戻りしたみたいだ。
気になって、宿舎の自分の部屋のカーテンを開ける。
「うわ……!」
一面、真っ白だった。
どう考えても、一晩で降りすぎな雪だ。屋根も道も、昨日まで残っていたキュリスマスの飾りも、きれいさっぱり雪に埋もれている。
そして――中庭の中央。
「……え?」
そこだけ、明らかに雪の積もり方が違った。いや、積もっているというより……立っている。
雪だるま……ではない。
丸い甲羅。ずんぐりした体。どこか神々しい、見覚えのありすぎるフォルム。
「雪カッパ様……?」
いや、違う。見覚えがありすぎる。
「……これ、シヴァ・テンスイ様だ!」
かなり精巧に作られた、シヴァ・テンスイ様の雪像だった。改めて見ると、カッパ様ってやっぱり神様に似てるんだな……。
「ちょっと待って。こんなの、自然にできるわけ……」
そのとき。
「えへへ〜」
背後から、聞き覚えのある、軽い声がした。
「朝イチのサプライズ、どう?」
振り返ると、ふわふわと浮かぶ、きゅりの精霊。昨日とまったく同じ、無邪気な笑顔だった。
「まさか……きゅりが作ったのか?」
「うん!」
きゅりは、胸を張る。
「キュリスマス、すっごく楽しかったでしょ? だからね、お礼!」
「お礼で雪像作ることある!?」
「え? そう?」
首をこてんと傾げる。
「みんなが『神様すごかったね〜』って言ってたから、“じゃあ作ろう!”って思って!」
「神様に許可取ったの?……」
「とってないよ!会えないじゃん!」
「夜の雪、いっぱいいっぱい集めてね、“きれいにしよ〜”って言ったら、勝手に形になったの!」
得意げに語るきゅり。……善意100%、自覚ゼロだ。
その瞬間。
東の空が、ゆっくりと白みはじめた。朝陽が昇る。
きらり。
雪像が一斉に光を反射し、まるで内側から輝いているかのようだった。
「わ……光ってる……神々しい!」
「でしょでしょ!」
きゅりがぱちぱち手を叩く。
「朝のひかり、だいすきなんだよ〜!」
すると――
「おまたせ、諸君!……やはり、きゅりか」
低く、呆れたような声が降ってきた。
屋根の上。霜をまとった気配とともに、腕を組んだシヴァ・テンスイ様が立っていた。
「え、すごい!本人来た!?」
「来るに決まっていよう。何があっても楽しもう♪諸君!」
視線が、雪像へ向く。
「信仰が、夜のうちに固められておるのじゃ」
きゅりが、ぴしっと姿勢を正す。
「えっと……よろ昆布かな〜って……」
「……よろこんぶじゃと!?」
しばし沈黙。やがて、シヴァ・テンスイ様は小さく息を吐いた。
「よく出来ておるぞ。形は悪くないのじゃ」
しぶしぶ、といった調子で言う。
「ほんと!?」
きゅりの目が、ぱっと輝く。
「ただし」
シヴァ・テンスイ様は指を一本立てた。
「残しておくと、ややこしいのじゃ!」
「え〜」
「え〜、ではない」
指先を鳴らす。
――ぱきん。
雪像に細かな光の筋が走り、きらきらと雪へ還っていく。
だが、最後に――頭のお皿の、雪帽子だけが、ぽとりと残った。
「それは、きゅりの責任で管理するのじゃ」
「はーい!」
シヴァ・テンスイ様は背を向け、朝の光の中へ溶けていく。
「おぬしらのキュリスマス、楽しそうだったのじゃ!」
振り返らずに、ひと言。
「来年はわっちも混ざろうかの」
静寂が戻る。
「えええ!?」
さっき、ややこしいって言ってたのに……!?
白い庭。さらさらと光る雪。そして、雪のお皿を抱えてにこにこする精霊。
「……きゅり」
「なに?」
「来年のキュリスマスも、よろしくね」
「え? うん! たぶん!」
――たぶん、って。
怖いもの知らずの精霊であった。
雪像事件(?)の後、庭は元どおりの白に戻った。
いや、正確には「元どおりより、ちょっとややこしく」なった気もするけれど。
雪のお皿を抱えて満足そうに飛び回るきゅりを横目に、僕は小さく息を吐いた。
「……サプライズは、嫌いじゃないんだけどさ」
楽しかったのは本当だ。
朝陽にきらきら光る雪。無邪気な善意。精霊らしい、まっすぐすぎる発想。
でも――。
「次があるなら……事前に相談、しような?」
きゅりは聞いているのかいないのか、「はーい!」と元気な返事だけを残して、くるんと宙を回った。
その返事に、少しだけ不安を覚えつつも、僕は苦笑する。
(……たぶん、また何か起きるな)
それでも。
“何も起きない”よりは、ずっといい。
きゅりのサプライズは、少しお騒がせで、そしてちゃんと、僕たちの心をあたためていた。
――だからまあ、次は相談しような。求む、平穏!
――瀬音。




