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おにポチャで転スイ(転生)しました!?  作者: (万寿)ぷりん
第3章

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116 儀式はじまっちゃった!?イヤーカフの非常事態!?






 時を同じくして ――アクア・スパイラル研究塔、最深部。


 円形の祭壇を囲むように、古い文様が床一面に刻まれていた。それは記録でも、正史でもない。削られ、隠され、それでも残った――“闇の系譜”。


 中央で、装置が低く唸りを上げる。


 古き闇の力が、黒い靄となって吸い寄せられていく。螺旋状の水路を逆流するように、闇は集まり、圧縮されていた。


「……美しい」

 研究者のひとりが、恍惚とした声を漏らす。


「これが、アクア・スパイラルの本来の回転か」

「水と闇は、元より同じ流れに属している……」

 祭壇の外縁に立つクルヴは、腕を組み、冷ややかにその様子を見下ろしていた。


「記録師が、少ないようだが?」

 不安を隠しきれない声が問う。

「この規模の闇……制御できるのかね?」


 クルヴは、鼻で笑った。

「制御など、必要ない……犠牲は裏記録師(リ・ノートリア)で十分なはずだ」


 祭壇の端。影の中で、数人の人影が膝をついている。顔は伏せられ、声もない。だが、その身体から、確かに“力”が吸い上げられていた。


「……足りなければ?」


 研究者が、慎重に言葉を選ぶ。


 クルヴは、迷いなく答えた。

「フレクシアも使え。記録としては、あれは“事故死”で通る」


 一瞬の沈黙。

 やがて、くぐもった笑い声が上がった。


「フフフ……そうきたか」

 別の研究者が、愉快そうに肩をすくめる。

「あれに手を出せば、ミラソムは消滅するだろうが」


「構わん」

 クルヴの声は、冷たい。

「都市など、いくらでも作り直せる」


 そのとき。


 ――ぐうん。


 装置が、大きく脈打った。


 床の文様が光り、闇が“形”を持ちはじめる。水と闇が絡み合い、巨大な渦となって祭壇の上に立ち上がった。


「……共鳴、開始」

「動力炉、第二段階へ!」


 誰かが叫ぶ。

「数値が跳ねてる!想定より――」


 言葉は、最後まで届かなかった。


 ――ちり。

 空気が、裂ける音。





 研究塔の一角――外界から切り離された小部屋。


 厚い扉の向こうでは、低く響く振動音が絶え間なく続いている。何かが動き、何かが削られていく音だ。


 薄暗い部屋の壁際に、カルマは腰を下ろしていた。その周囲を、黒い羽根を持つ小さな魔物――黒トンボたちが、音もなく漂っている。

 彼らは喋らない。ただ、カルマの気配に寄り添うように、静かに、静かに。


「……魔物が、安心して暮らせる村を作る夢のために……か……」

 独り言は、ひどく小さかった。


 頭に浮かぶのは、笑っていたセオトの顔。無邪気に走り回っていた魔物たちの姿。

 ――守りたいものは、確かにあった。


 けれど。


 カルマは、ここで何が行われているのか、その全てを知らされてはいない。知っているのは、「必要な仕事」だということと、「名前に残らない役目」だということだけ。


 いつの間にか、彼は“裏の仕事”を任されるようになっていた。


 黒トンボの一匹が、カルマの肩にとまる。羽根が、かすかに震えた。


「……大丈夫だよ」

 自分に言い聞かせるように、カルマは微笑んだ。

「これが、誰かの安心につながるなら……」


 その言葉を、彼自身が一番信じきれていないことを、黒トンボたちは、黙って知っていた。


 やがて――小部屋の奥で、合図の灯りが、ひとつ点る。待機は、終わりを告げようとしていた。



 室内に、短い静寂が落ちた。扉を開けると、その静けさを破るように、廊下の向こうから足音が近づいてくる。現れたのは、公演を見届けたばかりのクロム・リーフだった。


 ――顔色が、明らかに悪い。余裕たっぷりの笑みは影を潜め、頬は青ざめ、額にはうっすら汗が浮かんでいる。


「……ふう」


 思わず漏れた息を、黒トンボが見逃さなかった。


「おじさん、顔色わるいけど大丈夫?」

 カルマのその一言に――


「んなっ!?」

 クロムは勢いよく顔を上げる。

「お、おじさんではない! 支配人と呼ぶように!」


 語気は強いが、どこか切羽詰まっていた。


「支配人でも顔色わるいのは変わらないけど」

「これはだな……芸術的緊張の余韻というやつだ!」


 胸を張ろうとして、クロムはわずかによろめく。黒トンボたちは、無言でそれを見ていた。

 そのとき。

 クロムの耳元。光を吸い込むような、異質な装飾――黒銀のイヤーカフ。


 (……あれは)


 闇に敏感な存在だからこそ、わかる。微弱だが、確かに――“流れ”がある。黒トンボは、カルマへテレパシーを送った。

「……それ、ただの飾りじゃない」


 クロムの指が、ぴくりと動く。無意識の仕草で、イヤーカフを覆い隠すように耳に触れた。


「な、何を見ている。舞台衣装の一部だ。芸術家の嗜みだとも」

 早口だった。

 カルマは、それ以上は追及しなかった。だが、黒トンボは視線を外さない。

 クロムは咳払いをひとつした。


「では私はこれで――」

 踵を返そうとした、その瞬間。


 ――ちり、と。

 微かな音が、空気を裂いた。


「……?」


 黒トンボの羽が、一斉に止まる。


 クロムの耳元で、イヤーカフが淡く光った。黒銀の縁を伝うように、闇色の紋様が浮かび上がり、すぐに消える。遅れて、鈍い鼓動のような振動。


「っ……!」

 クロムは思わず耳を押さえ、よろめいた。

「支配人?」

「……な、何でもない!」

 声が、わずかに震えている。


 だが、黒トンボには見えていた。イヤーカフから、細い“糸”のようなものが伸び、虚空へ溶けていくのを。

 ――儀式は、すでに動き出している。











 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 時間切れで、余韻なしです。






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